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5 鉛の牙を持ちしモノ

今週は毎日投稿しようかな~、と思ってます! 是非ともお楽しみ下さい!


 清々しい朝だ。澄んだ朝の風を感じ、匂いを嗅ぐと、此処が危険な森だということなどとても小さなことに思えてしまう。昨日の夜は狭いテントの中でソフィアと体を密着させて寝たため寝苦しかったことは言うまでも無い。しかし、そんなこともこの風を感じていると忘れてしまいそうだ。


 春の匂いを乗せた、まだ少し冷たい風がヒュウヒュウと吹き、春の訪れに小鳥達はチュリチュリと心を踊らせ、近くの小川はザーザーと流れ、森の奥からはンギャアーと言う図太い悲鳴が聞こえてきた。


「ん? ンギャアー?」


「ンギャアアアアアアアア!」


 可笑しな自然の音色に俺が首を傾げると、突如藪から男が飛び出してきた。その後ろからは何やら大きな影が迫ってきている。


「逃げろ! 黒牙猪(くろきばのいのしし)だ!」


 黒牙猪とは、年に一度か二度この森で目撃される魔物だ。その凶悪な猪による死亡事故は決して少なくはなく、その強さは黒牙猪の存在が確認されるだけでギルドや領主が確認された森周辺に近付かないように勧告を出す程である。しかしこの猪が持つ鉛色の牙は装飾品から武器の材料まで幅広い用途に使われるため勧告を無視して黒牙猪を倒そうとする者が後を経たない。

 ふむ、これはまずいな。


「何冷静に分析してるんだよ! 逃げないと死ぬぞ!?」


「加速した黒牙猪の最高スピードは時速180km。逃げられる筈が無い」


「だからって、ああ!」


 男が叫んだのも無理はない。黒牙猪は周囲の木や草を薙ぎ倒し高さ3メートルにもなる巨体を俺達の前に現したのだから。


「んん.....契約者?」


 その物音を聞き、ソフィアがテントから出てきた。どうやらまだ眠たいようで目を擦っている。


「ソフィア、黒牙猪だ! 寝起きのところ悪いが頼んだ!」


「......お見苦しいところをお見せしてすみません。了解致しました」


 ソフィアは欠伸をそこそこに鋭い覇気を周囲に放った。寝起きモードから戦闘モードに移行したらしい。


「お、おい......あんなガキんちょを囮にするのは流石に」


「ブモオオオオオオオ!」


「ひえっ!」


 雄叫びをあげる黒牙猪。ソフィアがいるから大丈夫だと分かっていても恐ろしいものは恐ろしい。体がすくんで動かなくなってしまった。男もみっとも無い声を出している。

 そんな人として当然の反応を見せる俺達とは違い、悪魔であるソフィアは怯むことなく黒牙猪に両手で触れた。魔法でも撃つのだろうか。そう俺が考えた瞬間ソフィアは黒牙猪を持ち上げて地面にめり込ませた。


「ブグググググ、ブゴオオオオオ!」


 予想もしなかった攻撃方法に動揺する黒牙猪。しかし、ソフィアはその隙さえ殆ど与えずに体勢を崩した黒牙猪に拳を振りかざした。その一撃は相当のものだったらしくただの打撃の筈が、黒牙猪の腹部からは血が出ている。


「なあ......黒牙猪の皮膚って、確か剣の刺突さえも効かないことで有名だよな?」


 男は唖然としながら譫言(うわごと)のように呟く。そして次の瞬間には黒牙猪の首にソフィアの手刀が降り下ろされ、黒牙猪の首からは噴水のように血が溢れ出した。思わず俺は目を逸らし、男は腰が抜けたらしく、その場に座りこんでしまう。


「......服に血がついてしまいました」


 黒色の服をベットリと血で濡らしながら、ソフィアが虫の息の黒牙猪に手刀を降り下ろすと、黒牙猪は断末魔の叫びを上げて次の瞬間には首と体が綺麗に分断された。血はソフィアのリボンにも飛んでおり、ソフィアはそれをかなり気にしている。お気に入りのリボンなのだろうか。


「あ......あ.....これはきっと何かの夢だ。は、はは。はははははっ」


 男が狂ったように笑い出す。しかし、それを好機とばかりに俺は手や顔を返り血で濡らしたソフィアへと近寄った。


「ソフィア。羽」


 そう、ソフィアは背中から蝙蝠のような羽を生やしていたのだ。昨日の夜ソフィアは羽を生やしている方が眠りやすい、と言って羽を生やしたまま寝ていたので恐らく起きてからもそのままになっていたのだろう。俺と二人きりのときなら問題は無いが今は冒険者と思われる男が居る。この場でソフィアが羽を生やしていることがバレるのは非常に不味い。


「......すみません」


 ソフィアはそう言うと、羽をそのまま消した。一体、どのような仕組みになっているのかは謎だが、ソフィアの背の服に穴は無い。


「あ、あ、ああああ......ア、アンタら何者だよ?」


 10分程、腰が抜けて倒れていた男は少しだけパニックが収まったらしく俺達に質問を投げ掛けてきた。


「俺はオルム・パングマンで此方が俺のパートナーの」


「ソフィア・オロバッサです」


 俺達の名前を聞き、安心したのか男の震えが止まった。


「オ、オルムにソフィアか。りょ、了解。覚えた。俺はサイズだ。姓は無い。出来ることなら状況を説明してくれ」


「いや、説明して欲しいのは此方なんだが......お前が連れてきた黒牙猪をソフィアが素手で殺した、それだけだぞ?」


「それだけって......黒牙猪を素手で殺すとかパワーワード過ぎるだろ!ガキんちょ何者だよ!」


 確かに黒牙猪はエリート冒険者が複数で、やっと倒せるかどうかという魔物だ。それを意図も容易く素手で殺したソフィアには味方ながらに恐怖を覚えた。


「ソフィアは名前以外の自分に関する記憶を失っていたところ、契約者.....オルムに助けられたのです。力に関する記憶は有りません」


 ソフィアの口にした説明は昨日の夜、俺とソフィアが二人で考えた物だ。ソフィアの正体を人にバラすことは出来ないので、彼女の力について聞かれたときに使おうと考えた設定だが、思ったより早く使うことになってしまった。


「......そうか」


 男、もといサイズは同情的な視線をソフィアに向ける。ソフィアからしたら嘘を吐いて、同情されているのだから複雑だろう。


「俺とソフィアの話はもう良いか? 今度はそちらに黒牙猪の説明をして貰いたい」


 俺がそう言うと、サイズは『ああ、分かった』と頷いた。


「説明って言ってもな~。普通に魔物狩りでこの森に潜ってたら突然、黒牙猪を見つけてよ。一目見た瞬間ヤバいと思って全速力で逃げたらお前らのところにたどり着いたんだ」


 そんな簡単に見つけられる魔物では無いと思うのだが。黒牙猪は。


「成る程。いや、結果的に俺もソフィアも無傷だった訳だから責任取れとは言わないが......お前、冒険者だろ?」


 俺は下衆な笑みを浮かべながら、サイズに近寄った。


「ああ、そうだが......なんだあ? 面白そうな表情しやがって」


「いや、一つ頼みが有るんだよ。勿論、お前も利益はある」


「......詳しく」


 そして、サイズもまた俺の話にニヤけ顔でそう言ったのだった。

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