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14 大丈夫?この世界

「ユディト様! お時間頂いてありがとうございます! それに殿下、メルボルト様、本当にありがとうございます。どうぞたくさん召し上がっていってくださいませ!」


 甘い匂いを漂わせるお菓子は、マンゴーのジャムが乗ったクッキーと、マンゴーが入ったマフィン、あとマンゴーソースのかかったババロア。

 えっ、三種類も作ったの?

 パティシエ? アリスは野生のパティシエなの?

 てっきり定番のパウンドケーキとかかな、と思っていたのだけどレベルが違ったわ。

 クッキーはきれいな四角で、格子状に乗せられたジャムが宝石みたいにツヤツヤ輝いている。

 マフィンは生地にペーストのマンゴーが練り込まれていて、自然な甘みとしっとりした食感でいくらでも食べられそう。

 ババロアも甘さのバランスが完璧。


「アリスさん……これは、王都でお店が開けるレベルです……」

「すごいな……マンゴーを見たのは昨日が初めてだと言っていたよね?」

「うま……アスタルテ嬢は天才なのでは?」


 口々に称賛を浴びせる私と殿下たちに、アリスは頬を染めて、持っていたトレーですすす……と顔を隠してしまう。

 かわいいわぁ。思わずニコニコしてしまう。殿下やフロディンもにこやかだ。


「味だけでなく、作る手際も素晴らしかったんですよ!……我が家が出店する予定のスイーツショップのパティシエとして、専属契約していただきたいです!」


 お菓子作りを手伝ったというエリフィアが、興奮気味に語り、そして後半はなんというか、可愛らしいご令嬢と言うよりも、敏腕ショッププロデューサーみたいな空気を漂わせ始めていた。

 この子もこの子で、引き出しが多いわ……。


「これなら、王家御用達も夢じゃないかもなぁ」


 フロディンがのんびりと笑いながらそんな事を言っているけど、多分この子が経営したら本当に夢じゃないと思いますよ。

 よかったね、貴方の嫁は将来有望だよ。


「そんな、皆さん褒め過ぎです……!」


 顔を隠したアリスは、もうトレーを持つ手まで真っ赤になっている。

 だが、「あの……でも……」と、ちょっとだけトレーを下げて顔を半分だけのぞかせた。


「ユディト様が喜んでくれたなら嬉しいです……。いつも助けて頂いてばかりで、私は何もお返しできていないので」


 キラキラした瞳で、ちょっと上目遣いで。

 何そのはにかんだ感じ。あざとすぎない? 天使じゃない? あ、聖女だった。

 もー、なにこれ心臓がバクバクしちゃうでしょ。

 待ってよ、その言葉はアレクト殿下にあげて!

 せめてフロディン……でも私、フロディン×エリフィア推しなんだよね……。

 いや、それはとにかく私は攻略対象じゃないから!

 それに私はアレクト殿下を応援するってさっき言ったばかりだし!

 よおし、頑張るよ!


「お返しなんて、アリスさんが笑顔でいてくれるだけで十分頂いてますよ。――それに、先日の乗馬の件はアレクト殿下がアリスさんのことを気にかけていらしたからお手伝いできたんです。ねぇ殿下?」

「え、ああいや……それを言うなら、ロベルトがアスタルテ嬢のために頑張っていたから、かな」


 うーん、真面目。

 ここは弟を利用して自分を売り込んじゃえばいいのにね。まあ彼の場合そういうところがいいのか。

 ……でももうちょっとぐいぐい行ってもいいと思うのよねー。


「そういえば、ロベルト殿下はもうすぐ馬術の競技会があるとおっしゃっていましたけど、アレクト殿下は応援に行かれるのですか?」

「ああ、学生の競技会に両親が行くと萎縮させてしまうから、代わりと言っては何だけど、私が見に行くことになっているよ」


 あー、学生の大会に陛下と王妃が来てたらビビるよね……。


「実は私も、ロベルト殿下から応援に来てほしいと言われているのです。……よろしければ、アリスさんとエリフィアさんもご一緒しませんか?」

「!……はい、是非!」

「私も一緒でよろしいのですか?」


 目を輝かせて喜ぶアリスと、ちょっと遠慮気味なエリフィア。

 エリフィアの視線は殿下の方をちらちら伺ってるから、王族と一緒に行くの? と遠慮しているのかも。


「ええ、もちろん。アレクト殿下やメルボルト様の近くで一緒に、というわけには行かないと思いますが、声援は多いほうがきっと力になりますもの」


 ニコッと微笑むと、エリフィアも嬉しそうに頷いてくれる。


 馬術競技会はアレクト殿下、ロベルト殿下、それとフロディン各ルートで見せ場イベントがある。

 ロベルト殿下の場合はもちろん優勝して、このトロフィーを君に捧げるよとか言っちゃうデレデレイベント。

 その他のキャラの場合、馬が暴れだしてアリスが怪我をしそうなところに、アレクト殿下orフロディンが颯爽と現れて、暴れ馬に飛び乗り落ち着かせる……という、かっこいい系イベント。

 

 この三人以外のキャラを攻略している場合は、競技会観戦イベントは発生しない。

 観戦に行かずに、他の場所で発生する各キャラのイベントをこなすことになる。

 でも、このまま行けば順調に観戦イベントが発生しそうだし、三人のうちの誰かっ、ていうのは確定かな。



 ……な、はずだったんだけど。

 まさかの、連日の土砂降りにより馬術競技会中止。

 ロベルト殿下なんて本当にしょんぼりしちゃって可哀想だった。

 そりゃそうよ。彼のルートでは最初の大きな見せ場なのよ。

 ――それにしてもこんな展開、私は知らない。

 ゲームでは競技会の観戦イベントが起こらないルートだったとしても、競技会自体が中止になるわけじゃないのよ。

 競技会はやってるけど、そっちには行かずに他キャラと会うってだけ。

 なので、この展開は本当にイレギュラー。

 いや、言ってしまえば今までの展開はすべてイレギュラーではあるんだけど……。

 ここまではっきりとゲーム展開とは違うっていうのは初めてじゃないかしら。

 アリスが何故か落第しそうなことといい、原因はわからないけど、なんだか嫌な感じに話が変わっている気がする。

 せめて情報を集めようと、図書館や資料室にも行ってみたのだけど空振り続き。

 順調に乗馬の試験はクリアできたとアリスが嬉しそうに報告してくれたのだけが、唯一の救いだった。


 そうこうしているうちに、一年目、終了。

 アリスは無事進級するそうです。

 でも、それとなく聞いてみたけど、彼女が誰かを攻略している気配はなく……。

 あれから改めてクロリスに会うこともできていない。


 うーん、大丈夫?この世界……。

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