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82 動向


 ドンドンドンドン、と部屋に扉をノックする音が鳴り響く。


「入れ」


「失礼します。三勇帝国側から緊急連絡が入りました!」


「近衛騎士団長か。説明してくれ」


「はっ! クリストピアと三勇帝国の係争地域、ブラモースにてクリストピア人が突如、蜂起を起こし、三勇帝国からの独立を宣言。クリストピア王国に編入を求めています。その背後には三勇帝国の共和制を目指す武装勢力が存在し、旧近衛騎士団直属の国境防衛軍がこれを支援している可能性があるとのことです」


 つい先程、平和的解決を参の勇者様と約束した三勇帝国との領土問題だが、その約束は最悪の形で破られてしまったらしい。


「三勇帝国の方針は」


「蜂起したクリストピア人を殺せば此方との(わだかま)りの原因になる可能性があると判断したらしく、此方の内乱が終結してから我々と協議の後に行動を起こすとのことです」


 三勇帝国の判断にしてはあまりに理性的過ぎる気もするが......。伍の勇者の意思が反映されたのだろうか。


「成る程。そのことについては理解した。それで、印刷機はどうなった?」


「ご命令通り、王都中の新聞社の印刷機を破壊、若しくは此方の管理下に起きました。既に民衆へ我々の正当性を示すための新聞の制作を始めています」


 ニコリとも笑わず、ただ事務的にそう報告する彼に私は頷いた。


「ギルドの出方は」

 

「ギルドに送っていた使者によると、ギルドマスターリョウジはギルドとしての内乱不介入及び中立を宣言。しかし、冒険者が自らの意思でどちら側かに付く場合は止めることも勧めることもしないとのことです」


「そうか......」


 私の頭に過ったのは先程、脱獄が発覚したあの少女と少年。参の勇者が連れてきた時に、少し見ただけだが、あの風貌からして恐らく冒険者なのだろう。


 参の勇者曰く、少女の方はかなりの力を秘めた者らしい。彼のお方にそうまで言わせるその少女がガルニエ側に回るとなると、此方もかなり厳しいものがある。


「相手と此方の戦力は如何程だ」


「はっ。此方の戦力は王都内の治安維持部隊の兵士達及び宰相閣下の軍内親衛組織『一王会』、そして我々に付いた一般兵士によって構成されます。地方にはまだ、乱の実態が伝わっておらず、王都周辺の都市の兵士達は乱への介入を迷っているようなので王都内に限れば数は3師団程でしょうか」


 地方の兵まで巻き込むと、内乱が巨大化し、取り返しの付かないことになるだろう。そうなれば国は荒廃し、他国につけ込まれるような国家にクリストピアが成り果ててしまう。出来れば、王都外の貴族や兵団には今のまま中立を保ってもらいたいところだ。


「一方、敵の兵は近衛騎士、彼方に付いた一般兵士、そして共和制国家の建国を標榜する民衆組織『冠なき我が家』、その党が先導する一般民衆によって大部分が構成されており、数は10師団を上回ると想定されます」


 そう前置きをすると、彼は『しかし』と話を続けた。


「此方には参の勇者様がいらっしゃいます。彼女は味方だけを常時回復させる魔法を展開したり、瀕死の者を忽ち健康体に戻すことが出来ると仰られておりました。戦闘に勝つことはそう難しくは無いかと。何と言っても彼女は八つ首勇者様ですから」


 戦闘には勝てる。では、何が問題か。それは相手側に民衆が参加しているという点だ。王都には私に不満を持つ者が多いが、まだまだ中立の立場をとる者も少なくない。そんな中立派の彼らが共和派に感化され、彼方の味方になる可能性が大いにある。


 民衆の大半が我々を支持しなくなれば、最早、我々は何でもない。ただ、武器を持つ集団となってしまう。国を、王を、形作るのは国民なのだから。しかし、そんなことはさせてはならない。国王陛下を暗殺し、権力の奪取を目論むような組織に国権を渡してはならない。


「何としてでも新聞を大量発刊し。中立層の国民を此方に引き込め。大義は此方にある!」


 私は拳を握りしめ、近衛騎士団長にそう叫んだ。


⭐︎


「いんやあ、幾ら弐の勇者様の頼みでもなあ。ウチとしては内乱に巻き込まれるのなんて御免なんや。クロードには悪いけど、ワイらは中立を保ち続けるって言っといて」


 首を振りながら私にそんなことを言うリョウジ。弐の勇者でエルフ、程度の肩書きにはビクともしない。流石、王都のギルドマスター、と言ったところか。

 しかし、此方も無策でこの場に足を運んだわけではない。私はアルバンに目配せをし、麻袋をリョウジに手渡させた。


「これならどうだ?」


 リョウジは首を傾げながら、麻袋に手を突っ込む。すると、麻袋からは金属光沢を放つ握り拳程の拳銃が姿を表した。


「......これ、銃かいな。えらい、ちっちゃいけど」


「自動拳銃という奴だ。恐らく、人間はまだ作り出していないだろう。引き金を引けば弾が発射され、自動的に弾が装填される」


「更に使用者の魔力を使うことで魔力弾を撃ったり、弾に追尾性能を付与することも出来ます」


 私の説明をアルバンが補足する。


「何か、話聞いとる限り、誰でも魔法が使える道具みたいに聞こえんねんけど」


「その認識は間違っていない。魔法の才が無いものでも扱える様に作っているからな。この銃の製造方法を教える代わりに我々に力を貸してはくれぬか?」


「いや、でも、そんな上手い話がある訳無いやろ......。ちっちゃいし、普通の銃より威力低いんとちゃうん?」


 リョウジは訝しげな表情で此方を見る。失礼な話だ。エルフは人間のように自らの利益の為に嘘を吐いたりはしない。


「普通の銃、がどれくらいの物を想定しているのかは分からないが、少なくとも人間の作る火縄銃と威力は同じくらいだ。あれより遥かに軽く、小さく、追尾性能がある分、命中率も此方の方が圧倒的に高いがな」


 そう言うと、リョウジに私は顔を近づけた。


「話によると、クリストピアは銃の製作技術も普及率も隣国の三勇帝国に劣っているという話ではないか。この銃は世界を変えるぞ? 望むならアサルトライフルにサブマシンガンなんかの作り方も教えてやろう」


 そんな風に迫られたリョウジは大きな溜息を吐き、数回頷いた。


「ワイはギルドマスターや。ギルドという組織が近衛騎士を支持することで冒険者が危険に晒されるかもしれんと考えると、そう簡単にYESとは言えへん。どんだけ、魅力的な交渉を持ちかけられても、や」


「......そうか」


「やから、条件がある。弐の勇者様やったら一般兵の相手くらい易いやろ? この内乱が終わるまでこのギルドを守ってくれ。ほなら、ワイらもアンタらに協力したる。流石にデレックスの連中も冒険者一人一人は襲わん筈や。此処さえ守ってくれたらどうにかなる」


 観念した様子で手を出してきたリョウジの手を私は強く握った。


「有難い......! ギルドは絶対に私が守ってみせる」


「うん。アンタらに手を貸すんはええんやけど、一個だけ質問させてくれへん?」


「何だ?」


「アデルとアルバンはんやったっけ。アンタらエルフは何でこんな醜い人間の小競り合いに参加してんの? 元々、争い続ける人に愛想尽かしたから人の前から消えたんやろ?」


 彼の言葉に私もアルバンも口をつぐんでしまった。確かに私のやっていることは人間達の争いへの加担に他ならない。それは今までエルフが何よりも嫌悪してきたものだ。

 しかし、だからといって私が村の皆に顔向けできないかと言ったらそうではない。むしろ、胸を張って帰れる気がする。


「ソフィアとオルムは知っているだろう」


「え? ああ、うん。昨日、アンタらと会う前に会ったわ。エンシェントドラゴンを倒したとかいう冒険者な。......実はあんま信じてへんけどな。ウカトとエディアが言ってるから信じひんとしゃあないけど」


「そのエンシェントドラゴンは我々、エルフの村に脅威をもたらした魔物なのだ」


 別れたのは数日前なのに、エディアという名前が懐かしく聞こえる。エディアもサイズも元気にしているだろうか。


「はあっ!?」


「我々エルフはそのエンシェントドラゴンをエディアやソフィア、オルムと協力し、何とか倒したのだ」


「エディア、何やってんねんアイツ!?」


 ギルドマスターでありながら、危険な行為に及んだエディアにリョウジはツッコミを入れる。


「その恩人である二人は参の勇者、そして、デレックスに死刑にされかけました。今、あの二人は近衛騎士と協力し、デレックス派と戦っています。恩人を助ける、我々の行動理由などそれだけで十分です」


「何か、ええな。それ。......よっしゃ、分かった。印刷機でも何でも使い。流石に緊急クエストで冒険者を動員するなんてことは出来んけど、ワイらギルドはアンタらを支持するわ」


 私とアルバンは再び、硬い握手を交わした。私達を案内してくれた近衛騎士は早速、新聞の印刷に取り掛かるらしい。

 さて、我々は自分達のやるべきことを全うしよう。恩人のため。

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