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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月13日(金)

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1-11 伝令依頼と大衆食堂

 

「こちらが掲示板に張り出す依頼書です。確認をお願いします」


 受付の女性から渡された依頼書を眺めて、特に問題が無いことを確認した。


「これで頼む。やはり期限は無しか?」


「期限付きにします?(無駄に依頼料が高くなりますよ)」


 急に彼女がヒソヒソ声で話し掛けてきた。


「いや、通常の伝令依頼で良いだろう(笑」


「はい、料金は必ず確認してください。そうだ! イチノスさん、ギルド会員証は?」


「おっと、忘れてた」


 俺は上着から財布を取り出し、冒険者ギルドの会員証を渡す。


 この冒険者ギルドの会員証は、依頼を受ける冒険者も、依頼を出す側も、冒険者ギルドを利用する全員が示す必要がある。

 ギルドの利用者の身分を示すもので、本人確認にも利用できるものだ。

 財布を出したついでに、掲示板に張り出す依頼書に書かれている料金も一括して支払う。


 国税および領主税 銅貨1枚

 ギルドへの依頼料 銅貨1枚

 冒険者への報酬  銅貨3枚


 今回は伝令の依頼なので、一括での前払いだ。


 これがポーション作成に使う薬草だと依頼書の内容が変わってくる。

 ちなみにポーションとは『疲労回復薬ひろうかいふくやく』の事だ。


 薬草の採取は、冒険者の道を目指す者の入り口とされている。


 見習い冒険者が街の外に出て、定められた薬草を採取してくる。

 それを一括して冒険者ギルドが薬草の状態を判断して買い上げるのだ。

 従って仕事の依頼主は冒険者ギルドとなり、今回の伝令依頼のようなギルドへの依頼料は発生しない。


 また、冒険者ギルドは薬草を欲しがる組織や個人に販売する際に、国税や領主税を乗せて販売し、国と領主に納付している。


 この国では、薬草からポーションを作るのは、俺のような魔導師や回復術師、そして教会の仕事になっている。

 顕著な効果を示すポーションを作れる魔導師は、時として名を馳せる事がある。


 だが、次により良いポーションを作る魔導師が現れると、その情勢が変わってくる。

 そうした背景から、各魔導師はポーションを作る方法や薬草の配合は秘匿としている。


 けれども冒険者ギルドから購入する薬草の量で、ある程度の配合が知れてしまうのも事実だ。

 そうしたことからも魔導師と冒険者ギルド間には、より強く確実な秘匿契約が結ばれている。


「では、規定の料金も受け取りましたので、依頼書を掲示させて頂きます」


 そう告げた彼女が、若い女性職員に依頼書を渡した。

 依頼書を受け取った若い女性職員は、小走りに依頼が張り出される掲示板に向かった。


「イチノスさん、ギルド会員証をお返しします」


 ギルド会員証を受け取った俺は、冒険者ギルドの出口へと向かいつつ、依頼が張り出されている掲示板に目をやる。


(ワイアットさんへ伝令だって)


(えっ? ワイアットさん戻ってるの?)


(戻ってるらしいよ)


 先程の若い女性職員が掲示板に依頼を貼り付ける後ろで、見習い冒険者らしき少年少女が3名、そんな会話をしていた。


 ◆


 さて、どうするか?


 俺は冒険者ギルドの建物を出て、通りの向かい側の大衆食堂を眺めながら思案した。


 俺が冒険者ギルドに顔を出したのは、ワイアットに会えれば良いと思っただけだったのが、思わぬ伝令依頼になってしまった。

 ワイアットに手紙が渡されれば、ワイアットから返事が来るだろう。


 ヴァスコとアベルには、明後日に『水出しの魔法円』を渡すようなことを言ってしまったのを少し後悔した。


 気分転換に冒険者ギルドの向かい側、通りを挟んだ向かい側の大衆食堂へ足を進める。


 この大衆食堂は立地の関係もあり、冒険者の溜まり場になっている。

 冒険者同士が集まり情報交換をする冒険者の社交場的な場所だ。


 仕事を終えた冒険者が集まり、色々な情報が飛び交っている。

 真実味のある話もあれば、それはありえないだろと思える話もある。

 面白いのは東西南北の街道を移動してきた商人も混じっていることだ。


 商人は物資を運ぶだけではなく、東西南北の街道から他の街の情報も運んでくる。

 それらの情報交換にも、この大衆食堂が使われているのだ。


 この大衆食堂、天気の悪い日は満席になることが多い。

 冒険者は天候が優れなければ魔物を狩りにも行けず、商人は雨天での移動を嫌う。

 その為にこの溜まり場な大衆食堂へと、冒険者も商人も足を運んでくるのだ。


 今日は天気も悪くないので、大きな混雑は無いだろうと考えながら、大衆食堂へ足を進めた。


 大衆食堂を覗くと、予想外に混雑していた。

 入り口に立つ給仕頭の婆さんに声をかける。


「よう、婆さん」


「おや、イチノスじゃないか。こんな早い時間にどうしたんだい?」


「早めの夕食にしようと思ったんだが⋯」


「暫くは無理だね。ご覧のとおりに満席だよ」


「わかった。出直すよ」


「ああ、そうしてくれ」


 給仕頭の婆さんに告げて出直そうとすると、冒険者ギルドで見かけた少年が息を切らせて飛び込んできた。

 俺の出した依頼を掲示板で眺めていた見習い冒険者の少年だ。


「おばさん! ワイアットさん居る?」


「昼までは居たよ」


「入れ違いか! おばさん、ワイアットさん何処に行くか言ってなかった?」


「さあ? 知らないねぇ」


「おばさん! ありがとう!」


 そう言って少年は再び走り出した。

 どうやら俺の依頼を受けてワイアットを探しているようだ。


 俺は冒険者ギルドで最初に会った彼から聞いた、ワイアットの行き先候補の『風呂屋』が気になり足を向けることにした。


 既にワイアットは風呂屋には居ないと思う。

 だが、久しぶりに風呂屋へ行きたい気分になったのだ。


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