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94 疲労


「まあ、何や。お疲れさん。ちょっと、ゆっくりして行き」


 俺とソフィアを椅子に座らせ、リョウジはそう言った。彼は俺達のランクアップのための書類をサラサラと書いている。


「はあ......頭痛がしてきた。これが終わったらその足で三勇帝国に行くのか」


「申し訳ありません。今からでも中止にしますか?」


「いや、ソフィアの言った通り、戦争は嫌だからな。俺は兎も角、ソフィアが行くことにはかなりの意味がある。あるんだけどなあ......」


 分かっている。ソフィアは契約上、俺と離れることは出来ない。三勇帝国に乗り込むには俺が付いていく必要がある。そして、ソフィアの力無しで彼の国に政変を起こすのは難しい。あの国には三人も勇者が居るのだ。

 分かっている。そんなことは分かっているのだが、その前に俺はただの人間だ。勇者でも、不死族でも、勿論、悪魔でもない。エルフの村での一件、此度の内乱、連続で起きた二つの出来事だけでも肉体的、精神的疲労で頭がおかしくなりそうなのに、それらに続けて三勇帝国行きはあまりにもハード過ぎる。


「あんま無理したらあかんで。体の疲労は回復魔法でも中々、取られへんからなあ。ほい、これ、アンタらのメダルな」


 そう言って、リョウジは金色のメダルを俺とソフィアに渡してきた。黒馬に乗った隼、この国の国旗に描かれている絵とGuildの文字が彫ってある。


「あ、ありがとうございます。あ、てか、この絵、『クリストピア王国』の旗の絵ですよね。もしかしたら、変わるんじゃ?」


「そうやねん! それやねん! 『クリストピア王国』でも『クリストピア共和国』でもええんやけどさ。旗変えんといて欲しいわ。作り直しになるから」


 金の含有量がどれくらいかは分からないが、このメダルを作り直すとなるとかなりの費用がかかる筈。リョウジの心配は尤もだった。


「貴方であれば、近衛騎士団長に頼めるのでは?」


「あ、ホンマや。後でクロードに言っとこ」


 国政ってこんなに雑なものなのか。


⭐︎


 ギルドでランクアップの手続きを終えた俺達は王城の門前に向かった。そこで一緒に三勇帝国に行くメンバーと合流する約束をしているのだ。


「お、やっと来たか。うし、少年と黒髪の嬢ちゃんも来たことだし、早く行こうぜ」


 約束の場所に到着して早々、俺達に声を掛けてきたのはクララの側近的存在、ユリウスであった。彼と会うのは丁度、此処、門前でデレックス派と戦っていた部隊の支援をしたときぶりだ。


「サポート役として政府から一人、案内役を派遣するとは聞いていたが、ユリウスのことだったのか。ユリウス、クララの側近だろ? もっと、上の役職に付けられたんじゃなかったのか?」


 俺がそう聞くと、ユリウスは答えづらそうにボリボリと頭を掻いた。


「クララ嬢から副議長の席を貰えそうになったんだがな。俺はそういうの苦手なんだよ。クリストピアのことはクララ嬢に任せて、俺は助けを求める三勇帝国の国民を救いに行きたい」


 根っからの革命家、ということか。


「今日は何処まで行くの? てか、革命って言っても具体的にどうやるの? 私、何も分かんないんだけど」


 不機嫌な様子でユリウスに問うのはフランである。その横にはルドルフの姿もディーノの姿もない。


「まあまあ、落ち着いてくれよ、パツキンの嬢ちゃん。今日はブラモース地方のヴェハムっつう都市まで行く予定だ。ブラモースは長年、クリストピアと三勇が互いに領有権を主張してきた地域でな」


「係争地域、って奴?」


「そそ。住んでる奴の大半はクリストピア人なんだが、歴史的には三勇帝国に支配されてたことが多くてな。この前のデレックスと参の勇者の会談で解決しそうになってたんだが......まあ、な?」


「貴方がたがデレックス政権を転覆、参の勇者に対して敵対したため、その案はご破産になったと?」


 ソフィアの鋭い一言にユリウスが苦い顔をする。


「ま、そういうこった。近衛騎士の管轄であるクリストピアの国境防衛軍の支援でブラモースのクリストピア人が独立宣言したりしてて、割とヤバいんだよ、今。詳しいことは向こうに着いてからな」


「そんな所に俺らは連れて行かれるのか......。てか、王都とブラモースって遠くはないが、馬車使っても一日で行ける距離じゃないだろ。大丈夫なのか? その予定」


「あー、ブラモースと王都の間には道路が走ってるからな。アレに乗っていく」


 そう言ってユリウスが指差した先にあったのは王都に来たばかりの時にも一度見た、金属の乗り物、自動車だった。


「私とコレが飛んだ方が速い気がするけど......」


「は?」


「え、あ、いや、何でもないわ」


 生憎、ユリウスには二人の正体を明かしていないため、飛んで行くというのは難しい。飛行魔法を長時間で使える人間なんて殆ど居ないからだ。それに、高所恐怖症の俺としては出来る限り空の旅は避けたい。


「車の手配はもう済んでるからな。ほら、行くぞ」


 そう言うユリウスに俺達は頷き、クララが手配してくれていたという自動車に乗り込んだ。ユリウスは助手席、俺とソフィアとフランは後部座席に座る。

 そして、自動車は直ぐに大きな音を立てながら出発した。ソフィアに抱かれて空を飛んだことがある俺にとっては少し感動が薄いが、やはり通常の馬車とは比べものにならないくらいに早い。窓から見える景色が直ぐに変わっていく。


「馬車よりもコンパクトで速いとは......道路さえ整備すればこの国の運送に革命を起こしそうですね」


 ソフィアがそう分析すると、ユリウスは助手席から此方へと顔を向け、何度も頷いた。


「そうそう、そうなんだよ! 野菜や魚も輸送時間が短くなるお陰で鮮度を保って輸送しやすくなる。そうなれば、今までは腐るから輸送が不可能だった場所にも輸送が可能になってより国内の一次産業も活気付く。他にも自動車を本格的に導入するメリットは数えられないくらいあるんだ」


「だったら、道路を整備して自動車の製造技術をもっと進歩させれば良いんじゃないか? 国が」


「いやあ、いずれはそうなると良いってクララ嬢も言ってるんだけどな。どうやらそういう具体的な政策は『臨時』国民議会ではなく、国民議会に任せたいらしい」


「そっか。クララ、国民議会の選挙には出ないみたいだしな。あくまで共和制を樹立して、円滑に国民投票で議会を発足させるのが自分の役目だと思ってんのか」


 共和政を樹立し、憲法を制定し、臨時国民議会が解散した後、彼女はどうするつもりなのだろうか。革命の英雄な訳だから幾らでも仕事はあるだろうが......。


「マジで私、肉体も精神も限界よ」


 俺が議長職を失った後のクララについて心配していると、フランが首を回し、自分で肩を揉みながらそう呟いた。


「俺もだよ。てか、不死族でも疲れたりするんだな」


 と、俺はフランに耳打ちする。不死族という単語をユリウス及び運転手に聞かれてはいけないからだ。


「まーね。コイツに体、ぐっちゃぐちゃにされた訳だし。意外と体力使うのよ? 体の再生」


 と、フランも耳打ちしてくる。


「そのような言い方をされるのは心外ですね。契約者に手を出した貴方が悪いのです」


「......アレは爺のせいだし」


 バツが悪そうに目を逸らすフラン。


「爺と言えば、ルドルフは? ルドルフはどうして一緒じゃないんだ?」


 如何なる場合においてもフランの横に居て、フランを守ろうとする、フランの執事兼騎士兼保護者のルドルフの姿が先程から見当たらない。


「あー、爺ね。連れてきたら面倒臭そうだし? 人間を助けるために戦うってのも難色示してたし? そもそも、其処の奴と共闘、ってのが気に食わないみたいだったから置いてきたわ。『私の体を許可なく操った』ことを理由に謹慎させる形で。後、ディーノのこと調べとけって言っといた」


 ......かなり不本意だっただろうな。ルドルフ。


「それにすんなりとルドルフは応じたのか?」


「いや、応じなかったから斧魔法で体一日間縛ってきた」


「お前......」


 ルドルフ、今も体を縛られた状態で放置されているのか。不死族だから肉体的にはどうってことないのだろうが、あまりにも不憫だ。


「ふんっ。アンタと、其処の悪魔のことを殺そうとしたジジイよ? 同情する必要無いわ」


「その通りです。......ソフィアは別にあの時、殺しても良かった」


「それに関してはホントにありがと。爺を助けてくれて。あんなんでも私にとっては親みたいなもんだから。安心したわ」


「......いえ。ですが、契約者を巻き込んだことについては許しません」


「俺は別に許してるんだけどな。肩斬られたのは痛かったけど。俺もルドルフのこと撃ったわけだし」


 アデルから貰ったあの銃が無ければ今頃、俺達は此処に居なかったかもしれない。アデルには本当に感謝しなければ。

 まあ、そもそも、エルフの村に行かなきゃ、王都に行くこともなかったんだが。そう考えると、一連の物語が全て繋がっているようで面白い。


「ああ、ナイスだったわよ、アレ。私、完全に我を失ってたから。アンタに撃って貰って、斧を落としたお陰で自我を取り戻せた。......自我を取り戻した後もコイツに嬲られたけど」


「操られていたのだとしても、契約者に手を出したのだから当然です」


「その契約者はスイッチ入っちゃったアンタのことを必死で止めようとしてたけど? 契約者の意向を無視し、感情に任せて行動するのがクールな悪魔さんの美徳なワケ?」


「・・・・」


「いつも喧嘩してるなお前ら」


 俺は溜息を吐いた。

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