53 銃
更新遅れてしまいすみません。ちょい、リアルが忙しい感じでして......。これからも頑張って書いていきますので宜しくお願いします!
「弐の勇者に手伝って頂けて助かりました。ソフィア一人でこれを運ぶのは流石に体力を使うので。ありがとうございます」
フェアケタットへの帰路を辿りながら、ソフィアがそう言った。彼女とアデルは現在二人でタンスと同じくらいの大きさのエンシェントドラゴンの殻を運んでいる。殻の大きさが元と違うのは、ソフィアが『この大きさでは嵩張ります』と言って物体の体積を小さくする魔法を使ったからである。
「礼には及ばん。何度も言うが、貴様らには世話になったからな」
「あ、あの、アデル様。これは何時、お渡しするのですか?」
アデルの付き添いで同行していた若いエルフか蔓で織った籠をアデルに見せる。
「......ああ、そうだったな。私としたことがすっかり、忘れていた。貴様らに渡したいものがあったのだ。すまぬが、アルバン。これを彼らに渡してくれ」
「はっ! どうぞ皆様、此方を」
アルバンと呼ばれたエルフはアデルの言葉に威勢の良い返事をすると籠の中から取り出したものを俺達、全員に配った。金属で作られた小さな筒のようなものだ。
......これは。
「銃か?」
それはアデル達が使っていた長い物ではなく、ポケットに収まりそうな程に小さな銃だった。
「ああ。自動拳銃という奴だ。エルフの職人の作った拳銃の中でも特に出来の良い四丁を用意させた。護身用にするなり、観賞用にするなり、好きに使ってくれ」
鉛色に輝くその銃は美しく、素人から見てもそれが傑作だということが分かった。
「うわ、すげえ! かっけえ!」
「可愛らしい蔓の籠から物騒な物が突然、出てきたから驚いたけど、これは凄いね」
サイズとエディアもその銃の持つ美しさに興奮した様子だ。
「弾が装填されていますが、魔力を利用する回路も見られますね。弐の勇者この銃にはどのような能力が有るのですか? また、弾はどうやって調達すれば良いのでしょうか?」
一方、ソフィアは落ち着いた様子で銃の性能や状態を分析してアデルに質問をしていた。
「弾は貴様らに渡した土産と一緒に大量に入れておいた。無駄打ちしない限りかなり持つだろう。また、弾を装填していなくとも自らの魔力を使って魔力の弾を発射することが出来るようになっている。魔法を操る力が無くても扱えるからサイズやオルムには丁度良いだろう。また、標準器で対象をロックオンした状態で引き金を限界まで引けば自分の微小の魔力を使うことで弾に若干の追尾能力も付与出来るようになっている。魔力を利用する回路があるのはそのためだ」
「射撃能力や魔法の適性がなくとも扱えるという訳ですか。......契約者」
ソフィアは銃を見つめながらうんうんと頷いて俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「契約者にも扱いは容易だと思うので護身のために常備しておいて下さい。モンスターを狩るのにも使えそうですし」
「言われなくてもそうするよ。ありがとうな、俺のことを何時も考えてくれて」
俺は笑いながらソフィアの頭を撫でた。
「いえ、契約ですので」
「もう、その定型文を聞いても特に何も感じなくなったよ。アデルも、ありがとな。大事にするよ」
俺は相変わらずのソフィア構文に苦笑しながら、アデルに礼を言った。
「私からもありがとうございます」
「こんなに貴重な物を頂けて嬉しいよ。ありがとう」
「サンキューアデル! 俺も早速、街に戻ったら暗鬱の森辺りに潜ってぶっぱなしてみるぜ!」
「ああ、どういたしまして」
そんなやり取りをしていると銃を俺達に渡してくれた若いエルフ、アルバンが道の先を指差した。
「アデル様! そろそろ森の出口です!」
言われてみると確かに彼が指差したところは森の出口なようで、其処からは溢れんばかりの光が薄暗い森へと差し込んでいる。
「もう、そんなところまで来ていたか」
「みたいだな。それじゃあ、此処でアデル達とはお別れか?」
俺の質問にアデルは首を振った。
「いや、折角だしな。人間の街という物を見てみようと思う」
「それなら、温泉宿に泊まってみるのがオススメだぜ。エルフの村って火山が近いのに温泉は無いだろ?」
サイズがすかさず、提案する。あんな経験をしたのに温泉がトラウマにはなっていないらしい。
☆
「つーことで、帰ってきたぜオラアッ! はあ、疲れた疲れた。マジで疲れた。もう、二度とあんな思いはしたくねえ!」
ギルドに着くと、サイズがそう叫んだ。
「そうか? 俺は結構、楽しかったけどな」
サイズとしては自分の正体が皆にバレてしまったり、エンシェントドラゴンと戦わせられたりで苦い経験だっただろうが、俺としては面白いことにたくさん出会えたので其処まで嫌なことはなかった。
それに、サイズとエディアにソフィアの正体を打ち明けられてスッキリしたしな。
「お前の精神力本当にスゲエよな。エルフに会っても、龍に襲われても動じなかったし。幾ら、ガキんちょと一緒に行動しているからってそんな短期間で其処までメンタル成長しねえよ。意外と元から契約者の才能があったんじゃねえか?」
「そうだと嬉しいな」
「おお、皆さん帰られておりましたか! 待たせてすまなかったでござる!」
俺とサイズの声がギルドの奥にも聞こえていたらしく、受付の裏からウカトが現れた。
「今、帰ってきたところだ。謝らないでくれ」
エディアが俺達を代表してそう言った。
「そうでござったか。それは良かった。というか、エディア氏とサイズ氏は何処へ行っていたのでござるか?」
「オルム君達と一緒に炎龍の森の調査に行ってたんだ」
「何と!? 冒険者であるサイズ氏は兎も角、エディア氏はギルドマスターなのですから未開の森に足を踏み入れるなどといった軽率な行いは慎まれた方が......」
「サーラやカリーナみたいなことを言うね、君は。言っとくが僕はこれでも銀製メダルの所持者なんだ。あまり、舐めないでくれ」
エディアは胸ポケットの中からギルドマスターの手帳を取り出し、其処に挟まっている銀で出来たメダルをウカトに見せ付けた。
「まあまあ、エディアはこういう奴なんだ。アンタもエディアとの付き合いは短くないみたいだから知ってるだろ? コイツに何を言っても無駄だって」
「しかし、ギルドマスターはギルドの要でござるからなあ」
そんな言い合いを三人がしていると先程まで無言だったソフィアが口を開いた。
「ソフィア一人でコレを持つのはかなり疲れるのですが」
コレ、とは体積を魔法で縮小したエンシェントドラゴンの殻のことである。アデルとは街の入り口で別れたので、其処からはずっとソフィアが一人で持っている。一応、俺も手伝おうかとは聞いたのだが『鉄筋で三階建ての家を軽々と持ち上げられる力が契約者にあるのなら、少しくらいは楽になると思うのでお願いします』と言われてしまった。
「あ、すまない。忘れていた。ウカト、このギルドの室外の私有地に家を一軒立てられるくらいに広い場所はあるかな? 其処に連れていって貰いたい」
「広い場所......ああ、それならこの建物の裏にあるでござるよ。ギルドに併設する酒場の建設予定地でござる。一体、何に使うのでござるか?」
「口で説明するより見てもらう方が早い。良いから、連れていってくれ」
「強引でごさるなあ。では、付いてきてくれでござる」
そう言ってウカトに案内された場所は確かに広く、あのエンシェントドラゴンの脱け殻を元の大きさに戻しても敷地内に収まりそうだった。
「では、少し離れていてください」
ソフィアがそう言って小さくなったエンシェントドラゴンの殻を地面に置いて手をかざすとそれはみるみる内に巨大化元に戻っていき、横のギルドの建物の高さを越える程になった。
「これが今回の冒険の結果です」
俺がそれを指差してウカトに言うと彼は
「ん? ん? んんんんんんんんんんんんんん!?」
分かりやすく動揺していた。まあ、そうなるよな。