54 調査報告
ズトラーストヴィチェ! ロシア語でこんにちはってこんなんだったよね? 確か。皆さん、そろそろ夏ですが熱中症にはくれぐれもお気をつけて!
俺達はエンシェントドラゴンの脱け殻を見て、興奮状態にあるウカトを落ち着かせ、それについて説明をした。
エルフ達のことをウカトに伝えるわけにはいかないので、上手くその辺のことを隠しながら俺は説明する。というか、結界の話をしていて思い出したがあの結界壊したままだったな。......まあ、アデルがどうにかしてくれるだろう。
「い、いや、え? オルム氏、当たり前のようにソフィア氏が結界を壊したとか仰有っていますが今までどれだけ凄腕の魔法使いを森に派遣しても壊すどころか、見付けることさえ出来なかったのでござるぞ? そんな、簡単に」
「出来るんだなコレが。ガキんちょなら。というか、それくらいの力がねえとドラゴンなんて倒せねえよ」
サイズが笑いながらウカトに告げる。
「た、倒せねえよ......って、やっぱり倒したのでござるかこのドラゴンを」
「はい。あ、でも、倒したって言っても殺した訳ではありません。急に襲い掛かってきたから戦闘不能にしたら、見逃す代わりに脱皮してこの脱け殻をくれたんです。俺達もどういう仕組みなのか分からないんで、脱皮っていう表現が正しいのかもよく分からないですが」
炎龍には悪いが、自爆する余力があったところはカットさせて貰おう。話がややこしくなるしな。殺されたことにしなかった分、感謝して頂きたい。
「ギルドマスター、調査報告書は此処に」
そして、口をあんぐりと開けて言葉を失っているウカトにソフィアは調査報告書を手渡した。調査報告書には嘘に反応して文字が赤くなる魔法が組み込まれているのでそれを見れば俺達の調査結果が事実だということをウカトも信じるしかないだろう。
......もっとも、今回はエルフ達のことを上手く隠しながら書いたので、『嘘は書いていないが正確ではない』報告書にはなってはいるが。
「しょ、承知致したでござる。このエンシェントドラゴンの脱け殻はどうするつもりでござるか? ギルドで買い取ることも可能でござるが」
「そう言えば、これの扱いに関しては何も考えてなかったな。どうする?」
俺が皆に聞くと
「売れば良いんじゃないか? こんなのあっても困るし」
と、サイズが答えた。
確かにドラゴンの脱け殻なんてどうやって使えば良いのか全然、分からない。もっともな意見だ。
「僕は特に何もしていないし、君達で決めてくれ」
「いやいや、お前やオルムが居なかったら増援を呼ぶこともエルフ達を逃がすことも出来なかっただろ? ちゃんと山分けにするぞ」
サイズがエディアに耳元で静かにそう言った。恐らく、エルフのことをウカトに聞かれないように小声で言ったのだろう。俺は耳が良い方なのでギリギリ聞こえたがウカトには距離的にも聞こえていなさそうだ。
「そ、そうか。分かった。......君は何を言っても、意見を曲げないだろうからな。受け取っておくよ。僕としては幾らか鱗の部分を取ってから売る方が良いと思う。武器や装備の素材に出来るらしいからね」
「特に、龍の尾は加工に向いていると聞きます。そこだけ切り取ってから売却してその売上を山分けにすれば良いのでは?」
「良いなそれ! 龍の鱗で作った剣とか滅茶苦茶欲しい!」
「じゃあ、そう言うことなので尻尾の部分以外を買い取って貰えますか?」
サイズもソフィアとエディアの意見に賛成の様子なので俺はウカトにそう聞いた。
「も、勿論でござる! ただ、まだ鑑定はしていないでござるがエンシェントドラゴンの買い取り額は超高額な筈でござる。今日、渡せるだけは渡しますが渡せなかった分は後日、エディア氏のギルドの方で受け取って欲しいでござる」
「いや、あの、僕のギルドの財源もそんなに無いんだが」
「ワレの方から本部に連絡をしておくから心配しないで下され。......さてと、今からワレはこのドラゴンの買い取りやオルム氏とソフィア氏の調査結果の処理などの事務作業をしないといけないでござる。纏まったクエストの報酬はそれが終わった後に渡すので、また明日に来て欲しいでござる。ではっ!」
ウカトは顔を引きつらせながらそう言うと、忙しそうにギルドに戻っていった。
まあ、当たり前のように今まで誰も達成出来なかったクエストを達成されて挙げ句の果てにエンシェントドラゴンなんて見せられたらあんな表情にもなるか。
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