69 大事件
「殺気を感じます」
「え?」
というか、何でそんなものまで感じ取れるんだよ。首切り魔王万能か。
「あそこの店の中に一人、向こうの人混みの中にも三人、殺気を放っている者が......」
「多いな!?」
俺が驚くように声を漏らすと、俺達が来たのとは反対側の道から何人かの騎乗した兵士がぞろぞろと走ってきて笛を吹いた。
すると、先程まで広場に居た民衆達は皆、広場の端の方へ移動し、その兵士達を避ける。
「ルフェーブル様の乗車された車が来るぞ! 道を空けろ!」
そんな風に兵士が叫ぶ。言われた通りに俺達も道を空けるとソフィアが首を傾げた。
「ルフェーブル、とは?」
「ルイズ・アハト・ルフェーブル。三勇帝国の三勇者の中の参の勇者のことだと思う」
いや、三が多いな。
「国賓は参の勇者だったということですか。確かに独裁国家のトップを国賓に招けば反対は起きるでしょうね」
冷静にそう分析するソフィアとは対象的に俺は嫌な予感がして、背中から冷たい汗をかいていた。
「......なあ、ソフィア?」
「はい」
「まだ、殺気は感じるか?」
「はい。先程と同じ位置で殺気を......あ」
ソフィアが何かに気づいた様子で声を漏らす。恐らく、彼女が今考えていることは俺と同じだ。
「早くこの場からは離れた方が良い」
「.......同意です」
しかし、国賓を一目見ようと集まる人々によって、既に広場は埋め尽くされていて出ようにも出れない状況であった。
国賓の通る道らしい俺達が来た道には人がいないため戻ろうかとも思ったが、既にその道には警備兵が立っており、民衆に道を空けるように叫んでいる。ヤバい。完全に広場に閉じ込められた。
「ど、ど、どうする!?」
「......契約者はソフィアが守ります」
諦めムードじゃないですかヤダー。
「おおおお! 見ろ! 来たぞ!」
民衆達の指す指の先には豪華な自動車に乗車した、これまた豪華絢爛な服を身に纏う女性が居た。
「あれが参の勇者、ですか。勇者とはかけ離れた容姿に見えますが。どちらかと言うと、貴族や王族のようです」
「まあ、勇者の血筋なだけで普通に王族だからな。......さあ、何も起こらなければ良いが」
固唾を呑んで静かにその車を見ていると、突如、何処からともなく......いや、人混みの中から銃弾がその車に向かって放たれた。弾の弾道は見えなかったが、発砲した音が聞こえたので間違いないだろう。しかも、同時に三発程が撃たれた。
たちまち民衆達はパニックになり、悲鳴が至るところで上がった。しかし、警護の兵士含め参の勇者達はどうやら無事だったらしく、慌てながらも車を走らせる。
すると、広場の店に隠れていた一人が車に近付き、銃を撃った。これは俺の目にも弾が見えた。勇者の胸からは血が噴き出す。命中したようだ。が、次の瞬間には血が止まる。参の勇者は死者をも生き返らせると噂される程の回復魔法に特化した勇者だ。あの程度の傷の治癒は余裕なのだろう。
「ソフィア......」
悲鳴を上げる民衆の中、俺は弱い声で彼女の名前を呼んだ。
「契約者、落ち着いてください。ソフィア達には何の関係もありません」
「お、そ、そうだな。国賓の暗殺未遂が起きても俺達には何の関係もないよな!」
そんなフラグのような物を俺とソフィアが一緒に立てた時だった。
「この中に暗殺の実行犯が三人隠れている! 広場にいる者、全員動くな!」
店から飛び出てきた男を銃で撃った参の勇者の護衛兵が民衆に対し、銃を向けてそう言った。しかし、民衆はそれに対し抗議の声をあげる。この民衆達は元から国賓反対派の人間だったらしい。
すると、参の勇者自ら銃を持ち、民衆に構えた。
「煩いですね。......状況が状況ですし、デレックス様も少しくらいなら許して下さるでしょう」
そして、迷うことなく民衆に向けて引き金を引いた。狙いは特に定めていなかったように見える。
しかし、その弾丸は空気中で突如、減速し、地に落ちた。
「......え?」
ルフェーブルは思わず声を漏らし、そして、俺達の方を睨んできた。え? 何? ソフィアもしかして、何かした? いや、したなこれ。めっちゃ睨んでくるもん。俺ですら感じ取れる殺意の濃さだもん。
「貴方ね。今の」
参の勇者がソフィアを睨む。やはり、そうだ。ソフィアが魔法でルフェーブルの銃弾を落としたらしい。腐ってもあの方参の勇者だし、バレるって!
「はい。国賓として招かれた身でありながら無差別にその国の民衆を殺そうとするとは、一体、どういう了見で?」
「私も国賓として招かれた身でありながら殺されそうになっているのです。お互い様でしょう」
「いえ、全く。貴方を殺そうとした方と貴方が今殺そうとした方は別人ですし。悔しければその銃でソフィアを撃ってみれば如何ですか?」
「......!」
また、参の勇者が引き金を引く。しかし、いとも簡単に弾丸はソフィアの魔法で防がれた。気がつけば、ソフィアの周りを何人もの兵士が取り囲んでいる。
「ソレを捕まえて、王城に持っていきなさい。国賓の私に楯突いた無礼な娘ということで。デレックスとの交渉に利用するわ」
気がつくと、辺りにいた民衆の殆どはソフィアの起こした騒ぎに乗じて広場から逃げ出していた。
「ここは大人しく捕まろう。逃げたら面倒臭いことになりそうだ」
俺はそうソフィアに耳打ちをする。ここで逃げて指名手配を受けるより、きちんと裁判を受ける方がマシな気がする。逃げるのは死刑が下ってからでも遅くないだろう。何より、王城にはクロードが居る。どうにかしてくれるかもしれない。
「......申し訳ありません」
ソフィアは彼女らしくない弱ったような声でそう謝った。
「良いって。ソフィアのしたことは正しい」
ソフィアのおかげで罪のない人の命が助かったのだ。確かにちょっと動揺はしたが、ソフィアの咄嗟の行動には感謝したい。
「悪い。俺もコイツと共犯なんだ。捕まえるなら俺も捕まえろ」
そう言って、手を出し、自ら俺とソフィアは拘束されたのだった。




