74 他人事
更新遅れてすみません。リアルが少し大変でして.......精神状態が不安定なのでそれに伴って更新間隔も不定期になるかもしれません() 出来るだけ早く更新できるように努力はします_:(´ཀ`」 ∠):
梯子を降りて地下通路を少し進むと、金属製の扉が現れた。埃を被っていて、みすぼらしいとさえ思える。あまり、使用されていないのだろう。
レバーハンドルに手を掛けて開けようとしてみたが、ハンドルは一切、動かない。
「鍵、掛かってるわね。黒パーカー、鍵持ってるわよね? 開けて」
「鍵を渡された覚えはないね」
「は?」
「騎士団長、忘れてたんじゃないかな」
黒パーカーは涼しげな口調で言うが、鍵がないのは普通にヤバい。力づくで破壊することも出来るが、何せ音が響いてしまうため、見回りの兵士に見つかってしまうかもしれない。
「騎士団長、もしかしてポンコツ......?」
ディーノが苦笑しながらそんなことを言う。さっきの黒パーカーとの待ち合わせもそうだが、近衛騎士団長も近衛騎士団も本当に馬鹿なんじゃないの。
「大丈夫。策はあるよ」
そう言うと、黒パーカーはパーカーの内ポケットから何やら怪しい小瓶を取り出した。
「それは何だ?」
「企業秘密。下がっておいてね。危険だから」
アデルの質問に彼女はそう返すと、その小瓶の蓋を開けて、中身の透明な液体をバシャっと扉に掛けた。
すると、金属の扉は熱気を放ちながら、ドロドロと溶け始め、扉に大きな穴が開いた。
「嘘でしょ......」
驚愕する私達とは対象的に黒パーカーは落ち着いた様子でまた別の液体の入った小瓶を今度はパーカーの外ポケットから取り出し、それを扉に振りかける。
「よし、冷えたかな。もう通れるよ。此処」
黒パーカーは扉の真ん中に開いた大きな穴を指さす。
「本当に貴方は何者なんだ......」
アルバン、だったかしら。アデルの部下は青ざめながら、そう言った。
「まあ、物好きな研究者って認識で良いと思うよ」
黒パーカーはそう言うと、早くくぐり抜けろと言わんばかりに自分が薬品で溶かして作った扉の穴をくぐった。私達もそれに続く。
扉の先は埃っぽく、薄暗い部屋であった。幾つもの剣や銃が並べられている。
「というか、この扉どうすんのよ。こんなに穴が空いてたら、侵入者が入りましたってことがバレバレじゃない」
「この部屋は近衛騎士団しか出入り出来ない武器庫だから問題ないよ。問題はこの部屋を出た後だ。この部屋の外の地下通路には見回りの一般兵がウロウロしている」
「もし、見つかったらどうするのだ?」
爺が黒パーカーに聞いた。
「私がどうにかする。......といっても、大勢に見つかったりしたらどうしようもないから、出来る限り、見つからないように行こう」
「ま、もしもの時は僕も魔法で助けるから大丈夫だよ」
ディーノが軽い口調で言う。ディーノは不死族の中でもかなり高位の不死族だ。きっと、彼が居れば大丈夫だろう。多分。
「見つかった場合の行動の確認も終わったことだし、この部屋から出ようか」
皆がコクリと頷くと、黒パーカーは扉のドアノブの内鍵を開けた。私達も彼女に続く。
部屋を出た先には黒パーカーの言っていた通り、横に広がる長い通路があった。先程の部屋とは違って掃除が行き届いており、明るい通路である。
そして、通路の次に私達の視界に入ってきたのは恐怖に慄いた様子の男だった......。
「いや、アンタ誰よ!?」
「そ、それは此方の台詞だ! だ、誰だ貴様らああ!? 侵入者か!? しかし、何処から......」
混乱した様子の男は剣を鞘から抜きながらも狼狽していた。しかし、それも束の間。彼は突然、パタリと倒れた。
「かなり固い帽子を被っていた様だから、頭に怪我はない筈だよ」
黒パーカーはそれだけを述べると、先を急ごうとする。
「ちょちょ、アンタ今、何したのよ!?」
私が慌ててそう聞くと、彼女は細い筒の様なものを見せてきた。
「即効性の麻酔を入れた吹き矢を打ったんだ。心配しなくても良い。成分の殆どは一般に化学物質と呼ばれるものではなく、睡眠魔法を液体に閉じ込めたものだよ。副作用は殆どない。私は魔法とは化学の一部だと思っているから、分けて考えたくはないのだけど」
ニコリともせずにペラペラとそう教えてくれる黒パーカー。いや、口は布で隠れているから表情はあまり良くわからないのだけれど。無表情だということは唯一見えている目からだけでも分かる。
「吹き矢は皮膚に刺さらないと意味がないだろう? 首元に刺すのは危険ではないか?」
アデルの質問は最もだ。首なんかに針を刺したら、刺した場所によっては人は死ぬ。
「この吹き矢の筒には魔法で矢の貫通力を上げる細工がしてある。だから、金属以外なら基本的にどんな服でも貫けるんだ」
......魔法に精通しており、しかも薬品を持ち歩いている。そして、私の正体に恐らく気付いている、か。名のある錬金術師とかなのかしら、コイツ。
「魔法で貫通力を上げる細工ですか。銃にも使えそうな技術ですね」
「悪いけれど、この技術は企業秘密だよ」
目を輝かせるアルバンに黒パーカーはそう告げる。魔界でもエルフは銃が大好きだけれど、こっちのも変わらないのね。
「というか、あの人、あそこに放置しておいて良いの? 他の兵士に見つかったりしない?」
「此処の巡回に当たっている兵士は彼一人だけの様だ。問題ないだろう」
ディーノの質問にアデルは城の兵士の配置などが書かれたという、騎士団長から渡された地図を読みながら言った。
「まあ、地下通路から侵入される可能性など考えておらんだろうからな」
「そういうこと。もう行くよ」
そんなこんなで城への侵入に見事成功した私達はオルム達が捕らえられているという牢を目指した。牢は地下にあるのだがこの地下通路とは繋がっていない為、一度上の階に出てからまた、地下に行く必要がある。見つかる可能性が高いのは、その上の階だろう。
と言っても、正体は不明だが何でもやってのける黒パーカーと魔法が得意なディーノが居るお陰で仮に見つかってもあまり問題はなかった。
「お腹が空いたわ......。何か良い匂いするし」
「この近くは調理室だ。恐らく、食事会で出す食事を作っているのだろう」
「城の門前に数多の人が国賓を国から追い出せと詰めかけているっていうのに、その国賓と呑気に食事会? 余程、この国の指導者は馬鹿なのね。あ、本当に良い匂い......」
糸で引っ張られる様に匂いのする方向へ、ふらふらと私は移動する。
「っ!? フランチェスカ殿!」
すると、爺が叫んだ。
「キャアアアア!」
食事を盆に乗せて、運ぼうとしていた使用人とばったり出くわしてしまったのだ。
「ヤベ。皆、逃げて!」
ディーノは素早く、悲鳴を上げる使用人に近付くと魔法を掛けた。私達は言われた通り、走ってその場から逃げる。
「悲鳴を上げられたのは少し、不味いね。他の人間が集まってきてしまう」
黒パーカーは走りながら淡々と分析した。
「だから、気絶させたり眠らせるんじゃなくて催眠を掛けた! 集まってきた奴らには彼女の口から、『虫が出ただけ』って言うように!」
後から追いついてきたディーノが自分の取った打開策についてそう説明した。
「良くやったぞ! ディーノ!」
「爺さんは剣しか使えない脳筋だもんね!」
「表出ろ若造」
「コラ、喧嘩しないの」
「元はと言えば、フランチェスカが食欲に負けてフラフラ歩いて行っちゃったせいでこうなったんだけどなあ」
「それは......ごめんなさい」
走りながら私は素直に謝った。
「このまま、地下牢まで走って行こう。地下牢には何人も見張りの兵士がいる様だが、黒パーカー殿とアルバンと私が吹き矢でどうにか制圧する!」
アンタも黒パーカー呼びしてんのかよ。
「エルフの射撃能力、期待しているよ」
私達はそうして、地下牢を目指して走った。道中、何人かの兵士に見つかりかけたが、見つかる前に全て吹き矢で眠らせるかディーノが魔法でどうにかした。
いやあ、散々、馬鹿にしておいてあれだけど、黒パーカーを派遣してくれた近衛騎士団には感謝だわ。この娘、めっちゃ有能だもの。
「......姫様、本当に奴らを助けるおつもりですか?」
爺が小さな声で私に聞いてきた。
「アンタ、まだ言ってんの? ここまで来て帰る訳には行かないでしょ」
「しかし、あの人間は兎も角、あの悪魔は我々が殺すべき存在です。だというのに、我々のやっていることはあまりにも矛盾した行動の様で......」
「だ、か、ら、斧を返して貰う為の交渉材料になるって言ってるでしょ!」
声を張り上げて私は言う。あちゃ、皆に聞こえちゃってたかも。
「ですから、悪魔がそんな交渉に乗るとは私には到底、思えませぬ」
「だからって、あの斧が無い限り、あの悪魔を殺すのは絶対に不可能なのよ。あの悪魔を殺したいんでしょ? なら、協力して」
私は小さな声で爺に言う。しかし、爺は顔を少し顰めた。
「無論、私はあの悪魔を葬り去りたくて仕方がありませんが、私よりもあの悪魔を殺したいのは姫様の方では? 今の言葉はあまりに他人事過ぎるというか......」
「うっさい! 良いから行くわよ」
はあ、もう、何か、面倒くさいわ。色々と。