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87 契約違反


 もし、神様が居るのなら、この状況を助けて下さい。いや、この際、神様じゃなくても良いです。もう悪魔でも何でも良いから助けて下さい。


「あく、ま......? へ?」


 呆気に取られるクロード。


「スウッ.......。私、喉乾いたので何か飲み物取ってきていいですかね」


 そっと、部屋を離れようとして襟首をクロードにひっ掴まれるクララ。


「いったああああああああああああああああああああ!?」


 黒牙猪の肉を易々と切り裂いたソフィアの手刀を腹にくらい悶絶するフラン。絵に描いたような地獄が俺の前には広がっていた。てか、あれで肉切れないとかどんだけ不死族丈夫なんだよ。


「いもうとさまあ......? 何、逃げようとしてるんです、か?」


「あ、あはははは、クロード様、交渉相手の襟首を引っ掴むなんて如何なものかとオモイマスヨ。ソレニワタシハコクオウノイモウトデス」


「都合の良い時だけ立場を利用しないでくれます? それにクリストピアの姓は捨てたのでは? それにこんな重要なことを言わないでいたとか交渉相手への背信行為では?」


「にゃははは」


「ぶん殴るぞ」


「やだこの子お、怖あい」

 

 不味い。非常に不味い。確かにソフィアの正体が俺以外の者に知られたのは今回が初めてではない。が、エディア達がソフィアの正体を知った理由は俺達が話したからだ。サイズは俺とソフィアが契約をする前からソフィアの正体を知っていたのでノーカンである。

 しかし、今回は完全に『バレた』。それも、ソフィアと契約してから起きたことなのでノーカンではない。ソフィアの正体がバレること、それは俺との契約解除を意味する。......段々と考えるのが嫌になってきた。


「ソフィア......」


「契約ですので」


 茫然とする俺に彼女はそう告げた。先進国であり、人間界にかなりの影響力を持つクリストピア、その軍のトップであるクロードに正体がバレたのだ。もう、終わりだ。


「いや、あの、ソフィア殿、こう聞くのもアレですが、悪魔の方でいらっしゃる......?」


「何ですかその質問」


 クララが溜息を吐き、『あーあ』と言った感じで首を振り、そう言った。


「......その質問には答えかねます」


 最早、肯定でしかないそんな返答をすると、ソフィアは足早に部屋の外へと出ていった。


「おい! ソフィア!」


 俺は慌てて彼女を追いかける。クロード達を放置して部屋から出て良いものかと一瞬、悩んだが、直ぐにその思考は捨てた。俺にはソフィアの方が大切だ。

 しかし、部屋の外にソフィアの姿は無い。俺の背筋が凍る。もし、仮に、彼女がテレポートの類いを使って逃げたのならば俺には絶対に追いつけない。

 俺は何人もの、騎士や革命家、一般人達に質問をした。『黒髪で黒い服の、黒いリボンを付けた、青目の女の子を見かけませんでしたか』と。


「クッソ、魔界までテレポートで瞬間移動したとかは流石に無いよな.......?」


 俺は苛立つ心を宥めて王都を走り周りながら、そんな言葉を吐いた。目撃情報は一切、無い。流石に魔界と人間界をホイホイ行き来できる筈は無いと思うのだが、嫌な予感で頭が溢れかえってきた。


「おーい」


 何処からか、そんな声が聞こえてくる。誰かを呼ぶ声だ。俺のことでは無い筈。気にせず走ろう。


「おーい、オルム君!」


「......え?」


 名指しで呼ばれた俺は流石に振り返らざるを得なかった。


⭐︎


「ソフィアああああああああ! 見つけたぞ!」


 俺は空を見ながら黄昏れているソフィアに対してそう叫んだ。


「.......?」


 ソフィアは暫し此方に視線を移すと、微笑を浮かべて再び空を見た。


「いやっ、無視すんなよ! もう契約者じゃないからって、シカトは酷くないか!?」


 俺がそう抗議すると、彼女は徐に此方に視線を移して


「もしかして、本物の契約者......?」


と、呟くように言った。


「本物だが!? 偽物の俺とか居る訳ないだろ!?」


「......てっきり、幻覚かと。というか、今もそう疑っています」


 ソフィアはそう言うと俺の方に近づいてきて、俺の腕を触った。


「実体ありますね」


「そりゃあな」


「......幻覚扱いして申し訳ありません」


「幻覚を疑うとか、ソフィアでもその類いのものを見ることはあるんだな」


「どうやってここに?」


 俺のからかいをスルーしたソフィアはそう尋ねてきた。まあ、その疑問は出て当然だろう。何しろ、此処は城の屋根の上なのだから。少しでも気を抜けば落ちてしまいそうだ。


「ディーノに運んできて貰った」


「あの取り逃した不死族の......?」


「うん。俺とソフィアに契約を解除されたら面白くないからとか言って」


「理解不能ですね」


「だな」


 ディーノはフランの部下というか、配下の筈。なのに彼はフランを助けるどころか、街をほっつき歩いていたのだ。一体、何がしたいのだろう。


「......それで、契約者は何の御用で?」


 ソフィアは俺から顔を逸らしてそう聞いてきた。分かっている癖に。


「まだ、契約者、って呼んでくれるんだな」


「一応、まだ契約を本当に切った訳ではないので。申し訳ありません。何も言わずにこんなところまで行ってしまって」


「いや、それは良いんだけど、まだ契約を切った訳ではないということは、まだ契約を継続出来る可能性も残されてるのか?」


「......いえ、このままいけば解除になるかと。契約解除の魔法を使っていないだけなので」


 直ぐにその魔法を使わずに、議事堂を飛び出したあたり、ソフィアも少なからず俺との契約解除を躊躇ってくれているのだろうか。だったら、嬉しいが。

 ......試してみるか。


「ソフィア」


 俺は何時もより強い口調でその名前を呼んだ。


「はい」


 俺は深呼吸をし、ソフィアの目をじっと見つめると、口を開く。


「契約者としての命令だ。契約を継続しろ」


 ソフィアとの契約以来、ただの一度も使ったことのない、契約者としての権利『命令』を俺は初めて行使した。


「それは、出来かねます」


 ソフィアが俯きながら首を振る。


「そうか。それは残念......」


 俺は溜息を吐きながらも彼女の様子を注視した。俺が賭けたのは此処からだ。すると、突如、彼女の足元に巨大な魔法陣が現れ、彼女の体を拘束した。


「え.......?」


「契約違反だ、ソフィア」


 驚いたように声を漏らすソフィアに俺はほくそ笑んだ。

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