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26 残酷だね

 ユニオン兄様と話をした後、私は決意していた。

 アレクト殿下の婚約者となるのを回避するための基本スタンス、『必要以上に関わらない』は変えない。

 そしてアレクト殿下と同じく、フロディン・メルボルトおよびロベルト第二王子殿下とも。


 彼らは私、ユディトにとっては『攻略対象者』だ。

 この世界に好感度のパラメーターが存在するかどうかはわからないけど、あるとしたらきっとこの三人の数値は上がりやすいはず。なぜならばもとがボリューム少なめのブラウザゲーだからね。詳しい内容は知らないけど、こまごました交流イベントとかじゃなくて選択肢一つで大きく数値が上下して分岐しちゃったりする展開だった可能性が高い。

 さすがにそのゲーム通りになるとまでは思っていないものの、何か強制力のようなものが働くかもしれない。少なくともブラウザゲーで採用されていそうな大きなイベントの前は気を付けないといけないわ。

 そんな風に上下する恋心なんて不自然だし、何より私が相手の気持ちを信じられないもの。

 

 でも、その上で私が彼らから愛を捧げる相手として選ばれたならば、その時は、その時の私の気持ちをきちんと相手に話そうと決めた。家の都合で、断れるものではないとしても、それでもちゃんと話し合う努力をする。

 別にそんなことにはならない可能性は十分高いし、そうなった場合に私の気持ちが変わっている可能性だってまあ……なくはないしね。


 まあそういうわけで。

 もうすぐゲーム開始二年目の最初のビッグイベント、豊穣を願う春の祭り、『セレアリア』が行われる。

 そういう大きなイベントの前だから、私は今出来るだけ皆さまを避けている最中だったりする。


 Alice taleでは、アレクト王子ルートに入っていて更に条件を満たしている場合、セレアリアの主役である『春の乙女』役を務めることになる。

 『春の乙女』の役目は、前夜祭でアレクト王子が扮する『春の神』に、前年の秋に収穫された小麦の束を捧げて今年の豊穣を願うというもの。


 通常、春の乙女役はアレクト殿下と同世代で一番家格が高い女性――つまりは我が友人、エイダが務める。

 エイダは家格が高いだけじゃなくてアレクト殿下の婚約者候補を辞退しているので、殿下の婚約者が未決定な現時点では一番適任なのよね。


 Alice taleでアリスが春の乙女を務めるためには、能力パラメーターが一定値を超えていることに加え、一年目の試験結果がトップというかなり厳しい条件を達成している必要がある。

 アレクト王子の攻略に必要っていうよりも、ゲーム二週目以降に挑戦するスチルコンプのためのイベントって感じね。条件達成した場合はエイダが前夜祭直前に熱で倒れて、代役の優秀な女性としてアリスが大抜擢されるのだ。


 ユディトが主役のブラウザゲーの方でどういう展開なのかはわかんないけど、私が殿下の婚約者候補に名を連ねている以上、私を春の乙女役に据えるのはちょっとパワーバランス的によろしくない。

 でも念の為、エイダが体調崩さず健康に過ごせるよう気を使ってはいる。


 な の に。


「それで、話なんだけど……再来週のセレアリアで春の乙女役をエルミニアにやってもらいたいんだ」

「はるのおとめ」


 えっ、何言ってるのこの殿下。驚きすぎて思わずIQ2くらいのオウム返しをしてしまったじゃない。

 ちょっとまって落ち着こう。落ち着くのよユディト。

 アリスがエイダの代役になるのは、エイダが直前に倒れるから。

 えっ、エイダってば再来週倒れることになってんの……?


「あの、春の乙女は昨年に引き続きエイダが務めるのではないのですか?」

「そのはずだったんだけど、エイダから『文字で紡いだ葉を一葉ずつあらため編み直す最後の刻限が近いのです』って言われて……彼女は時々理解しがたいことを言うのだけどここ最近で一番不可解だったよ……。説得はしたんだけど、どうしても今回は都合がつかないらしいんだ」


 文字で紡いだ葉(自作小説のゲラを)を一葉ずつ(チェックして)あらため編み直す(校正・校閲する)最後の刻限(最終〆切)

 そういえば昨日、エイダが「体調が良くって筆が進むから、諦めてた春の新刊行けそう!」って言ってた。

 私、知ってる。

 そういうときのエイダは何があっても譲らない。


 ……エイダ、お前えええぇ!!!

 そして私自身の努力の空回りっぷり!!!!


「急な話になってしまって申し訳ないのだけど、エイダに代わる家柄で優秀な生徒となると君しかいないと皆の意見が一致していて」


 アレクト殿下は本当に申し訳無さそうな顔をしている。王子様にこんな顔されて断れるやつなんて全世界探してもエイダ以外いませんよ……。


「殿下、そんな顔をなさらないでください。たしかに急ですが、春の乙女の役割は小麦の束を殿下にお渡しするだけですもの……覚えるセリフや動作が多いわけでもありませんし……ええ、お力になれるのなら、精一杯、頑張ります」


 そう、小麦を渡して、短い祈りの言葉を唱えるだけ……何万の人の前だけど。

 私の目、後半ちょっと死んでたかもしれないけど、でもアレクト殿下は本当にホッとしたみたいで柔らかい笑顔を浮かべた。うっ、眼福すぎる……。


「本当? なんだかいつも君に頼ってばかりで情けないけど、本当に助かるよ」


 うう……眼福……眼福なんだけど……。


 ああもうだめ、今までそれはアリスの役目だからと一線を引いていたけど。

 ――この世界がAlice taleじゃないと言うなら……アリスという理解者が寄り添わないと言うなら、この人はずっとこんな感じで全ての責任を一人で背負い込んで生きていくのよ。そんなのってあんまりじゃない?


「アレクト殿下は情けなくなんてありません。ご無礼を承知で言わせていただきますが、殿下はむしろ、お一人で頑張りすぎです。今回のことだってエイダの勝手な都合でのキャンセルですし、どう考えても謝罪するべきなのはエイダです。代役を探すのだって関係者全員で取り組むべきことですよね? 私への代役依頼は本来ならば担当者から打診されるものでは? 殿下はご自分でやるとおっしゃって引き受けたのではありませんか?」

「……確かに引き受けたけれど、それは他の者よりも私のほうがエルミニアと面識があるし依頼もスムーズだと考えたからだよ。それに、私はセレアリアの祭事の責任者だから、その進行の中で起こった問題の責任はやはり私が負うべきことだしね」


 殿下の言うことは筋が通っている。

 でも、私が言いたいのはそういうことではないの。


「殿下は優秀ですからその責任の全てを背負うことができるのかもしれません。でも、たとえ一人で全てを背負いきれないとしても、それは罪ではないのですよ、殿下。――こぼれ落ちるものがあることを申し訳なく思う必要などありません。共に背負い、こぼれ落ちるものをすくい上げるために臣下がいるのですから」


 どれだけ優秀でも、全部一人でやろうなんて土台無理な話なのよ。サポートのために優秀な人達を集めているのだからこき使えばいいんだわ。


「もっと臣下を頼ってください。私達はアレクト殿下の努力を存じております。だからこそお力になりたいのです」


 半ば懇願するようにそう言った私を、アレクト殿下は唖然としたような顔でじっと見つめている。

 そしてポツリと呟いた。


「君は、残酷だね」

「え……?」


 残酷!?

 え、もしやなんか地雷踏んだ? ずけずけ言い過ぎた?

 はわわわ……と真っ青になっている私を見て、アレクト殿下は微かに笑った。


「済まない、言葉がまずかったね。君が私の臣下だと、そう言ってくれるのは心強いけれど、少し寂しいなと思ってね」

「……」


 ……ヤバ、本当に地雷踏んでた。

 今私は、自分が臣下であり、殿下と対等ではないのですよ~と、はっきり線引きしてしまったのだ。

 本来の立場上それで問題ないわけなのだけど、アレクト殿下が私に恋情を抱いてくれているのなら――確かに、とても残酷だ。

 ううう、でもここで『友人として力に』なんて言い直すのは更に……オーバーキルな気がする。


 力になりたい助けになりたいと飛び込んだ先が地雷原だったんだけどどうしたらいいですか……教えてアレクト殿下の幼馴染のフロディンさん。

 

 そんな助けを求める私の視線を受けたフロディンは、またもや気まずそうな顔で目をそらした。

 くっ……この……筋肉め!!

 ……いえ、そんな理不尽な八つ当たりをしても仕様がないんだけど。これは、私が向き合わなきゃいけない問題だもの。


 言葉を探して落ちた沈黙を破ったのはアレクト殿下だった。

 彼は柔らかく笑って、私の手を取ると手の甲にキスするような仕草をした。


「でも、ありがとうエルミニア。君が私の努力を見てくれていたことも、そして本気で心配してくれていることも、私は本当に嬉しいんだよ」

「アレクト殿下……」


 やっぱりアレクト殿下は素晴らしい男性だと思う。

 私がこの人の想いに応えられたなら、どんなに良かっただろう。

 だけど、今この瞬間、私がアレクト殿下に感じている感情に名前をつけるならそれは『親愛』であって、決して『恋愛』ではないのだ。


 ズキズキする胸の痛みを抱えたまま、私は寮の入り口まで送ってくれた二人にお礼を言って、去っていくその背中を見送ったのだった。

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