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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月19日(木)

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7-1 裏庭整備の中止と雇用のお願い

・魔物討伐1日目



 昨日の朝と同じように、階下の店の前で少年少女が会話する声で目が覚めた。


 寝起きの頭で今日の予定を思い出す。

 裏庭の整備で、エド、ロザンナ、マルコの3人が朝から来ることを思い出す。


 俺は着替えを済ませ、階下に降りてお手洗いで用を済ませて顔を洗う。


カランコロン


 作業場に足を踏み入れると、店の出入口に着けた鐘が鳴った。


「おはようございま~す」


 店舗の方から元気な声と共に、サノスが入ってきた。


「サノス、おはよう」

「師匠、おはようございます」


「昨日は留守を預けてすまんかったな。俺が留守の間、店では特に何も無かっただろ?」

「はい。『魔石』とポーションが売れたぐらいです」


 うんうん、店の方はサノスに任せて問題は無かったようだ。

 『魔石』とポーションが売れたのは、ギルドで討伐依頼が出たことでの駆け込みだろう。


「じゃあ、昨日の様子を聞かせてくれるか?」


 俺はそう言って、作業机に置かれた初等教室の教本に手を置く。


「その教本ですね。シスターが教本を持って来てくれました。師匠からの手紙に書いてあったとおりに、寄付も渡しました。それと、ダンジョウさんが本を持ってきました」


 そこまで言って俺が手を置く教本にサノスが目線をやる。


「あれ? ダンジョウさんが持ってきた本は?」

「ああ、その本は俺の部屋だ。受け取ってくれたんだな。ありがとう。これからサノスはポーションの原液作りでギルドに行くのか?」


「はい。ギルドはこれから行きます。その事を師匠に伝えに寄りました。それで⋯ 裏庭の整備は今日も続けますか?」


 裏庭の整備をサノスが聞いてくるが、含みのある言い方だ。


「ん? どういうことだ?」

「昨日でハーブは全て刈り取って、今の裏庭は何も無いんです」


 思い出した。

 完全に思い出した。

 今日は裏庭に畑だか何かを作るとサノスが言っていた。


「今日でなくても良いぞ、サノスの都合で決めて良いぞ」

「じゃあ、今日は私がギルドに行くので3人を見れないから、日を改めます」


 そう言ってサノスが頭を下げると、急ぎ足で店舗から外に出て行った。

 店の前で待っている3人に、今日の裏庭整備が中止になったことを伝えに行ったのだろう。


 いつもの自分の席に座り、初等教室で使う教本をパラパラとめくってみる。


 昨夜、店舗兼自宅に戻ると、シスターが持ってきたであろう初等教室の教本が作業机に積まれて置かれていた。

 その積まれた教本の隣に、ダンジョウが持ってきたであろう『はじめての茶道』と記された本が作業机に置かれていた。


 俺は思わず、ダンジョウから届いたその本を手にし、2階の寝室で読み始めたのだが、そのまま寝落ちしてしまった。


カランコロン


 サノスが戻ってきた音がすると、作業場にサノスと見習い冒険者の少女、ロザンナが顔を出してきた。


「イ、イチノスさん、おはようございます」

「おはよう。ロザンナ」


 ロザンナが緊張混じりに朝の挨拶をしてくる。


「師匠、急ですいませんが後輩の相談を聞いてください」

「後輩の相談?」


 そう言ったサノスが、ロザンナを自分の席に座るように勧めるが、ロザンナは座ろうとしない。

 俺が手を差し伸べ、ロザンナに座るように勧める仕草をすると『失礼します』と軽く頭を下げ、ロザンナが椅子に座った。


「サノス、御茶やぶきたを淹れてくれるか?」

「はい。直ぐに淹れます」


 俺の言葉に反応して、サノスが台所へと向かう。


 作業場に残された俺とロザンナ。


 俺はできるだけ笑顔を作ってロザンナに問いかけようとすると、ロザンナが先に口を開いた。


「イチノスさん。急にお願いしてすいません」

「サノスが言う後輩の相談とは、ロザンナさんのことだね?」


「はい、朝から急な話ですいません」


 ロザンナが丁寧に頭を下げて来る。

 何か固い感じだな。緊張してるのか?


「サノスが御茶やぶきたを淹れてくれるから、それを飲みながら話そう。そんなに緊張しないで(笑」

「はい」


 返ってくるロザンナの返事は、少しだけ緊張が取れた感じになった。


 サノスが両手持ちのトレイに『湯出しの魔法円』とティーセットを乗せて戻ってきた。

 ティーポットに茶葉を入れて『魔法円』に乗せると、サノスが胸元に手を添える。

 反対の手の指を魔素注入口に置くと、ティーポットから湯気が立ち上がる。


「少しだけ待ってください」


 そう言い残してサノスが店舗から椅子を持ってきた。


      俺

   ┏━━━━━━┓

サノス┃      ┃

   ┗━━━━━━┛

     ロザンナ


 店舗から持ってきた椅子に座り、御茶やぶきたを淹れる準備を続けるサノスを脇目に、俺はロザンナに問いかける。


「ロザンナ、相談と言うのはサノスが居ても話せることか?」

「はい、大丈夫です。むしろ、サノスさんにも聞いて欲しいです」


 ロザンナの言葉を聞いて、サノスが俺に微笑んでくる。


「ロザンナ、自分で話せる? 私から話す?」

「自分のことなので、自分から話します」


 そう言ってロザンナが俺の目を見てきた。


「イチノスさん、私を店番で雇ってください」

「⋯⋯」


 俺はロザンナの言葉に直ぐに返事が出来なかった。


 サノスが御茶やぶきたの濃さが均一になるように、俺とサノスのマグカップ、そしてロザンナ用のティーカップへ御茶やぶきたを注いで行く。


 注ぎ終わった御茶やぶきたを出されると、ロザンナは『ありがとうございます』と小声で囁いて口を付けた。

 ティーカップをそっと置いたロザンナに問いかける。


「ロザンナ、緊張せずに気を落ち着けて聞いて欲しい。どうして俺の店で働きたいんだ? サノスのように魔導師を目指してるのか?」

「嘘偽りなく答えます。今の段階で魔導師になりたいとまで、そこまで将来を決めてはいません。魔導師の仕事を知った上で決めたいんです」


「なるほど⋯ 職業選択の一つとして魔導師が候補に上がってると言うわけだな。今は見習い冒険者だよな? 将来の職業候補に冒険者は上がらないのか?」

「無理です。私に魔物討伐は無理です。薬草採取や伝令ぐらいは大丈夫ですけど、魔物の討伐は無理です」


「他に職業候補は何を考えてるんだ? 差し支えなければ教えてくれるか?」

「今考えてるのは、魔導師と魔道具師です」


 魔導師や魔道具師を候補に上げていると言うことは、ロザンナは『魔素』を扱えるのか?


 『魔素』を扱えないのに、魔導師や魔道具師を目指すのは、難しいと言うか⋯ 俺の考えでは困難だと言える。


「イチノスさん⋯ 難しいでしょうか?」

「いや、ちょっと待って。サノス、席を外してくれるか? そうだな店の外の掃除をお願いして良いか?」


 俺はロザンナに『魔素』が扱えるか否かを確認するため、サノスに席を外して欲しくて店の外の掃除をお願いした。

 だが、サノスは目を細めたあの顔で俺を見てきた。


「師匠⋯」

「ん? なんだ?」


「確かにロザンナは可愛いけど、私より年下ですよ~」

「はい?」

「⋯⋯」


「そんなにロザンナと二人になりたいんですかぁ~」

「「⋯⋯」」


 サノス。

 変な勘違いをするんじゃない!


#登場人物と舞台

登場人物

 サノス

 ロザンナ

 エドワルド(エド) 声だけ

 マルコット(マルコ) 声だけ

舞台

 イチノスの店舗兼自宅

  2階

   イチノスの寝室

  1階

   作業場

登場書籍

・『はじめての茶道』


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