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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月20日(金)

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8-12 厄介事に自分から足を踏み入れない


「イチノスさん、教会長がお待ちです。案内しますので着いてきてください」


 冒険者ギルドの若い男性職員に声を掛けられ、俺は現実に引き戻された。


(それと⋯ 連中は無視してください)


 続けて若い男性職員が囁いてくる。

 若い男性職員が囁く『連中』とは、受付カウンターで並んでいる商人達のことだろう。


 俺は何食わぬ顔で、若い男性職員の後に着いて行き、受付カウンターの中へと案内された。


 以前は見掛けなかった衝立を回り込み、2階へ上がる階段の前まで進むが、若い男性職員は階段を上がらず階段脇の扉へと向かった。


 なるほど。

 新たに置かれた衝立は、この扉の存在を受付カウンターから見えないようにする役目か。

 この衝立の奥に消えたならば、受付カウンターからは2階へ上がったかのように見えるのだろう。


 若い男性職員が階段脇の扉を開けると、外の陽が一気に差し込み、その明るい陽射しに目が追い付かない。


 それでも若い男性職員に着いて行き扉の外に出ると、目の前には馬車が3台ぐらいは停めれる馬車止まりが見えた。


 陽射しに慣れてきた目で周囲を見渡す。

 馬車止まりの周囲は高い塀で囲われており、塀の一部は馬車が通れるほどの大きな両開きの門になっていた。

 俺はここを冒険者ギルド2階の外階段から見たことがある。


 ここが若い女性職員が囁いていた


〉見習いは全員が裏で研修中です


 ここがいわゆる、冒険者ギルドの『裏』なのだろう。


「イチノスさん、こちらへ」


 前を行く若い男性職員は、冒険者ギルドの隣に続く建物の扉の前に立っていた。


 こうして冒険者ギルドの裏手から見ると、普段出入りしている冒険者ギルドの建物は、この大きな建物の半分か3分の2程度しか使われていないことがわかる。


「もしかして⋯ イチノスさんは、冒険者ギルドがこうした造りなのを知るのは初めてですか?」


 おっと建物の造りを眺めていて、若い男性職員に疑問を与えてしまったようだ。


「えぇ、初めて知りました」

「そうですか⋯ イチノスさんなら、既にご存じと思い込んでました(笑」


「それにしても面白い造りですね」

「えぇ、ここは以前、ギルドに併設されていた食堂だったんです」


 扉の前に立つ若い男性職員が語り始めた。


「もっと規模の大きな食堂を造ることになって、向かいの大衆食堂が建てられたんです。その後、ここは冒険者や見習い冒険者の研修で使ってるんです」

「なるほど」


「では、ご案内します」


 若い男性職員の開けた扉へ入ると衝立が立てられていた。

 衝立の意匠は、先ほど冒険者ギルドに置かれていたものと同じだ。


 その衝立の間から中を見ると、大衆食堂と同じ様な広いホールになっているのがわかった。

 そして大衆食堂のように、長机と長椅子が5ヶ所ぐらいに置かれている。

 長机と長椅子は以前に食堂として使われていた頃の名残なのだろうか。


 各々の長机に目をやると、見習い冒険者らしき少年少女が4~5人で集まっており、そんな見習い冒険者の群れには、見知った顔の冒険者が一人か二人は着いていた。


 何をしているのだろうかと長机の上に目をこらせば、皆が薬草の選別をしているのがわかる。

 そうか⋯ サノスはここでポーションの原液作りを教えているんだ。


 冒険者と見習い冒険者がこうして同席している光景は、昨日、サノスやロザンナと昼御飯を食べた大衆食堂で見掛けた。

 あの時は始めて見た光景に違和感を覚えたが、今こうして見る光景は至極当たり前に見えてしまう。


 つい足を止めてその様子を眺めていると、若い男性職員から再び問いかけられた。


「もしかして、イチノスさんはこうした光景を見るのは初めてですか?」

「いや、実は昨日も冒険者と見習い冒険者が一緒にいるのは大衆食堂で見たんだが、これは微笑ほほえましい感じですね(笑」

 

「ほぉ~ 昨日大衆食堂で見たんですか?」

「昼時だったかな?」


「それなら問題ないですね。基本的に冒険者の方々は、飲酒する姿を未成年の見習い冒険者には見せません。まあサノスさんは例外ですが(笑」

「そう言えば、サノスは大衆食堂で働いてたみたいですからね(笑」


「あれはワイアットさんとオリビアさんがいたので、皆が黙認していましたね」


 若い男性職員の言葉にサノスを探すが見当たらず、エドとマルコが同じ長机にいるのが見えた。


 あれ?

 一緒に居るのはアベルじゃないか?

 それに白い服は教会長?

 じゃないな、あれはシスターだ。


「師匠!」


 シスターの影から俺を呼ぶ声と共にサノスが顔を出してきた。

 サノスの声に、皆が一斉に俺と若い男性職員へ視線を向けて来る。


「おう! 頑張れよ」

「はい!」


 ここに俺の出番は無い。

 サノスやシスターが居れば十分だ。


「イチノスさん、こちらです」


 再び若い男性職員に促され、衝立と壁で作られた薄暗い通路を進むと、上に昇れる階段が見えてきた。


「イチノスさん、2階でギルマスがお待ちです」


 ギルマスが待っている?

 教会長ではなくギルマスか(笑


 若い男性職員は『教会長が待っている』と言って、ここまで俺を案内してきたが、やはりと言うか当然と言うかギルマスが待っているのか⋯

 教会長とギルマスが一緒に待っているのならば、多分だがキャンディスも一緒だろう。

 魔物討伐状況の公表を中止にした何かが起きて、その件について3人で話し合っているのだろう。


 階段を若い男性職員の後に続き2階へ上がると、1階と同じ様に広いホールが見えてきた。


 そこには長机と長椅子が置かれており、予想どおりの面子と予想外の面子が待っていた。


 ギルマス キャンディス

┏━━━━━━━━━━━━┓

┃            ┃

┃            ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

  教会長  ワイアット


    →階段 俺と若い男性職員


 4人からの視線が俺と若い男性職員へと集まる。


「イチノスさんをお連れしました」

「ご苦労様、案内をありがとう。商人たちはまだ粘ってるかい?」


「まだ何人かが受付カウンターで粘ってます」

「じゃあ、申し訳ないが戻って助けてあげて」


「はい」


 若い男性職員はギルマスの指示に従い、俺を残して階段を降りて行った。

 階段を降りる足音が遠退くや否や、ワイアットが立ち上がった。


「主役のお出ましだな。じゃあ俺は席を外すぞ」

「ワイアット殿、時間を取らせてすまなかった。明日も宜しく頼む」


「良い知らせを楽しみに待っていてくれ。じゃあ、失礼する」


 そう告げるや否や、階段へ向かおうとする。

 そんなワイアットが俺とスレ違う一瞬、俺と目線が合ったかと思うと⋯


 ニヤリ


 こいつ、意味深な笑いをしやがった!


「さて、イチノス殿。まずは座って話を聞いて欲しい」


 思わずワイアットの背を目で追いかける俺に、ギルマスが着席を促してくる。

 その声に、俺は最大の警戒心を込めて先手を打った。


「ギルマス、すいませんが私から先に話をさせてください」

「「⋯⋯」」


 そう告げて、ワイアットが空けた席に座り、ギルマスからキャンディスへと目線を移す。

 やや、キャンディスが緊張した感じで俺を見てきた。

 教会長もキャンディスも俺の次の言葉を待っている。


「討伐中に何かがあった話ならば、ギルドからの公表で知りたい。ここで私が先に聞く話では無いでしょう」


「!!」 キャンディス、顔に出てるぞ。


(あぁ⋯) 教会長、ため息が漏れてますよ。


「ククク⋯ ククク⋯ ハハハ!」


 ギルマスがニヤけた顔で笑い出した。


「い、イチノスさん⋯」


 キャンディスが何か言いたげに俺の名を呼ぶ。


「ほら、言ったとおりだろ? イチノス殿はブレないんだよ」

「ですが、ベンジャミン様、今回の件はイチノス様の協力を貰わないと⋯」

「そうです、さっきも話したとおりにイチノスさんの協力をいただかないと⋯」


「キャンディスさん、それに教会長、これで諦めたらどうですか?(笑」

「「⋯⋯」」


 ギルマスは笑顔を続け、キャンディスも教会長もギルマスを頼る言葉しか口にしない。


 魔物の討伐中に何があったかを俺は知らない。

 だが、討伐状況の公表を中止した程の『何か』が起きたんだ。


 二人には悪いが、そんな事件の様な苦労しそうな厄介事に、自分から足を踏み入れるのはお断りだ。


登場人物

 若い男性職員

 エドワルド(エド)

 マルコット(マルコ)

 アベル

 シスター

 サノス

 ベンジャミン・ストークス(ギルマス)

 キャンディス

 ベルザッコ・ルチャーニ(教会長)

 ワイアット

舞台

 大衆食堂

 冒険者ギルド

  1階

   受付カウンター

   裏側の馬車止まり

   研修場

  2階

   研修場会議室

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