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9 遅めの朝食

昨日、更新できなくてすみません! 色々と忙しかったんです!(免罪符)


 冒険者になるために必要な条件、それは金貨を二枚、ギルドに支払うことだ。条件はそれだけ。勿論、指名手配されているような者は不可能だが逆にそうでなければ出自不明の怪しい者から、純粋無垢な少年までどのような人間でも冒険者になることが出来る。


 そんな、命懸けながらも登録料さえ支払えば殆どの者がなれる冒険者という職業だが当然その強さは玉石混淆。俺のように最弱の魔物の代表格であるゴブリンが精一杯の者もいればソフィアのように黒牙猪(くろきばのいのしし)を素手で倒すような怪物冒険者もいる。そんな冒険者達の強さをランク付けするのがメダル制だ。

 冒険者達には自分達が冒険者であることを証明するための身分証明書としてメダルが渡されるのだが、このメダルの材質は冒険者の強さや働きに応じて変わるのだ。


「弱い方から順に、木製、石製、鉄製、銀製、金製。そして、それよりも上位の強さを持っている魔法使いの冒険者がミスリル製。剣や弓などの物理攻撃を使う冒険者がアダマンタイト製、ですか」


 ギルドの酒場で料理を待ちながら、ソフィアはギルドの職員に渡された冒険者ギルドの説明が記されている紙を読み上げた。その首からは鉄のメダルがぶら下がっている。俺とソフィアはギルドマスターからの推薦で冒険者になったので、木製と石製を飛ばして鉄製のメダルを貰えたのだ。黒牙猪を倒したのは俺ではなくソフィアなのだが黙っておこう。


「みたいだな。木製と石製は早ければ1ヶ月で抜け出せるらしいが鉄製は中々抜け出せないみたいだぞ」


 その証拠にこの国の冒険者の8割は鉄製冒険者だと言われている。そして、何とか鉄製を卒業して銀製冒険者になった者はめでたく上級冒険者と呼ばれるようになるのだ。


「というか、契約者。魔法に秀でる者はミスリル、物理に秀でる者はアダマンタイトと有りますが、魔法剣士のような者はどうなるのですか?」


 ソフィアは紙を机に置いて、水を一口飲むとそんな質問を俺にした。


「ん~分からん。何しろ、アダマンタイトやらミスリルやらっていうクラス自体、昔の名残で有るだけで現在はそんなメダルを持った冒険者は居ないらしいからな」


 銀製冒険者ですらエリート冒険者と言われ、金製冒険者に至っては一つの国に数人しか居ないのだ。それよりも上位の冒険者なんてものがポンポンいたら困る。


「しかし、かつては存在したのですね」


「まあな。後世に語り継がれる英雄として数人は居たらしい」


 俺は諸々の事情があって、学校にはあまり行っていないがそれらのメダルを持つ冒険者は歴史の教科書にも載っていると聞く。


「英雄、ですか......それはあの、八つ首勇者のような?」


 『八つ首勇者』。その言葉がソフィアの口から出てきたことに俺は驚いた。八つ首勇者とは、今から約1000年前に魔族と人間が起こした史上最大の戦争『第一次人魔大戦』において防戦一方だった人間を指導し圧倒的な強さで戦争を終結させた八人の勇者とその末裔を指す言葉だ。


 確かに八つ首勇者は人間からすれば魔族の大群を倒した英雄だ。しかし、その一方で魔族からすれば八つ首勇者は同族を虐殺した憎悪を向けるべき相手の筈。そんな同族を虐殺した者達の名前を躊躇せずにソフィアが言ったことは中々、衝撃的なことだった。


「いや、初代の八つ首勇者の時代には冒険者ギルドが無かったから違う。でも、もし八つ首勇者が生きてたらそうなってただろうな」


「成る程。それではソフィアはこの時代、初めてのミスリル冒険になれるように頑張りますね」


「いや、そんなことしたら国に目を付けられるだろ......」


 何事も本気で取り組む姿勢には感心するが、あまり悪目立ちするのは宜しくない。国にソフィアの出自なんかを調べられたらソフィアの正体がバレてしまうかもしれないのだ。


「.......それもそうですね。では、目立たない程度に契約者のお役に立てるよう頑張らせて頂きます」


「あんまり気負わなくて良いんだぞ?」


 別に俺はソフィアの力を使って富を築こうとしている訳でも無ければ名声を得ようとしている訳でもない。ただ、肩の力を抜いて、ゆったりと平穏な暮らしが出来ればそれで良いのだ。


「そうはいきません。人間界の情報を頂く代わりにソフィアは契約者に尽くす。そういった契約ですので。ソフィアが契約を果たせるように契約者からも命令をお願いします」


 俺が気負うなと言ったそばから、ソフィアは一層気を引き締めた様子でそう答えた。熱心というか、生真面目というか、其処がソフィアの長所でもあり短所なのだろう。配下としては優秀なのかもしれないがパートナーとしては少々、融通が効かず難が有りそうだ。


 そんなことを考えていると、酒屋の従業員がやってきて机に注文した料理を続々と並べていった。酒屋の従業員もこの時間は忙しいのだろう。俺が礼を言うと従業員は頭を下げて、早々と立ち去っていった。


「まあ、兎に角飯を食べよう。朝から色々あって疲れてるだろ。人間は料理を食べる前にこうやって手を合わせて『頂きます』って言うんだ」


 俺は合わせた手をソフィアに見せた。


「言わなければどうなるのですか?」


「いや、別にどうにもならないけど......まあ、礼儀というか挨拶みたいな物だよ。魔界でもありがとうくらい言うだろ? あれと同じ」


 予想外の質問が飛んできて焦ったが、納得してくれただろうか。


「成る程。分かりました。こうですか?」


 ソフィアはきちんと合わさった華奢な手を見せてきた。


「そうそう。それじゃあ、言うぞ?」


「......分かりました」


「「頂きます」」


 俺とソフィアは、もう一度手を合わせると声を合わせてそう言った。こんなに緊張した頂きますは初めてかもしれない。


「契約者、この切り株のような物は何でしょうか? 見たところ粉を使って焼いた料理のようですが」


 ソフィアが指で指したのは輪切りにされたバゲットだった。ソフィアが俺のお勧め料理を食べたいと言ったのでバゲットのモーニングセットを頼んでみたのだ。


「それはバゲットだな。パリパリとした食感のパンだ。付け合わせのチキンスープに浸して食べると美味いぞ」


 バゲットとスープの組み合わせの料理は兵士の寮でも度々出ていたのだがかなり美味かったので毎回楽しみにしていたのを覚えている。


「これが、あのメロンパンやクロワッサンと同じパンなのですか......」


「ああ。食べてみろよ。結構、美味しいぞ」


 ソフィアは初めて見るバゲットに戸惑いながらも、決心したようにそれを掴んでそのまま口へと運んだ。すると、何かに気付いたらしく目を見開きながら必死に口を動かし始めた。


「......契約者」


 何とかバゲットを一つ咀嚼して飲み込むとソフィアは『ジッ......』と此方を見つめてきた。


「どうした?」


「硬いです」


 文句ありげに呟くソフィアを不覚にも可愛いと思ってしまった。


「バゲットだからな」


「こんなに硬いなら前もって言ってくれても良かったのでは?」


「ははっ。悪い。言わずに食べさせたらどんな反応するのか気になって」


 表情は変えなかったものの、面白いソフィアの反応を見ることが出来たので黙っていて良かったと思う。


「......そうですか」


 硬いと言いつつもソフィアは次から次にバゲットを口に運んでいる。やはり噛むのには苦戦しているようだが気に入ってくれたようだ。


「てか、あんなに腕力はあるのに顎の力は無いんだな」


 バゲットを食べるのに苦戦している目の前の少女に、素手で黒牙猪を殴り殺した悪魔の面影は全くない。


「ソフィアは戦闘のとき、魔力をエネルギーに変換してそのエネルギーを体中に行き渡らせ、身体能力をアシストしているのです。今は魔力を行き渡らせていないので顎の力はあまり有りません」


「エネルギーを体中に......って、それマジで言ってるのか?」


「勿論。ソフィアは嘘を吐きません」


 ソフィアは当たり前のように言っているが、魔力によって身体能力を向上させるという技を実用化しているのはこの国ではとある金製メダルの冒険者ただ一人だけだ。その話は非常に有名で、何とかその技を会得しようと研究を重ねる魔法使いも多いと聞く。そんな多くの魔法使いに憧れられている技を扱えるソフィアはやはり異常だ。


 其処で一つの疑問が俺の頭に浮かんだ。それは


『幾ら、魔族と言ってもソフィアは少しばかり強過ぎないだろうか?』


というものだ。

 魔族は確かに、身体能力も魔法の適正も寿命も人間より遥かに上だ。しかし、魔族はドラゴン等の恐ろしい魔物が住む、人間界と魔界を分けている山脈『大結界』を未だに越えられず、人間界を攻めることが出来ていない。いや、越えること自体は不可能ではないのだろうが山を越えている間に人的資源を消耗してしまい侵略することは難しいらしいのだ。


 だが、全ての魔族が皆ソフィアと同じくらいの強さなら大結界くらい簡単に越えられるのではないだろうか。


「......ま、考えても仕方ないか」


 そんなことを知ったところでどうになる話でもない。今はソフィアとの朝食を楽しむことにしよう。


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない。これ食べ終わったら二人で街でも散歩するか。ソフィアも人間界のことを色々知らないといけないんだろ?」


「......そうですね。教えてください。まだまだソフィアの知らないことが有りそうです」


 ソフィアはちっとも笑わない。しかし、その声はほんの少しだけ弾んでいた。

梅食いてえ。あ、評価、ブクマ、感想、レビューお願いします! ……お願い、しましたからね?

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