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61 王都


 その後、色々といざこざはありながらもソフィアとフランは特に大きな争いを起こすことなく三人で空を飛び、王都の少し手前の森に降り立ち、徒歩で王都を目指した。


「契約者、それにあまり近付かないようにしてください。何をされるか分かりません」


 ソフィアはフランを見つめながら、俺の肩を自分の方へ寄せた。俺の右半身とソフィアの左半身とがぎゅっとくっつく。


「失礼ね。私はアンタを殺すことはあっても、無差別に人を殺したりはしないわ」


「信じられません。取り敢えず、契約者はソフィアから離れないで下さい」


 毎度のことながらソフィアがイケメン過ぎる。


「......悪いな」


 俺を守ろうとしてくれるソフィアの気持ちは勿論、本当に嬉しいがそれと同時にフランを悪者にしている状況を気まずく思い、俺はそう言った。

 悪魔陣営でも不死族陣営でもない俺の立場辛すぎない?


「アンタが謝る必要はないわ。ただ、コイツを一回殴らせて」


「戦斧なしでソフィアに勝てる勝算でもあるのですか?」


「そんなの無くても、拳で充分よ。覚悟しなさい……!」


 フランは格闘家のように美しいフォームで素振りをし、ソフィアに殴りかかった。

 しかし、俺から見るとかなり綺麗だったフランのフォームもソフィアから見れば粗が目立ったらしく、ソフィアは少しの動きで彼女の攻撃を受け流した。


「痛っ!?」


 フランはそのまま、勢い余って地面に衝突してしまった。不死族なのだから大事には至らないだろうが、かなり痛そうだ。


「契約者、行きましょう」


「お、おう......」


「あ、待って! 置いてかないで!」



 その後、歩くこと小一時間、俺達は王都シュラフェルトへと到着した。

 初めて来たが流石、王のお膝元というだけあって凄い賑わい振りだ。今の王都は物騒だから気を付けるようにとエディアには言われたが、全然、そんな感じはしない。


「ねえ、あれは何かしら?」


 フランが指差した先にあったものは金属で出来ているらしい、馬が引いていない車だった。馬が引いていなくとも、その車はかなりのスピードで煙を出しながら舗装された道路を走っている。


「ああ、あれは自動車だよ」


「自動車?」


「燃料を燃やして自動で走る車のこと。俺も知識では知ってたけど初めて見た」


「魔導車のようなものかしら。魔力で動くやつ。それだったら魔界でも一般的だわ。形はもっと魔力の回路の都合上、複雑だけど」


「やっぱり、魔界は魔道具が多いんだな」


 人間界にも探せば魔力を動力源にする車くらい有るのだろうが、俺は見たことないし一般的ではないのだろう。そもそも、自動車自体が珍しいからな。


「でも、何であんな便利そうなものが普及していないの? 私、人間界に来てから1ヶ月くらい経つけれど、自動車なんて見たの初めてだわ。私が単純に見過ごしているってのもあるでしょうけれど、それにしても少な過ぎよ」


「自動車が走れる道路が限られてるってのが原因だな。自動車って平らな道じゃないとタイヤが破裂するから専用の道路が必要なんだよ。でも、国がその道路を敷かないから自動車の需要もあまりない。自動車なんて使うのはインフラが発達してて、自動車用の道路がある王都周辺の金持ちや貴族だけだ」


 自動車は馬車よりも圧倒的に速いから新しい交通手段としてかなり良いと思うんだけどな。

 俺は政治を回す立場の者ではないので、よくは分からないが。


「ふうん、教えてくれてありがと。私はそろそろ待ち合わせがあるから行くわ。あ、でも、逃げるんじゃないわよ?」


「ソフィアは貴方を脅威とは思っておりませんので逃げはしません」


「少なくとも、今日は此処に泊まるつもりだから安心してくれ」


「分かったわ。それじゃあね」


 フランはそう言うと、軽やかな足運びで目的地の方向と思われる方へと走っていった。多分、また会うことになるだろうな。勘だが。


「やっと、行きましたか」


 人混みの中へと消えて行くフランにソフィアはため息を吐き、そう言った。


「俺はフラン、あんまり悪い娘じゃないと思うけどな。勿論、それは俺が中立の立場だから言えることであってソフィア達は色々あるんだろうけどさ」


 俺は何を思ったのか、ふと、ソフィアにそんなことを言った。確かに第一印象は最悪だったが、段々と話していくうちに彼女がただただ実直で素直な少女なのだということが分かってきたのだ。常識も兼ね備えているし、話しがしやすい。


「あまり、彼女と関係を持たないよう、お願いします」


 そんな俺にソフィアは冷たい口調でそう言った。


「え?」


「悪魔の上層部は悪魔の敵になり得る存在は隙を見て殺せとのご命令をソフィアに下しました。彼女は敵です。いずれ、殺します」


 彼女の言葉には一筋の迷いも感じられない。

 彼女がサイズの暗殺を踏みとどまったことを考えると奇妙な程にその言葉は潔かった。


「そう、か」


 個人的にはフランとソフィアが殺し合う光景は見たくないし、させたくもないのだがこればかりは仕方がない。


「はい。それでは、ギルドを探しましょうか」


「なあ、ギルドは後にしてその前にパンを買いにいかないか? 食べたがってただろ?」


 俺はソフィアの表情を窺いつつ、そう聞いた。


「結構です。ソフィアに嗜好品の類いは必要ありません。......あれ?」


 やっぱりか。


「どうした? 出会ったばかりの頃のお前みたいなことを言って」


 眉をひそめ、頭に手を当てるソフィアに俺はそう聞いた。


「どうやら、少し寝不足で頭が回っていないようです。そうですね。先にパンを買いに行きましょう」


 完全無欠の堅物悪魔様が寝不足で頭が回らない、なんてことがあるのだろうか。

 そもそも飲まず食わず寝ずでも長期間生きていられる渡り鳥みたいなソフィアに寝不足なんてあるとは考えられない。


「おう。旨いのが有ると良いな」


 一筋の汗が俺の背を伝った。

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