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17 聖女の称号

ブクマ、評価ありがとうございます!

そして誤字報告いつも助かっております!

「おかえり僕の可愛い妹!」


 玄関ホールで両手を広げたユニオン兄様は、ややウザいテンションで約一年ぶりとなる私の帰りを歓迎してくれた。

 このウザさ、毎日だとさすがの私も食傷気味になってたまに聞こえなかったふりとかしちゃうんだけど、久しぶりだとなんだか安心してしまうから不思議だわ。


「ただいま戻りました。お久しぶりです兄様」

「おかえりなさいユディ」

「アルマ姉様! いらしてらしたんですね」

「ええ、ユディが帰ってくるって聞いたから待ってたの」


 アルマ姉様はユニオン兄様の婚約者で、もうすぐ結婚して義姉になる予定。

 二人は最近では珍しくなってきた親が決めた許嫁なのだけど、昔から仲が良くってそのままゴールインという、理想形のカップルである。

 そしてアルマ姉様は、『悪い人ではないけど結構ウザい』という評価をされがちな兄様をうまく制御して、『悪い人ではないけどややウザい』くらいにとどめてくれている女神なので、私の尊敬する女性ナンバーワンでもあったりする。


「ねえ、ユディはアカデミアの聖女なんだって?」

「御冗談を。ユニオン兄様、あなたの妹が聖女なわけはないではないですか」


 アルマ姉様が聖女って言うならわかる。女神だし。

 しかし誰だ、そんな無責任な噂を領地まで届けたのは。


「そうかな、僕はユディが聖女って言われたら、やっぱりねって思うけど。……ちなみにそれを教えてくれたのは父上だよ」

「おじ様ってば、ユディが聖女って呼ばれているのがとても嬉しかったみたいで、よく手紙にそのことを書いて教えてくださったのよ」


 私は思わず玄関を振り返って、荷物の運び込みの指示で遅れて入ってきたお父様を振り返った。

 お父様は私と目が合うと「何だい、私の天使!」と既視感のあるウザいテンションで声をかけてきた。

 この親あってこの子あり。兄様のウザさはお父様譲りなのよ……。


「お父様、アカデミアの聖女だなんて、そんな学生の噂を兄様に伝えないでください。みんなふざけて呼んでいるだけですから」

「ユディが聖女じゃなかったら、他の誰が聖女になれるというんだい?」

「私よりも優秀な方も慈愛に満ちた方もたくさんいらっしゃいます」

「ユディほど優秀で慈愛に満ちた人物は他にいないさ。それに、この噂を教えてくれたのは宰相殿だよ。陛下たちもご存知らしい」

「さいしょうさまが……」


 そうか。そうよね。

 だって、私の絵姿を販売して厳重注意を受けた学生がいるってアレクト殿下がおっしゃってたもの。

 アカデミア内での犯罪行為の取締は王室の管轄……ってことは、当然陛下も把握されてるってことよね。


 ……我が国の王様に、把握されてたかぁ………。


 想像してみて? 自分の似顔絵が『聖女像』として販売されてたのよ?

 それを国のトップが全員知ってるのよ?

 でも私、聖女じゃないわけよ。あと一年ちょっと経ったらアリスが聖女だってことが発覚するはず。

 そしたら私、元アカデミアの聖女(笑)になっちゃうのよ?

 あの人聖女とか呼ばれてたのに聖女じゃなかったんだってープークスクス

 みたいな目で見られるのよ?(被害妄想)


「ユディは聖女として誰からも愛されているし、きっと、将来的には国民に愛される王妃になるだろうと、最近色々な方からよく言われるんだよ」

「…………」


 『王妃』の言葉に私はぐっと言葉を飲んだ。

 やっぱりお父様は、多分お母様も私がアレクト殿下と結婚することを望んでいるのだ。

 まあそうよね。普通光栄なことだもん。

 ()()なれるように、家を継ぐわけでもない身でいろいろな勉強をさせてもらえてるんだし。

 それに、アレクト殿下だったら、誰が見ても納得の立派な王様になるもの。

 そんな方の隣に立てるなんて栄誉なことだわ。

 ……なんだけど……はあ……。


「お父様。私は自身が『聖女』などという立派な敬称をいただけるほど優れた人間ではないことを、良く分かっているんです。……ですので、そう呼ばれるたび、己の不甲斐なさを指摘されているような気がしてしまって苦しいのです。……それに、王妃は王となる方が選ばれるものです。たしかに私は候補の中では、家柄などの理由で王妃に近い位置にいるかも知れませんが、あまりそのような噂は……他のご令嬢方に失礼に当たりますわ」


 だから、私のこと大事なら聖女って呼ばないでね。ついでに将来の王妃なんて噂捻り潰してね。わかるよね?

 ……って気持ちを込めて、沈痛な面持ちで伝える。


「ユディ……なんて慎み深い……。聖女の称号はそういうお前にこそ相応しいと私は思うが……いや、お前が望まないならもうこの話はやめよう。お前の考えは、それとなく周囲の者に伝えておくよ」

「私もサロンでそのような話になったら、きちんと話しておくわ」

「ありがとう存じます、お父様、お母様」


 とりあえず意図は伝わったみたい。

 なんとか私の望む方向に向い始めた雰囲気に、心の中だけでホッとため息をつく。

 聖女はともかく、王子と結婚したくないですってはっきり言えたら楽なんだけどね……。

 あれよ、お父様は私のお父様である前に、国王陛下の臣下なのよ。

 だから王家から「お前の娘を嫁によこせ」と言われたらよほどの理由がない限りはお断りできないの。

 ――それなのに私がヤダ! って言ったらお父様は板挟みでしょ?

 板挟みになりながら、嫌がってるって分かってる娘を差し出すことになるのよ。

 それは、ちょっとね……。

 なにより、前世の記憶があるっていっても、私も十六年この世界で貴族の娘として生きてきたので、そういうのは許されないでしょって感覚が強い。


 強いけど……強いんだけど……。

 やっぱりどうにか王家嫁入りルートは回避したいから、頑張って王子を落としてほしいのよアリスに!

 もちろん、世界樹が枯れて世界滅亡ってのを回避するのが一番大事だけど。


 ――でもね、私実はだいぶ前から思ってたんだけど。


 アリスって……王子に興味、持ってなくない?

 というか、彼女が攻略対象キャラと交流してるとこ、ほとんど見たことないの。

 王子二人との交流自体はあるけれど、恋愛的な展開は私の知る限りはほぼ皆無。

 フロディンに至っては、どうやらアリスの中は『王子と一緒にいる人』で、ついでに『友達のエリフィアの想い人』って認識っぽいのよ。恋愛対象としてみることはなさそう。

 シドニア先生は……わかんない。

 アリスにも、先生にも、怖くて聞けない。


 ……他の攻略対象はどうかと言うと、ゲームでは一年で卒業しちゃうから一番攻略が難しいって言われてた、二学年上のお色気担当先輩キャラは何のイベントもないまま卒業してしまった。

 一年目である程度好感度上げておかないと、その後一切会えなくなっちゃうのだけど、こっそり確認したところ、アリスは彼の名前すら知らなかったわ。

 残すはあと一人、アリスの同級生にかわいい系腹黒担当キャラがいる。

 けど、今の所ほとんど話もしたことないらしい。


 うむう……一応ね、誰も攻略しないお一人様エンドも存在する。

 それはスチルなしモノローグのみの寂しいエンディングで、アリスは無事学園を卒業しましたが、聖女が現れなかった世界からは世界樹が失われ、滅びの道を歩み始めたのです……っていう情報だけのやつ。

 誰かを攻略しないと聖女であることが判明しないのよね。

 それは困るので誰かしらとくっついてもらいたいんだけど……。


 まあ、今ここで私が頭を悩ませたところでどうしようもないので、私は私で今やれることをしよう。まずは我が家の書庫で聖剣や神馬の伝説を調べるところから。


 そんなふうに密かに決意を固める私をみて、ユニオン兄様とアルマ姉様がチラリと心配げな視線を交わし合っていた事に、その時の私は気付いていなかった。

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