スキンシップ過多(薔薇。甘め)
夕食が終わり、後片付けも済んだ。
さて、テレビを観るか、本でも読むか。
そんなリラックスした時間のこと。
「颯太さん」
ソファーに座っていた彼が僕を呼び、僕の手を引っ張った。
引っ張って、座らせる。自分の前に。膝と膝の間の狭いスペースに。
そうして、ぎゅーっと後ろから抱き締める。僕の肩には、彼の顎が乗った。
「あの……」
「はい?」
すり、と頬を寄せられる。まるで、大型犬みたいだなぁと思う。
大型犬(というか、犬)飼ったことないけど。
「ちょっと……恥ずかしいんですが……」
「? いえの中です」
「家の中でもです」
心底不思議そうに言う彼に、僕はため息を吐いた。
「その……ご実家でも、こう、だったんですか?」
僕を抱き締めている恋人……トリスタン・メイさん、通称トーリーさんは、英国と日本のハーフだ。
身長約190センチ。焦げ茶色の髪と瞳、白い肌。彫りの深い顔立ちは、なるほどあちらの血が濃くて、こういう風なスキンシップも良く似合う。
対して僕は、日本人の中でも若干低めの167センチ。平凡なザ・日本人顔。髪も黒で、かといってサラサラキューティクルヘアーというわけでもない。
そして、今までの環境も、ザ・日本人。ハグやら何やらのスキンシップは、ほぼほぼ無かった。
つまり、ハグとかほっぺきゅーとかをやって似合う容姿じゃないし、そういう環境でもなかったので、まあ、はっきり言って、照れ臭い。
「そうですねぇ……」
うーんとトーリーさんは宙を仰ぎ見ると、
「小さいころ……あちらにいたときは、そうですね。ふつうでした」
そう言った。懐かしそうな声だ。
「でも、じゅっさいのとき、こちらに引きとられてからは、あまりなかったです。日本ではこういうふれあいは少ないと、母から聞いていましたけど、やっぱりさみしかったです。……だから」
むぎゅーっと、彼が抱き締める腕に力を込めた。
「こうやって大好きな人を、ぎゅーっとできる。とてもしあわせと思います」
囁くように、彼が言う。くすぐったくて、少しぞくぞくする。
彼の低い声が、僕はとても好きだ。
「私の長年のゆめ、です」
えへへ。
その低い声で、けれど、笑う声は何だか少年みたいで。
きゅきゅきゅーん!
少女漫画のあの擬音が、自分の胸から聞こえたような気がした。
「……ずるいよ」
ぽす、ともたれながら、僕は呟いた。
「そんなの、許さざるを得なくなっちゃうじゃないか」
悔しげに言ったというのに、
「颯太さんはやさしい」
トーリーさんは、嬉しそうにそう言った。
「……さて、どうだろうね」
「フフフフ」
僕は、そっぽを向いたけど、トーリーさんは笑ったままだ。
何でもお見通しみたいで余計に悔しくなったので、仕返しのように耳をかぷりと甘噛みしてやった。
END.