56 襲撃
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翌朝、俺とソフィアはエディアとサイズの見送りのためにフェアケタットの入り口まで来ていた。エディアは仕事の都合上、帰らなければならないので一緒に帰ることを選んだサイズと彼女とは此処でお別れなのだ。
「お前らも出来るだけ早く帰ってこいよ!」
「ああ。金製メダルを貰ったらトンボ返りするよ。バイコーンを宜しくな。暗鬱の森の前で放してやったら自分で帰っていくと思うから」
「了解。いやあ、バイコーンを貸してくれて助かったぜ」
「でも、君達はどうやって王都まで行くんだい? バイコーンと比べると普通の馬車はかなり遅いが」
心配そうに聞くエディアにソフィアが応える。
「その点に関しましてはソフィアがどうにかするので問題ありません。気にせずにお帰りください」
「そうか。ありがとう。今の王都は色々と物騒だが、気をつけてね。君も頼むよ?」
「ギュイギュイーン!」
エディアの言葉に大きな声で返事をするバイコーン。うん、大丈夫そうだ。
「それじゃあ、行くよ。バイバイ」
「またな!」
「おう、また」
「さようなら」
俺達の別れの言葉を聞くと、二人はバイコーンに引っ張られて帰っていった。これからはソフィアと二人旅か。楽しみだな。
「そう言えば、ソフィア?」
「何でしょうか」
「どうやって王都まで行くつもりなんだ?」
「飛びます」
「え?」
ソフィアの表情は至って真剣だった。
☆
「あああああああああああああああっ!? 怖い怖い怖い怖い!」
エディア達と別れた数分後、俺は何故かソフィアにお姫様抱っこをされてクリストピア王国の上空を王都に向かって飛んでいた。
「安心して下さい。ソフィアは契約者を落としたりしませんし、仮に落ちても魔法を掛けているので怪我一つ出来ません。透明化魔法も使っているので下から誰かに発見されるリスクもゼロです」
「そういう問題じゃないんだよ! 単純に怖いんだって! 高いし! 速いし!」
俺は半べそを欠きながら叫ぶ。
「目を瞑っていれば宜しいかと」
「それはそれで怖い! なあ、ソフィア、素直に馬車で行こうぜ?」
「真下をご覧になってください。山です。こんな所から馬車は出ていませんよ」
「うう......」
確かにソフィアと一緒に飛べば王都には直ぐに行けるのだろうがやはり、人間の本能がこの状況を拒む。俺は情けなさを痛感しながらもソフィアにぎゅっと抱きついた。
「契約者が落ち着くのなら、ずっとそうして頂いて結構ですよ」
「あ、ありがとう......」
「恐らく、このペースで飛んでいれば休憩や食事も加味しても明日には王都に着くと思われます。それまで辛抱して下さい」
半日以上もこの地獄が続くことに目眩がするのを感じながらも俺はソフィアと一緒に村の上を、川の上を、湖の上を飛び、途中の街で食事を取ってはまた飛んだ。長い長い一日である。そして、やっと空の旅に慣れてきたところで夜になった。
「この周辺には宿がある村や街がないようです。なので、今日はこの辺りで野宿をしましょう。テントは持ってきました」
地上に降り立ったソフィアはリュックからテントを出しながら言う。確かに周りは何処を見ても木ばかりで何も見えない。どうやら、森の中に降り立ってしまったらしい。
「そうだな。テント、張るの手伝うよ」
その後、俺達はソフィアの魔法によっていとも簡単に焚き火を起こすことに成功しその焚き火でエルフ達から貰った土産のパンとチーズを炙って、チーズパンにして食べた。
パンは酸味のある素朴な黒パンで、チーズはとてもミルキーでとても旨い。それを味わいながらソフィアと話しているうちに夜は更けていった。
「明日に備えてそろそろ寝るか」
「そうですね。テントの中の温度と湿度は魔法で調整しておきましたからご安心下さい」
相変わらず、怖い程に気が利くソフィアに礼を言うと俺はテントに入った。
余程今日のフライトで疲れていたのだろう。瞼が閉じるのは寝袋に入ってからそれ程時間が経ってからのことではなかった。
「……見つけた」
夢の中でそんな声が聞こえた気がした次の瞬間、爆弾か何かが炸裂したような大きな音がした。地面が唸り、風が叫び、鋭い金属音が響き渡る。飛び起きた俺が見た物は、半壊して屋根に大きな穴が空いたテントとソフィアの居ない空間だった。
「……ソフィア!? 何処だ!?」
状況は分からなくとも、ソフィアが消えたことは理解した俺は大きな声でそう叫んで外に出た。すると、其処には居たのはソフィアと正体不明の誰か。今が真夜中ということもあり、その『誰か』の姿はよく見えない。
「お騒がせしてすみません、契約者。ソフィアは此処に。どうやら、山賊か何かの類いのようです」
ソフィアは心なしか、鋭い口調でそう言った。一先ず、彼女を見つけられなので安心は安心だが、何かが可笑しい。というのも、彼女は剣を抜いて臨戦態勢に入っているのだ。
彼女にかかればただの山賊を倒すことなど赤子の手を捻ることと同義。素手で余裕の筈だというのに何故だろうか。
いや、理由は一つしかないか。
「私を山賊などと一緒にするなァッ!」
その声は高く、女性ということが分かった。俺の予想通り彼女は山賊ではなかったらしい。
であれば、何者なのかという話だが。見当も付かない。
「あら、であればどちら様で?」
「......お前に名乗る名前は無い! 黙って殺させろっ!」
彼女は声を震わせながら殺意を剥き出しにすると、何処からともなく大きな斧を取り出し、手に握り、ソフィアにそれで斬りかかった。