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52 別れ


 その後、俺達は今日中に村を発つことを決めてその支度を始めた。


「質問なんだが、こんなデカいものをどうやって運べと?」


 俺は一軒家よりも大きいであろう炎龍の脱け殻を指差してその生産者に聞いた。彼がわざわざ俺達のために脱皮をしてくれたのはありがたいのだがとてもじゃないが、俺達の力では運べそうにない。


『さあな?』


「おい」


『貴様らの仲間には首切り魔王と八つ首勇者がいるのだろう? 奴らに運んでもらえ』


「その手があったか」


 ポンと手を打つ俺とその言葉に傍で荷造りをしていたサイズが反応した。


「ちょっ、待ってくれよ。俺は確かに八つ首勇者だが、その力を全く磨いていないんだ。アデルとかなら、鍛練してるから八つ首の力を他のことにも応用出来るんだろうが俺にはエンシェントドラゴンの殻なんかを運ぶ力はないぞ。大体、オルムと初めて出会ったときも黒牙猪に追われてただろ? あれは演技なんかじゃない。俺は鎌がないと本当に何にも出来ないんだ」


『使えんな。肆は八つ首の中でも最弱、ということか』


「うっせえわ! 一般人と同じ生活をするために今まで極力、八つ首の力を使ってこなかったんだから仕方ねえんだよ!」


 サイズが炎龍のかなり失礼な言葉に声を荒らげる。サイズも、サイズなりに今まで苦労してきたんだろうな。


「それじゃあ、脱け殻に鎌を突き刺してそのまま持ち上げて運べば八つ首の力を発揮出来るんじゃないか?」


「脱け殻が痛むから止めておけ」


 俺の案に待ったを掛けたのは、サイズでも炎龍でもなく先程まで俺達を見送るための軽いパーティーの用意をしていたアデルだった。


『む。貴様か。では、他に何か案でもあるのか?』


「簡単な話だ。私が手伝おう。これでも八つ首としての能力は鍛えている。それに、元より私はこの者達が村を抜けるまで見送るつもりだった。幾らソフィアやサイズが強くとも危険な森を客人だけで抜けさせる訳にはいかないからな」


『殊勝な心掛けだな。らしいぞ、人間よ』


「アデル、本当にありがとう」


「さっすが、アデルだな! サンキュー」


 この村に来たばかりの時とは全く違う俺達へのアデルの態度の違いに感動しながら俺とサイズが彼に礼を言っていると


「契約者、荷造りが終わりました。時間が余ったので今回のクエストの調査報告書も書いておきました」


 ソフィアが大きなリュックサックを背負って現れた。リュックサックに入っているのは炎龍から村を守った俺達への感謝の印としてエルフ達がくれた、沢山の土産物だ。エルフの村特産の干しぶどうや酒をくれたみたいだが、詳しくは見ていない。兎に角、色んな物をくれたエルフ達に感謝だ。


「お、ありがとう。そういえば、俺達ってクエストで此処に来てたんだったな」


 予想外のことが起こりすぎて、完全に忘れていた。


「俺とエディアに関しては興味本位で来ただけだからな。好奇心に負けたせいでドラゴンと戦ったり、皆に正体がバレたりしてるんだから笑えねえ」


「まあまあ、貴重な体験が出来たんだから良いじゃないか。それはそうとエディアはどうしたんだ?」


「ああ、アイツなら先にパーティー会場に行って準備を手伝ってる筈だ。俺の荷造りも終わったことだし、そろそろ、パーティー会場に行こうぜ」



「あ、お姉さんにお兄さん達!」


 パーティーが始まり、エディアと合流した俺達の元に見覚えのある少年が走ってきた。ボリスだ。


「ソフィアお姉さんとサイズお兄さんのお陰で燃やし神に村を燃やされずに済んだって皆、感謝してたよ! それに、オルムお兄さんとエディアお姉さんのお陰で皆が避難出来たって! 本当にありがとう!」


「いえ、ソフィアは契約者との契約に従っただけですので」


「子供が相手でもブレないなお前。俺は大したことはやっていないが......まあ、どういたしまして。こちらこそ、エルフ達には世話になってる。ありがとうな」


 子平常運転の堅物悪魔にツッコミつつ、俺はそう言った。


「フッ、当然のことをやったまでだ」


「僕もあまり大したことはやっていないけれど、役に立てたというなら嬉しいな」


「僕もお姉さんやお兄さんみたいに皆を守れるように、頑張るよ! ほら、あっちにご馳走がいっぱいあるから食べに行こ!」


 そんな楽しい時間は直ぐに過ぎていき、気付いた頃にはもう村を発たないといけない時間になっていた。あまり、遅れると日が暮れてしまう。


「それじゃあ皆さん、本当にお世話になりました」


俺は皆の代表としてエルフ達の前に出て、頭を下げた。


「こちらこそ、本当に世話になった。何百年も私達の心の中にあった人間への偏見も貴様らのお陰でかなり消えた。心優しき人間というのもいるのだな。また機会があったら、立ち寄ってくれ」


 アデルの言葉にエルフ達は大きく拍手をして『さようなら!』『ありがとう!』と叫んでくれた。俺達はそんなエルフ達にもう一度、深い礼をする。


「さようなら! また、必ず来ます!」


「お元気で」


「じゃあな!」


「一生の思い出になるような貴重な体験をありがとう。さようなら」


 そして、俺達はエルフ達にそんな言葉を残して村を去ったのだった。

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