20 Judith tale
Alice tale~世界樹と祈りの詩
の、攻略wiki。
その小ネタまとめページ。
私はAlice taleにかなりハマってやりこんでいたのだけど、実は発売当初はその存在を知らなかった。それを知ったきっかけは好きな漫画家さんがSNSでお気に入りゲームとして紹介してたから。その時点で既に発売から一年以上経ってた。
で、興味を持った私は早速プレイしてみてドはまり。各ルートを攻略して、スチルも隠し要素もコンプ。
私の実力じゃ自力でコンプは無理だったので攻略wikiにはとてもお世話になった。
その小ネタページに書いてあった、過去に公式サイトで公開されていたブラウザゲーム。その名も『Judith tale~聖剣の聖女』。
公開期間はAlice tale発売翌年の四月一日、ただ一日のみ。
つまり、エイプリルフールネタとして作成され公開されていたのだ。
たった一日しか公開しなかったくせにやたら作りこまれたストーリーとゲームクオリティでかなりネット界隈を賑わせたらしいんだけど、その時Alice taleを知らなかった私は残念ながら自分でそれをプレイできなかった。
攻略wikiではそのブラウザゲームの内容や分岐、全エンディングの情報が載っていたものの、私はそれを見るのを我慢していたので詳しい内容は知らない。
ここまで作りこんでるならファンディスクなどに収録されるのでは? というファンの皆さまの予想を信じて、ネタばれを自分に禁じていたのよ。一週目は攻略に頼らずフレッシュな気持ちでプレイしたい派なもので。
でもゲームの概要は知っている。
主人公は他ならぬ、ユディト・エルミニア。つまり、私。
ユディトも結構人気があったらしくって、ユディトとアレクト王子のラブラブが見たい! っていう声はファンの中で結構多かった。それにこたえるような形で作られた…らしい。
で、単純にユディトが王子とラブラブする内容なのかと思いきや、そういうわけではなく。ユディトが主人公となって攻略対象者を攻略する、割と作りこまれた恋愛ゲーだったのだ。
攻略対象者は二人の王子とフロディン。そこにさらに、アリスが加わる。
そう、なんと微百合ルートがあって、それも話題になった要因の一つだった。
もちろんそれぞれのストーリーは短めだったみたいだけど、それでもなかなか遊びごたえがあって好評だったのだとか。
で、今の私の話に戻ります。
今いるこの世界がエイプリルフールネタのJudith taleだったとしましょう。
本編(というべきかどうかは微妙だけど)のAlice taleの方では、アリスが聖女だと判明するのは攻略対象者とくっついた後。攻略失敗して聖女が現れなかった場合、世界は滅びてしまうのが決まり。
つまり、ユディトが主人公としてめでたく王子を攻略してくっついても、アリスが他の誰かとくっついて聖女として覚醒してくれないと世界は終わっちゃう。
手っ取り早くプレイヤーがアリス以外を選んだ場合、アリスは自動的に他の誰かとくっついて聖女として覚醒――って流れにすればいいと思うんだけど、製作者サイドはそれでは納得しなかったらしい。そしてユディトを聖女にするための手段を作った。
多分、その手段が神馬と聖剣なのだ。
アリスは聖女だけど、この世界では覚醒しない。そのかわり、ユディトが選んだ攻略対象者のもとに神馬が現れ、聖剣と徴を託し――攻略成功するとその人がユディトを聖女に選んでくれる…という流れ。
不用意に小ネタページを開いた時にちらっと見ちゃったあらすじから推測するに、そんな感じじゃないかしら。
で、ですよ。
アリスに既に聖剣と徴が託されておりまして。
私、アリスが誰かを攻略するのを助けるつもりで、自分でアリスを攻略してた。
まさかの百合ルート確定です。
ごめん、百合を否定はしないけど私自身その気はないの。
アリスはかわいいと思うけどそういう風には見たことないの!
えー…っと、微百合ってどこまで行くの? 全年齢ゲーだからアレをアレするようなことはないって思うけど。わざわざ『微』百合って評価されてるくらいだし、匂わせ程度だよね?
っていうか、ルート確定は仕方ないとして……ここで攻略失敗して聖女に選んでもらえなかったらかなりまずいのでは。百合っ気がないとか言ってる場合じゃなくね?
いや、その場合アリスが聖女だってことをバラすとか…でもバラしたところで、この世界で本当にアリスが聖女として力を発揮できるのかは怪しい。最悪、私は妄言をはくヤバいやつ扱いされて聖女にもなれず世界がバイバイしちゃうかもしれない。
てことはなんとかアリスを攻略しないといけないってことで…。
――女の子を攻略って一体どうしたらいいんです?
普通にお友達として仲良くすればいいんだろうか。それともあの有名なスール制度みたいな感じを目指すの? ごめんなさいそのジャンル未履修なの…! 知識が! ない!
まあ、未履修で知識がもその気もなかったとしても、私はシドニア先生に恋してしまっている。だから王子二人とフロディンを攻略対象として選ぶことはできなかった。つまり、どうあがいてもアリスルートを選ぶしか世界が存続する方法はなかったのよね。…うっかり私に世界の存亡がかかってたのよ。偶然とはいえアリスルート確定してよかったって思うしかない。前向きに考えよう。
しかし…聖剣の聖女って一体何するんだろう。
剣っていうことは戦うの? アリスが? 私が? 何と?
本編のAlice taleでは、聖女が世界樹に詩を捧げることで世界は救われ、豊穣に満ちた未来を約束されるってことになってる。剣をぶん回すシーンも魔王と戦うシーンもないのよね…。
さあ、本格的に訳が分からなくなってまいりました。こんなことならネタバレどうこう言ってないでちゃんと攻略wiki見ておけばよかった…!
ここにないwikiのことを考えてても始まらない。
今のところのアリスの反応を見る限り、好感度はかなり高い状態なはず。
この状態をこのまま維持なら多分出来ると思う。恋愛感情は持っていないけどアリスのことは好きだからね。しかし、問題はここからさらに踏み込む必要があるのか否か。
恋愛感情がないのに相手にそういうことをほのめかすような言動をするっていうのはかなり心苦しいし、出来ればしたくないんだけど…。
むむむ…――と私が悩んでいるうちに空は白み始めていた。
***
「ユディ、目が赤いしクマが出来てるよ…昨日相談してくれって言ったばかりだったと思うんだけど?」
朝食の後、ユニオン兄様に捕まった私は庭のあずまやに連行され、強制膝枕の刑に処されていた。私がユニオン兄様の腿に頭を乗せて寝る方ね。うーん、兄様ってばそれなりに体を鍛えてるから腿が固くて寝心地が良くない。
「ちょっと色々考えることがあって…」
「それは話せないこと?」
女の子を攻略するのってどうしたらいいの?
とはさすがに聞けない。
「……こちらには恋愛感情がないけど仲良くしたい相手…向こうは好意を持ってくれてる場合に、どう接すればいいのかなと思って」
「ふむ?」
仰向けになってユニオン兄様を見上げながら言った私の言葉に、兄様は片眉を上げた。多分アレクト殿下のことだと思っただろうな。
「そうだなあ…相手とゆっくり話をしてごらん。相手がユディに何を見て、何を望んでるのか。その望みにユディが答えられないと思うならそれは正直に伝えるしかないよね。だってユディだって相手が好きだから誠実でありたいんだろ?」
「うー…そう、そうなんです…そうなんですけど…」
ユニオン兄様はフッと笑って、私の目をその大きな手で覆った。真っ暗になって、ほのかな体温が疲れた目元に心地いい。
「少し休んで、元気になってから考えなさい。疲れてるときに考えることなんて良い結果はもたらさないからさ」
その言葉と共に、私の意識はゆっくりと眠りの底に落ちて行った。




