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88 宜しく


「.......何故」


「覚えていないのか? 俺とソフィアの契約の内容を。『ソフィアは自らが極端に不利益を被らない程度に俺からの命令を遂行する代わりに、ソフィアが俺に人間に関する質問をした場合、俺は答えられるものには答える』みたいな感じだぞ。......一言一句暗記してないけど。ソフィアは今、この項目に違反したんだ。だから、契約魔法が発動してソフィアの体を拘束した」


 俺達の契約では、契約違反の場合、逃げ出すことが出来ないように魔法が発動し、対象者の体を拘束するようになっている。


「一体、何が違反に......」


「『極端な不利益』を被らないのに、命令を拒否したからだ」


「しかし、ソフィアの正体がバレた場合、ソフィアは契約を破棄出来るというのも契約内容の一つですし、正体がバレた状態で貴方と行動を共にするのは明らかに『極端な不利益』です」


「確かに普通は『解約の条項を無視してでも契約を継続しろ』というのはソフィアに『極端な不利益』を被らせる命令であり、従わなくても契約違反にはならない筈だ。でも、契約魔法はソフィアに有罪を言い渡した。その意味が分かるか?」


 俺はかなり満足げな笑みを浮かべながら彼女の言葉を待つ。


「ソフィアにとって契約の継続をしろという命令は『極端な不利益』を被らせる命令ではなかった、ということですか。でも、一体、何故.......あ」


 ソフィアは、ハッとした様子で目を見開いた。そして、彼女は珍しく顔を赤らめる。


「気付いた?」


「......契約魔法の誤作動です、きっと」


 そんなことあるものか。


「おいおい、ソフィア、認めろよ。実際は俺との契約を継続していたかったんだろ? ソフィアの感情を考慮した結果、裁判官(けいやくまほう)様がソフィアには俺が発した命令の遂行義務があると判断したんだからな」


 体が拘束されているソフィアを俺はウザいくらいに煽った。不思議と安堵の溜息が出る。


「......うるさい」


「うるさい!?」


 ソフィアがタメ口を使うのは相当、感情的になっている時だけ。図星だな、これは。


「兎に角、ソフィアが契約違反をした以上、契約者にはソフィアに制限無しで命令をする権利が発生します。その命令は如何致しますか?」


 命令、と言われても特にソフィアにして欲しいことは無い。俺はソフィアとの契約を継続出来るだけで満足だ。とは言っても、こんなチャンス、中々、無い。

 何が要求しておきたい気もする。


「......あのさ」


「はい」


「ソフィアが自主的に俺に何かしてくれない? そっちのが嬉しい」


 俺の言葉にソフィアは首を傾げた。


「何か、とは?」


「それはソフィアが考えて。何でも良いから。それが契約違反の代償」


 この命令は契約違反の代償。制限が無い。本来であれば、ソフィアが『極端な不利益』を被ることになる命令をするのが正しいのだろうが、俺はそんなことはしたくないし、して欲しくない。だからと言って、何か別にして欲しいことがある訳でもない。

 強いて言うならソフィアが俺の為に何が出来るかを考えてくれること、それが彼女にして欲しいことである。


「......分かりました。非常に難しい命令ですが、代償として受け入れましょう」


 ソフィアが頷くと、彼女の拘束が解けた。ソフィアが俺の提示した代償を受け入れたことで、これ以上の拘束は必要無いと契約魔法さんが判断したのだろう。


「何時でも良いからな。ちょっと、考えておいてくれ。......じゃ、これからも引き続き宜しくな」


 俺は笑いながらソフィアに手を突き出した。ソフィアは無言でその手を取る。きっと、俺は嬉しくて、安心して、気が緩んでいたのだろう。

 此処が屋根の上だということを忘れるくらいには。


「契約者!?」


 俺は突如、足を滑らせ、屋根の下へと真っ逆さまに落ちていった。何か、ソフィアと初めて出会って、契約を交わしたあの日もこんなことがあった気がする。あのときは建物が崩れたんだっけか。

 ソフィア、どんなことを俺にしてくれるんだろうなあ。楽しみだなあ。というか、結局、ディーノは何故、あんな所に居たんだろう。何故、ソフィアの居場所を知ってたんだろう。まあ、良いか。後で考えよう。

 加速しながら落下する数秒の間、そんな思考が俺の頭を駆け巡った。これ、走馬灯って奴じゃないか。走馬灯にしては自棄に今日の出来事が多いけど。

 そんなことを考えていると、直ぐに飛んできたソフィアが俺のことをキャッチしてくれた。

 

「ごめん」


 お姫様抱っこをされながら俺はソフィアに謝った。


「いえ、契約者が危なっかしいのは何時ものことですので」


 ソフィアは少し、ツンとした感じで言う。


「正体がバレたのに、それでもソフィアは俺との契約を継続することを望んでくれたんだろ。本当にありがとうな」


「......多数の者に正体が割れたわけでは無いので、これで魔界に帰還するのは勿体無いと思っただけです」


 ソフィアは唇を尖らせながらそう言った。可愛い。非常に可愛い。ソフィアの二つ名を堅物悪魔じゃなくて、ツンデレ悪魔に改名する必要があるかもしれない。


「さいですか」


「このまま議事堂に向かいましょう」


「それ、下にいる人とかに見つかったりしない?」


「透明化の魔法を使用しますので問題ありません」


 やはり、俺の契約相手は優秀である。

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[一言] 正統派ツンデレ
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