8 制裁
「はっ......!?」
ジンは目を見開いて硬直すると、直ぐ様その腕をソフィアの掌から離した。指の骨が折れたのか、もう片方の手で大事そうに殴った方の手を隠している。
「謎の因縁を付けて、暴行を働く、というのは冒険者としてどうなのでしょうか?」
ソフィアは俺達のやり取りを見ていた冒険者に聞く。
「え、俺? い、いや、そりゃあ......」
冒険者は言いずらそうにソフィアから顔を逸らした。恐らくジンとキールはギルドカーストの中でも上位の者なのだろう。当然、冒険者同士の争い事は禁じられていると思うが、二人の手前言いにくいのかもしれない。
「お前ら、馬鹿なことを言ったらこんな風にぶっ飛ばしてやるからな」
キールは突然酒を飲んでいる冒険者達にそう叫ぶと、余所見をしているソフィアの背中に蹴りを入れた。
「ぶっ飛んでいませんが」
しかし、ソフィアは即座に振り向くと自分を蹴ろうとしたキールの足を掴んだ。足を捕まれたキールは必然的に一本足で立つことになり、間抜けな姿を見せている。
「あのスピードの蹴りに対応した!?」
「遅すぎてタイミングがズレるかと思いました」
「ソフィア、あまり挑発しないでくれ。いや、マジで」
喧嘩を売ってきたのは相手なのだから、同情するつもりは無いがこういった自尊心の高そうな相手を挑発すると後々面倒だ。
「クズ共が! 俺達にこんなことをしても良いと思ってるのか!? ギルドに訴えるぞ! って、痛い痛い痛い! クソッ離せ!」
どうやらソフィアがキールの足を掴む力を強めたようでキールは痛そうに叫んでいる。そしてソフィアはその次の瞬間、キールの片足を手から離した。キールは突然、手を離されたことでバランスを崩してコケてしまう。
「いってえ! 何てことしやがるんだ! 慰謝料請求すんぞ!」
何とか立ち上がったキールがソフィアに怒鳴り散らした。
「貴方が離せと言ったのではないですか」
このまま放っておけば、ソフィアと二人の喧嘩はますます凄まじい物になっていきそうだ。
俺がどうしたものかと考えていると、キールとソフィアの横に一人の女性が割って入った。
「キール様、冒険者同士が争うことはギルドのルールで禁止されています。この注意は何度目でしょうか?」
「ああんっ? 聞いてくれよ。今回は俺達、被害者なんだ。見ろよ。俺はこの女に暴力を振るわれて、ジンの奴は骨折だ。ギルド職員として取り締まれよ!」
酷い言い分だ。先にやって来たのは自分達だろうに。ジンに至っては完全な自滅だ。
「ふむ......申し遅れました。私は冒険者ギルド、冒険者取締役のカリーナ・レティクルムと申します」
カリーナと名乗った紫髪の女性は背が高く、引き締まった体をしていた。冒険者取締役、というくらいなので恐らく武術を心得ているのだろう。
「ご丁寧にどうも。オルム・パングマンです」
「ソフィア・オロバッサです」
俺達は大きくカリーナに礼をする。
「オルム様にソフィア様ですね。把握致しました。キール様はソフィア様に暴力を振るわれた、とのことですがそれは真実ですか? これでもキール様は銀級冒険者。とてもでは無いですがソフィア様に黙って暴力を振るわれるようには......」
カリーナが言っているのは恐らく、ソフィアの見た目のことだろう。普通に考えれば14歳程度の非力そうな少女に決して弱くはないキールが負けるとは考えにくい。しかしソフィアはそんなカリーナに涼しい顔で事の顛末を語った。
勿論、喧嘩を売ってきたのは二人の方で此方は正当防衛をしただけだと言う風に。
「それは、事実ですか?」
カリーナは俺に確認をする。
「はい。彼らが因縁を付けて暴力を振るってきたのでソフィアが対処してくれたって感じです」
「成る程。分かりました。失礼ですが、この後の御予定は?」
カリーナは俺に質問を投げ掛けながら、スラスラと紙に何かを記述していった。
「冒険者登録をしにいくところです」
「そうでしたか。しかし、貴方達程の力を持つ者が何故、今頃......」
「ああ、俺はソフィアみたいに強くないんですよ。元は兵士だったんですけど役立たずだったので任を解かれました」
そして俺はカリーナに俺とソフィアの関係についての説明を話した。勿論、話したのは本当の話ではなくソフィアの正体をバレないようにするための偽りの話だ。サイズは簡単に信じてくれたが、やはりギルド職員ともなれば一筋縄ではいかないらしい。
カリーナは俺の顔を怪訝そうに見つめた。
「記憶喪失の強大な力を持った少女ですか......嘘は言っていませんね?」
カリーナはソフィアに優らずとも劣らない鋭い視線を此方に向けてきた。背筋が凍り体が震える。まず、間違いなくこのまま言葉を発したら声が震えて余計に怪しまれるだろう。
そう思い、俺が黙っていると急に鼓動が安定した。今なら動揺せずに話せそうだ。
「勿論です。やましいことは何も有りません。それではそろそろ冒険者登録に行っても良いですかね?」
「......はい、問題有りません。どうぞ。問題のお二方には此方でペナルティを科しておきますので」
「チッ、またか」
「せめて、ペナルティを言い渡されるなら可愛いロリッ娘が良いんだが?」
カリーナは笑顔でそう言うと、二人の男をギルドの裏へと連れていった。カリーナと二人の男の言動や態度から察するに、あの二人はトラブルを頻繁に起こしているようだ。
全く、初めて冒険者になる日だというのについてない。
「契約者。あの冒険者取締役にソフィアとの関係を説明したとき嘘を言っていないかと聞かれて動揺しましたね?」
すると、ソフィアは自らの運の無さを呪っていた俺にそう耳打ちしてきた。
「すまん。分かったか?」
俺は周りに聞こえないよう、小声で返事をした。とは言っても周りには俺達を見ているものは全く居ないのであまり気にしなくて良さそうだが。
「分かったというか、動揺していた契約者の心を魔法で静めたのはソフィアです。急に早口になったり言葉を噛んだりしたら怪しまれますから」
ソフィアの口調は冷たく、俺を責めるようだった。
「ははっ。すまんすまん。分かってるよ」
「反省の色が見えないのですが......まあ、良いでしょう。前にも言いましたがソフィアの正体が人間にバレたらソフィアは契約者を置いて魔界に帰還します。契約者は人間に殺され、ソフィアは十分に人間の情報を魔界に持って帰れない。そんなどちらにも最悪のシナリオを引き起こすことだけは絶対に止めてください」
「ん。善処はする」
俺はそんな曖昧な言葉をソフィアに返しつつ、ソフィアを連れて受付へと向かった。
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