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ハイスペ社員、愛を乞う  作者: 印原めぐみ
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独白 side昴

初投稿です。よろしくお願いします。

 こんなことになるなんて、思ってもなかったんだ本当に。

 いつも当たり前にそこにいて、いつまでも側にいてくれると思っていた。


 口に出さなくたって伝わってる、分かってるはず、そう思っていたのは僕だけで。

 僕がなんでこんなに、君との時間を削ってまでがむしゃらに仕事ばかりしているのか、薄々気づいているんじゃないかとさえ思ってた。


 君はいつからか、静かに、でも確実に僕から気持ちが離れていっていたんだね。当然だ。それほど僕は、君との時間を蔑ろにしていたんだ。

 当時の僕はそんな事にも気づかないで、君の心がずっと変わらないってなぜだか思い込んでいて、なんて傲慢で滑稽だったんだろう。


 君がいなくなったこの部屋は、どこもかしこも君の気配に溢れていたのに、君の痕跡はどこにもない。髪の毛一本落とさず、君は僕の前から姿を消した。

 本当に有能だ。


 そうだ、君はとても有能で、けれどそれをひけらかす事なく、誠実に働いていたね。周りへの気配りも上手だったけど、それを気づかせないことはもっと上手だった。

 僕たち営業は、会議で君の資料に何度も救われていたよ。君と同じマーケティング部の奴らは、君がとても仕事がデキるって、一目置いていたよ。君は全く気づいてなかったけれど。


 それだけじゃない。

 普段はわざと目立たないようなメイクや髪型、服装をしていたんだろうけど、シミひとつない白い肌、艶やかで手入れが行き届いた髪の毛、ロゴも何もないけど上質なシャツやコート。ちゃんと見てる奴はいて、君がとても素敵な女性なんだって、僕以外にも気付いてる奴は少なからずいたようだ。


 そんな君の一面を知って、目が追うようになって、フロアにいないと無意識に探すようになって…。

 ある時君が他の奴に微笑んだのを見た時、気づいたんだ。

 僕を…僕だけを見て欲しい。

 僕だけに微笑んで欲しい。


 君に気持ちを打ち明けて、君を困らせてしまったけど、後悔はしなかった。僕を男として見て欲しかったし、君に僕との未来を考えて欲しかった。

 取引先から帰って一息ついていた時、息を切らしてリフレッシュコーナーに駆け込んできて、僕に好きだと言ってくれた君。

 あの時僕がどれだけ嬉しかったか、君に何度も話したけど、本当に伝わっていたのかな。


 初めて2人で出かけた日、こんなにしっくりくる女性がいるのかと密かに驚いたものだ。呼吸が合う…というのだろうか。まったくストレスがない。君が心地よく過ごせるように、君が少しでも喜んでくれるように振る舞うのが、全く苦にならなかった。そして、とても離れがたかった。


 付き合い始めてひと月も経った頃には、一緒に住むことを考えていた。君に出会う前のぼくを知る人間は、誰かと中身が入れ替わったと思うかもしれない。僕が1番驚いていたくらいだ。何しろそれまでの僕は、来るもの拒まず去るもの追わずだが、決して深く踏み込ませることはしなかった。僕は僕のペース、テリトリーを守っていたいタイプだったから。

 それがどうだ。一緒に住むことに明らかに怯む君を何とか丸め込み、同棲に持ち込んだのは僕の方だった。


 君はとても自己肯定感が低い子で、いつも何かに怯えているようだった。過去に何があったのか、いつか話してくれればいいとは思っているが、無理に追求するつもりはない。とにかく僕にできることは、君は君のままでいいと認め続けること、人として尊敬しているということを言葉や態度で示すこと、そしてとにかく甘やかすことだった。

 甘やかされることに慣れていない君は、いつも少し恥ずかしそうにしていたのが、とても愛おしかった。


 それだけで十分幸せだったはずだ。

 そんな些細な幸せを守りながら、ゆっくりゆっくり君と歩んでいけばよかったのか。

 僕が欲を出したから、多くを望んでしまったから、君は僕から去ってしまったのか…。




 どこにもいない君を想って眠れず、朝方ソファで眠り、数時間後に起きて会社に行く日々がもう何ヶ月続いているだろう。

 職場で、取引先で、幾度となく顔色の悪さを指摘される反面、容赦ない仕事ぶりを恐れられたりもしているが、もはやそんなことはどうでもいい。

 人が変わった、仕事の鬼、利益を上げるためには何でもする、最年少部長の記録を狙っている…そんな噂や評判はどうでもいいんだ。


 君がいない。


 それだけが僕から、生きる意味を奪うんだ。

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