59 悲痛
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「悪魔側には吸血鬼が居ましたからね。先日、ソフィアも連絡魔法で悪魔の戦勝を知らされまましたが、ソフィア無しで不死族の大攻勢を食い止められた理由として吸血鬼側の秘密兵器の存在があるようです。ソフィアも詳しくは知りませんが」
「悪魔側が講和の内容として私を処刑するなり、自分達の手駒にするなりしてくることは不死族も分かっていた。だから、私は講和会議が行われる前に人間界に逃がされたのよ。人間界の不死族を頼れってね。でも、私の頭の中にあるのはソイツを殺すことだけだった。不死族の敗戦は屈辱だけれど、ソイツのいる人間界に来れたのは行幸だったわ。私は一ヶ月以上、人間界を飛び回ってソイツを探し回って遂に今日、見付けたのよ」
恨みがましい表情をフランはソフィアに送った。
「……許せとは言いません」
そう言い、静かに頭を下げるソフィアにフランは近くに転がっていた石を投げつけた。その石はソフィアの顔に命中したが、ソフィアは一つも表情を変えない。
「謝らないで。私だって分かってんのよ! 戦争に悪も正義もないって! もっと言えばアンタは悪魔に作られ、利用された兵器、本来は貴方も同情されるべき存在なのよね。そう、そうだわ。アンタもあの戦争の被害者よ。でもね、私は全部アンタのせいにしておきたいの! アンタがクズで冷徹な虐殺魔ってことにしておけば、私のこの感情はアンタにぶつけることが出来る。だから、だから、謝らないで!」
赤子のようにフランは声を荒らげ、泣きじゃくった。ソフィアに対抗するために作られた不死族側の兵器、歳はソフィアより幾らか若い15歳くらいだろうか。
そんな年端もいかない、少女達が殺し、殺されの戦場で戦って、傷付いている事実に俺は言うに言われぬ気持ちになった。
「契約者」
「......何だ」
「不死族の殲滅は命令でした。上からの命令、契約は絶対の正義にして違えてはならぬ筈、それなのに頭痛がします。気分が悪いです。ヘドロのようなものが心臓に付着したようで、吐き気がします。ソフィアは、どうしたら良いかが分かりません」
暗闇の中でも暗視魔法のお陰でソフィアの表情がよく見える。相も変わらず、表情は殺風景なままだが唇や瞼が痙攣を起こしたように震えていた。
「ソフィア」
「はい」
「悪魔のことも、魔界のことも、この世界のことも、全く知らない俺だ。お前に答えをやれる程に偉くはない。だから、あくまで俺の意見だが......。現状を疑ってみるのは悪くないんじゃないか?」
俺は心を落ち着けるため、軽く息を吐くと更に言う。
「少しでも、それで疑問が沸いてくるようなら更に疑って、自分なりの答えを出してみると良いと思う」
ソフィアは少しずつだが、確実に感情というものを獲得していっている。その感情と今まで教えられてきた教えが矛盾することで彼女はパニックになっているのだろう。
「......フランツィア・アインホルン」
「何よ」
「貴方は謝るなと言いましたね」
「ええ。戦争で散った者への謝罪は侮辱でしかないわ。その死に、意味がなかったということになるから」
何時にも増して、弱々しいソフィアをフランはキッと睨み付ける。
「護国の為に散っていった者は悪魔も不死族も称えられるべきですが、戦争に意味などありません。ソフィアのしたことで不死族は復讐に燃え、悪魔は歓喜に沸きました。それだけが事実であり、ソフィアの起こしたことの客観的な結果です。ソフィアは謝りません。許せとも言いません。許して欲しいとも思いません」
そう言うと、急にソフィアはテントに戻った。そして、リュックを持って戻ってくる。
「お腹、空いていませんか?」
「......は?」
「ですから、お腹、空いていませんか?」
淡々とした口調で伝えられたソフィアの問いにフランは眉を顰める。
「......人間界に来てから、水以外何も口にしていないの。空いてるわ」
「契約者、彼女に食料を与えても良いですか?」
俺が頷くと、ソフィアはリュックから取り出した黒パンにチーズを乗せて、手から出した炎で軽く炙り、フランに差し出した。俺とソフィアが昨日の夜に食べたものだ。
「......何のつもり?」
「パンの美味しさを知って頂きたくて」
「アンタは私の敵、私はアンタの敵よ」
「それと、パンの布教に何の関係が?」
「ねえ、人間。コイツ、頭大丈夫?」
「パンが絡んだ場合は大丈夫じゃない」
俺は即答した。
「はあ......分かったわよ! 頂くわ!」
フランはそう言うと、ソフィアの手からパンを受け取り、ものすごい勢いで食べ始めた。
「お腹、空いてたんだな」
「言ったでしょ。人間界に来てから何も食べていないのよ。不死族でも、食べなきゃ空腹にはなるの。死にはしないけど」
「成る程なあ。ま、いっぱいあるから食べたいだけ食べろよ」
「おかわりはニ枚までですよ。貴方に食料が食い潰されたら堪りません」
「食い潰さないわよ! アンタは私を何だと思ってんのよ! 後、二枚ってまあまあ多いわね!? おかわり!」
ソフィアは二枚目のパンを炙り、フランに渡すと突然、俺に向かって倒れてきた。
「ちょっ、ソフィア!?」
俺は慌てて彼女の体を支える。
「ソフィアはこれで、良かったのでしょうか」
俺の胸に顔をくっつけながらソフィアは尋ねてきた。
「ソフィアの気持ちが楽になったのなら、良かったんじゃないか?」
「......楽になったのかは分かりませんが、不思議と悪い気はしません。ですが、ソフィアは少し、疲れてしまいました」
甘えるようにソフィアは俺の胸に頬擦りをすると、そのまま寝息を立てて寝てしまった。滅茶苦茶可愛いのは確かなのだが、ソフィアが疲れて寝てしまうのは珍しい。何か不眠でも大丈夫とか前に言ってたし。身体的ではなく、精神的な疲れのせいなのだろうか。
「お休み、ソフィア」
俺はそう言うと、ソフィアを担いでテントの中に下ろして布団を被せた。本当に可愛い顔をして寝ている。
「殺し合いした後に、直ぐ寝るとかアイツも中々、良い性格してるわね。おかわり二枚目出来ないじゃない」
ソフィアを寝かしてテントから出てきた俺にフランは不満そうにそう言った。
「悪いな。ソフィアも、ソフィアなりに頑張ったんだ」
「随分とあの悪魔に肩入れしてるわよね、人間。一体、どんな契約を結んだワケ?」
「俺が人間界のことをソフィアに教える代わりに、ソフィアが俺の手伝いを色々してくれるって契約だ。関係としてはパートナー的なものだと思ってくれ」
俺の言葉にフランは『ふうん......?』と興味があるのか、ないのか微妙な相槌を打つ。
「そういえば人間、名前は?」
「オルム・パングマン」
「オルムね。覚えたわ。あの悪魔にオルムは命令を出来る立場にあるのよね? アンタは私をどうするつもり?」
「どうするも何も、フランにこれ以上、俺達と敵対するつもりがないんだったら直ぐにでも解放してやるつもりだよ。その魔法の縄をほどくことが出来るのはソフィアだけだから、明日まで待ってもらわないと駄目だけどな」
俺の言葉にフランは驚いたように目を見開いた
「マジ?」
「マジ。てか、逆に何があるんだよ」
「いや、もっと、ほら、色々とあるじゃない。拷問とかその他諸々? 身体とかをこう、色々触ったり......」
「しねえよ!」
俺がそんなことを言うと、彼女はそれを鼻で笑った。
「悪魔の契約者っていうから、どんな悪辣な人間かと思ったけど、どうしようもないくらいにお人好しな契約者ね。首切り魔王という世界最強クラスの力はアンタには勿体ないわ」
「でも、平和で良いだろ?」
「……ま、それもそうね」
伍芒星ノ魔王、フランチェスカ・アインホルンはそう言って少し笑った。