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55 観光と予定変更

間違えてこの部分で完結させる設定で更新しそうになった。


「あつっ」


「ちょ、大丈夫か?」


「舌を火傷をしましたが、直ぐに魔法で治したので問題ありません」


 舌の火傷を魔法で治す奴、初めて見たかもしれない。


「まあ、蒸したての饅頭を一口で頬張ったら火傷は確定だよな」


 俺はそう言って苦笑した。俺達は今、フェアケタットの中心にある温泉街にいる。ウカトと別れた後、明日まで何をして時間を潰すか皆で相談した結果、観光をすることに決めたのだ。

 そして、サイズが『お前たちは二人の方が楽しめるだろ』とか何とか言ったことによってサイズとエディア、俺とソフィアの二組に別れて別行動をすることになったのだが、本当はサイズがエディアと二人きりになりたかっただけなのではとも思う。


「ですが、皮がしっとりとしていて餡子が滑らかで味はとても美味しいです」


 ソフィアは何処と無く満足気に言った。


「ソフィアって結構、グルメだよな。......まあ、良いところのお嬢さんだし当たり前か」


 オロバッサ家の娘なのであれば当然、良い物を食べさせて貰って育ってきたのだろうと思って俺はそう言ったのだが、彼女はかぶりを振った。


「いえ、ソフィアが何時も頂いていたのは基本的にビスケットや缶詰などのレーションばかりで、あまり、贅沢品を頂いたことはありませんでした。まあ、悪魔の中には飢えにさえ苦しむ方々も居るようなので、ソフィアはマシな方ですが」


「名家の長女の食事が毎回戦闘食ってどんな世界なんだよ魔界」


「オロバッサの姓こそ両親から頂きましたが、ソフィアはあくまで兵器である歪な生命『首切り魔王』であり、誰もソフィアをオロバッサの一族として見ていないため仕方がありません。事実、両親もソフィアのことを子とは思っていないようですし」


 ソフィアは表情一つ変えずに淡々とそう述べた。本当にそのことについて思うことはないのだろう。両親からの愛を受けることなく兵器として育てられた少女、ソフィア。

 彼女は無口で感情の起伏に乏しいが、卑劣な悪魔達に感情を消された訳ではない。彼女が俺にもっと心を開いてくれように、彼女の感情表現がもっと触れるように頑張ろう。そう、俺は愛しい彼女の顔を見つめながら密かに決心した


「ソフィア」


「はい」


「お土産、一緒に選ぼうぜ。ソフィアの欲しいものもきっと、あるからさ」


「いえ、ソフィアは別に......ちょっと、急に手を引っ張らないで。分かりましたから。ソフィアも少し、気になっていたものがあったところです」



 ソフィアと温泉街で遊び尽くした翌日、俺達は言われた通りにギルドへと向かった。エディアの仕事の兼ね合いもあるので、今日中に街に帰るつもりだ。


「おおっ! おはようございます、オルム氏にソフィア氏! それに、エディア氏にサイズ氏も!」


「おはようございます」


 愛想の良い笑顔を浮かべて挨拶をしてきたウカトに俺は挨拶を返す。それに皆も続いた。


「さ、奥へ入って下され。今回のクエストの報酬とかき集めたドラゴンの買い取り額の一部をご用意しているでござる!」


 そう言われた俺達はまた、ギルドの受付の奥の部屋に招かれた。そして、俺達がその部屋の机に座るとウカトは大きなアタッシュケースを机の上に置いた。


「おお、何か本格的だな!」


 サイズが興奮した様子で言う。


「このケースの中に今回のクエストの報酬である金貨1000枚が入っているでござる。どうぞ、お納め下され」


 出た。馬鹿みたいな金額。


「あ、ありがとうございます。あの、このケースもう二箱用意して頂けませんか?」


 俺はウカトからそのケースを受け取り、そう言った。


「勿論、構わないでござるが何故?」


「今回のクエストはエディアやサイズの力がなければ、達成出来ませんでした。なので、報酬はエディアとサイズに半分渡そうと思うんですよ」


 その事については昨夜、宿できちんと二人にも話をしておいた。やはり、エディアは自分は何もしていないからと遠慮したが、どうにか納得させたのだ。

 というか、マジでエディアが何もしていないと言うのなら、俺も何もしていないことになってしまうので

エディアには是非とも自分の功績を認めて貰いたい。

 お、俺だって色々、頑張ったもん!


「そう言うことでござったか。了解したでござる。後でお渡しするでござるよ」


「ありがとうございます。ドラゴンの買い取り額も決まったんですよね?」


「はい。それの明細がこちらでござる」


 ウカトはそう言って静かに紙を机の上に置いた。其処にはあのドラゴンの脱け殻の詳細な鑑定結果が乗っており、状態、品質、大きさ等を加味した上での合計金額が乗っていた。


「……あの、ウカト? これは本当に正しい鑑定結果なのかい?」


「勿論でござる」


 震えながら質問をするエディアにウカトは頷いた。


「お? そんなに高額だったのか? 見せてくれよ。ん、金貨三万五千枚? ......Oh」


 そして、俺とエディアとサイズは互いの顔を見ながら何度もコクコクと頷きあった。三人の考えが無言で一致した瞬間である。


「ウカト、頼みがある」


 そして、エディアが話を切り出した。


「何でござろうか?」


「その三万五千枚の金貨、全て慈善団体に寄付をしておいてくれ。僕達にはあまりに釣り合わない金額だ」


 俺とサイズはエディアの言葉に激しく頷いた。金貨三万五千枚は流石に大金すぎる。それも庶民が手にしてはいけないレベルの。

俺とソフィアの4LDKの家が安くして貰ったとは言え金貨600枚だと言えば、その額の途方も無さが分かるだろうか。


「契約者、良いのですか? 防犯ならソフィアが......」


「いやいやいや、そういう問題じゃないんだって」


 ソフィアの力は確かなので防犯面の心配は全くしていない。だが


「貴族でも何でもない一般人が金貨を三万五千枚も手にしてみろ。人が変わるぞ!? 金銭感覚の過度な崩壊は人格の崩壊だ」


と、エディアも言っているようにあまりの大金を持つことに俺達は恐怖を感じたのだ。


「そうだ、そうだ! オルムを腐らせたくなかったら黙ってろガキんちょ!」


「……何故、ソフィアがそこまで言われなければならないのか、何故、貴殿方がそれほどまでに金を嫌うのかは分かりませんが、申し訳ありませんでした」


 ソフィアは何処と無く、不満げに頭を下げる。


「ハハハッ。ソフィア氏は南の方の生まれらしいでござるな。北のクリストピア人は大金を恐れる気風があるらしいでござる。エディア氏達はクリストピアの北方であるルデンシュタットの方々でござるから、そういうところがあるのでござろう」


「ルデンシュタット?」


 ソフィアが首を傾げる。


「俺達が住んでる街の名前だよ。正確にはもう少し、広範囲を指す名称だけど」


「……かれこれ、あの街に住み始めて一ヶ月以上にもなるのに初めて自分の街の名前を知りました」


 ソフィアは若干、ショックを受けたようだった。そう言えば、ソフィアにあの街の名前を教えたことはなかったな。


「まあ、兎に角、その金は寄付ということで宜しく頼む」


 クエストの報酬だけで俺はお腹がいっぱいだ。


「わ、分かったでござる。ワレが責任を持って信用の出来る慈善団体に寄付をしておくでござるよ。後、オルム氏とソフィア氏はエンシェントドラゴンを討伐したということで金製メダルにランクアップする許可が降りたでござる」


「はい?」


 さらっと、ウカトがとんでもないことを言い出した。


「オルム氏とソフィア氏のメダルを銀製から金製に変えれるようになったと言ったのでござる」


「エンシェントドラゴン戦では俺、殆ど......っていうか、全く戦っていないんですが」


「でも、ソフィア氏とオルム氏は一時的な協力ではなく正式にバディとして登録されているのでシステム的にはお二人で受けて、お二人で達成したクエストの評価はお二人で共有されるのでござるよ」


「ちょっと、待ってください。そんな登録をした覚えはありませんよ?」


「君達って何時も一緒にクエスト受けてるからバディとして登録しておいた方が便利かなと思って僕が勝手に登録しておいたよ。ギルマス権限で」


 ナチュラルに職権濫用してんじゃねえギルドマスター。


「そう言うことなら、俺とエディアもバディ組んでるぞ? 俺達の評価は上がんねえのか?」


「お二人は正式にクエストを受けてはいないので二人と一緒に戦っても評価はされないのでござるよ。すまないでござる」


「おいエディア! 何か色々とギルドのルールって融通効かないぞ! どうなってんだ!」


「文句があるなら僕じゃなくて本部のマスターに言ってくれ」


 サイズにいちゃもんを付けられて溜め息を吐く、エディアの言葉にウカトは


「あ、そうそう。メダルを金製にするには本部まで出向く必要があるのでござるよ」


と、言った。


「本部って、王都の?」


 俺の質問にウカトは黙って頷いた。嘘だろオイ。


「いや、マジでどうなってんだよギルド。金製メダルにするためには王都に行かなきゃなんねえなんて初めて聞いたぞ。不便過ぎる」


「仕方ないだろう。金製メダルの冒険者は一国に容易く数えられる程の数しかいないギルドの精鋭だ。だから、本部のマスターが直々に金製メダル冒険者に任命しなければいけないんだよ」


 またもや、文句を言うサイズにエディアは言った。


「それで、どうするでござるか? 別に金製メダルにせず、ずっと銀製メダルで冒険者をやって頂くことも可能でござるが」


 俺は黙ってソフィアを見つめた。こういうときは彼女に頼るに限る。


「無理に金製メダルにする必要はないかと。銀製メダルのままでも不便なことは特にありませんし」


「そっか。それなら、止めとくか」


 大体、金製メダルなんかになったら目立ってソフィアの正体がバレる可能性も高くなるしな。


「むう、本部のマスターが是非ともお二方に会ってみたいと言っていたので本音を言うと、王都へ行って彼に会って頂きたかったのでござるが......。時にソフィア氏?」


「何でしょうか」


「エディア氏からソフィア氏の好物はパンだとお聞き致したでござる。王都には国一番のパンの名店が幾つも......」


 その言葉に反応したソフィアは体をピクンッと跳ねさせ、俺の肩をギュッと掴んで口を開いた。


「契約者、金製メダルの冒険者になれば受けることの出来るクエストの種類は増え契約者の求める平穏な生活、スローライフにも近付くでしょう。金製メダルになったからと言って、仕事量が増えるわけでもありませんし。ソフィアは金製メダルにランクアップすることをお勧めします。それに、王都に行くことは見聞を広めることにも繋がるでしょう」


 ソフィアは早口でそう述べた。手首を骨折しないか心配になるほどのスピードで手のひらを返すソフィアに俺は思わず、笑ってしまった。無表情ではあるが

それ以外のところに感情が表れすぎだ。


「ソフィアってかなり、食い意地張ってるよな」


「何のことでしょう。ソフィアはあくまでも合理的な判断をしたまでです」


「そーですか」


 仕方がない。王都に行こう。

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― 新着の感想 ―
[一言] イギリスだかで低所得者に大金与えるとどうなるかとか実験したら尽く身を持ち崩す結果になったとか オルム達の価値観はきっと正しい ああ、この早口を無表情でこなすのか、可愛いなぁ
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