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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年5月13日(金)
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1-9 学校時代の教科書が懐かしい


 店の奥の作業場に戻り、本棚から懐かしい本を取り出す。


魔石指南書ませきしなんしょ


 王立魔法学校時代の教科書だ。

 表紙をめくり目次から『勇者の魔石』を探す。

 対象のページを開き、学生時代に戻った気分で読み返す。


◆勇者の魔石


概要

 一般的に、人間種族における勇者の血筋を有する者の『魔素』を含んだ『魔石』を『勇者の魔石』と呼ぶ。

 人間種族以外でも、その種族において勇者と呼ばれる者はおり、その者の血筋を有する者の『魔素』を含んだ『魔石』は、該当種族において『勇者の魔石』と呼ばれることがある。

 本書では人間種族における勇者の血筋を有する者の『魔素』を含んだ『魔石』を中心に記載する。


特徴

 『魔石』の内部光に『勇者の魔素』と同じく黄金色を持つと言われる。


類似

 見習い賢者の魔石


判定

 基礎判定は『魔石光スペクトラル計測』を用いる。

 『魔石光スペクトラル計測』で得られる以下の数値が判定の基礎となる。

  ────

   中略

  ────

効能

 『勇者の魔石』の最大の効能は雄(男子)の出生率の高さにあると言われる。

 また『勇者の魔石』を用いた懐妊を目的とする交尾行為での着床率は顕著な高さを示すと言われる。

 勇者により建国された国家においては、この効能を用いて勇者の血筋を絶やさずに引き継いでいると言われる。


 そこまで読んで、俺は本を閉じた。


「やはり跡継ぎを授かるためか⋯」


 マイクがケユール家を引き継ぎ、盛り立てて行くためには、やはり跡継ぎが必要だと言うことだ。


 フェリスの発案である、『勇者の魔石』をマイクの婚約祝いに贈るというのは『気遣い』だろうか⋯ 誰への気遣いだ?


 魔王国との戦争で亡くなったランドルへの気遣いか?


 それとも、夫となるウィリアム叔父さんの実家であるケユール家への気遣いか?


 ケユール家への気遣いならば、ランドル正妻ダイアンへの気遣いも含まれるのか?


 もしかして⋯

 側室の生まれである俺が、本家筋のマイクへ『勇者の魔石』を贈ることでケユール家内部の結束を高めようというフェリスやウィリアム叔父さんの思惑か?


 いかんいかん。

 どうも、皆がどんな思惑なのかを勘ぐってしまう。

 そもそも、俺がマイクに『勇者の魔石』を贈りたいかどうか、その気持ちの方が大切だ。


 『魔石』を扱うことを生業にしている俺だ。

 マイクへの婚約祝いで『勇者の魔石』は最適な選択だと言えるだろう。


 『勇者の魔石』をマイクへ贈るための、簡単な計画をメモ用紙に書き出してみる。


1.目標

 『勇者の魔石』をマイクに贈る


 ・『勇者の魔石』を入手する

 ⇒購入する

 ⇒作成する

 ⇒判定する

 ⇒試す


 ・『勇者の魔石』をマイクに届ける

 ⇒自分自身で搬送する

 ⇒他者に搬送を依頼する

 ⇒取りに来させる


2.期限

 マイクの叙爵と婚約発表までに

 ・マイクの成人は半年後

 ⇒叙爵公表日付を確認する


 ここまで書き上げて眺め直していると、ガラス窓の外から差す陽射しが傾いているのに気が付いた。


 壁に掛かる時計を見れば、既に夕方の5時を過ぎようとしているし、空腹も感じている。


 そう言えば、ヴァスコとアベルの口調だと、サノスの親父さんのワイアットが街に戻っているような話しだったな。


 ヴァスコとアベルの二人に、俺の店を紹介したのはワイアットだ。

 二人に渡す『水出しの魔法円』について、ワイアットに少し相談するか。

 もしかしたら、今の時間ならワイアットは冒険者ギルドか、向かいの大衆食堂で呑んでるかもしれない。


 よし、夕食を兼ねて出掛けよう。


 そう心に決めて上着を羽織り、無銭飲食にならないように財布の中身を確認し、まずは冒険者ギルドに向かうことにした。


 店の入口に鍵を掛け、冒険者ギルドを目指して歩いて行く。


 リアルデイルの街に差す夕陽が、石畳も街並みも家路に着く人々も、全てを同じ色に染めて行く。


 道路脇の店から歩道に張り出していたテントの類いも片付けられ、すっかり一日の終わりを告げる感じだ。


 梯子と石炭バケツを手にしたガス灯係が偉そうに歩いている。


 このガス灯は、俺が以前に勤めていた『王国魔法研究所』で開発された物だ。


 複数の魔法円を組み合わせて、辺境領で得られる石炭を用い、石炭から『燃える空気=ガス』を取り出すことが出来る。

 その『燃える空気=ガス』をガラスで覆われた灯り口の中で燃焼させて明かりを得る仕組みだ。


 『王国魔法研究所』時代に仕事らしい仕事をしなかった俺だが、このガス灯の開発では少しだけ仕事をした。


 入所して直ぐに、研究所のお偉いさんから俺の知りうる『魔素』効率の最も高い『魔法円』を求められた。


 新卒入所ホヤホヤの俺は、この要望に素直に従い『王立魔法学校』時代の卒論の成果を示すべく、渾身の『魔法円』を描いて提供したのだ。


 俺の描いた『魔法円』は『王国魔法研究所』に革新をもたらし、ガス灯開発の成功に繋がった。


 『魔素』効率が高い『魔法円』は、『魔石』を長持ちさせる。

 また『魔素』保有量の少ない『魔石』の活用を促した。


 このガス灯に用いられている『魔石』も小さいものだ。


 先程の『魔力切れ』を起こしたヴァスコとアベルのような『見習い』が取れたばかりの冒険者でも討伐できる、そんな魔物から得られる大きさの『魔石』で十分なのだ。


 国王やそれを取り巻く文官達、研究所のお偉いさんは、ガス灯の成功から国としての産業とする為に舵を大きく切った。


・辺境領から得られる『石炭』

・石炭から取り出される『燃える空気=ガス』

・そこに使われる『魔法円』

・そして『魔石』


 この4つを国家繁栄のための産業とするべく、大きく舵を切り込んだのだ。


 当然ながら『王国魔法研究所』の様相は変わって行く。


 それまでは純粋に『魔法』の研究をしていたのが、どちらかと言えば『産業化』の為の研究が求められるようになった。

 俺はそんな変貌が強く感じられた『王国魔法研究所』に興味を無くして退職することにしたのだ。


 ガス灯に点火の『魔素』を流し込むガス灯係を見ながら思う。


 こうしたガス灯の設置は、この街のこの国の発展を象徴する物でもある。


 夜の街が明るくなることは治安の向上に繋がり、人々の稼働時間を広げた。

 それまでは、日の出から日没が人々の主たる稼働時間だったのが、日没後も灯りの中で人々が過ごせるのだ。


 こうして自分が関わった物が産業化され、国の発展や人々の生活に寄与して行くのは魔導師として喜ぶべき物なのだろう。


 だが、俺自身の魔導師としての『魔法』や『魔石』や『魔法円』への探求心とは、少し道筋が違うようにも思えてしまうのは何故だろう。


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