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48 和解


 気が付くと、俺はベッドに寝かされていた。部屋が暗い。もう、夜らしい。そうか、俺、勢いに任せて龍を煽り散らして気絶したんだった。此処が灰塵に帰しておらず、俺が生きているということは龍の自爆は止まったのだろう。良かった。

 そんなことを考えていると、光の漏れている扉の向こうから叫び声が聞こえてきた。


「だーかーら、答えろ! ソフィア君、君は何者なんだ!? 後、サイズもあの力について教えろっ! 肆の十三って何なんだ!? もしかして自分が八つ首勇者の肆だとでも言う気か!?」


「……黙秘します」


「まあ、詳しいことはオルムが起きてからで良いだろ」


「落ち着け。人間の娘よ。はしたないぞ」


......起きたくなくなってきた。


「おはよう」


 と言っても、起きない訳にはいかない。俺は重い体に鞭打ってベッドから起き上がり、扉を開けてそう言った。ソフィア、エディア、サイズ、アデルの四人が丸テーブルを囲んで座っている。


「ああっ! やっと起きたな!? オルム君、ソフィア君のあの羽は何なんだ!? さっき、初めてアレを見たとき僕は気を失い掛けたよ。しかし、君は平然としていた。何か知っているんだろう!?」


 すると、挨拶をするなりエディアにそう詰め寄られた。


「おい、エディア。オルムは起きたばかりなんだぞ。状況も呑み込めていないだろうし、いきなり詰め寄るのはよせ」


 サイズが落ち着いた口調でそう言うと、エディアは苦い顔をしながら椅子に座った。


「契約者が失神した後、あの龍は契約者のふざけた行動に興醒めしたようで妥協を見せ、弐の勇者との話し合いの結果、エルフと龍の和解が成立しました」


 ふざけた行動とかストレートに言わないでソフィア。俺自身、何がしたかったのかよく分かってないんだから。


「その程度で興醒めして和解してくれるならもっと早くにして欲しかったものだな」


 俺は不満そうにそんな言葉を漏らす。すると......


『黙れ、道化の小僧よ』


「誰が道化の小僧だよ。って、今の誰の声?」


 頭に直接語り掛けられた気がした。まるで、龍が使用していたテレパシーのように。というか、声もあのテレパシーで聞いた龍の声とそっくりだ。しかし、肝心のその龍の姿が見当たらない。


「オルム、下だ」


 アデルの言葉を聞いて、首を傾げながら下を向くと其処には


『フンッ。やっと気付いたか』


 子犬ほどのサイズになった炎龍が俺の足元にいた。


「え? え? ええっ!?」


『貴様ら人間には迷惑を掛けたからな。それに、サイズとソフィアと言ったか。其処の二人の戦いも見事だったし、無力な貴様が我に可笑しな命乞いをするのも面白かった。我からはそれの詫びと礼として、我の肉体を貴様らにやることにした。高く売れるからな。まあ、有り体に言えば脱皮したのだ』


「つ、つまり、その体は......?」


「燃やし神が脱皮した後の姿らしいぞ」


 アデルが俺の言葉に答えた。


『その通りだ。後、貴様はさっさと和解すれば良かったなどと申すが我が和解を選んだのは、貴様らに倒されて最早自爆か和解の道しかなかったからだ。しかと、覚えておけ!』


「いや、そんなスモールボディで怒鳴られても迫力に欠けるんですけど」


 体が小さくなったせいで声もちょっと高くなってるし、可愛いとしか言えない。


『黙れ。これでもまだ自爆をすることは可能なのだからな? いや、厳密に言うと契約でそれは不可能だが』


「契約?」


「ソフィアにして貰ったのだ。この辺り一体の火山や山は全て燃やし神のものとし、我々エルフはこの村とその周辺を燃やし神に借りて住まう。そして我々エルフと燃やし神は永久に争うことなく、暮らしていくという契約をな。これ程の契約を契約魔法で結ぶのは普通に考えると、不可能なのだが......」


『ソフィアはやってしまったわ! カッカッカ!』


 炎龍は陽気に笑う。しかし、エディアの視線はそれとは対称的に冷たくなるばかりだった。


「炎龍さんは結構、妥協したんだな」


「それな。最初は侵略者のエルフを絶滅させてやるって息巻いてたのに」


 俺の言葉にサイズが頷きながら続いた。


『我は今でもエルフが好きではないが、アデルのことは中々気に入ったからな。それに、この場所からエルフを立ち退かせばエルフは途方に暮れるのだろう?』


「ありがたい。燃やし神よ」


 どうやら、このエルフの長と龍の間に一種の友情が芽生えたようだ。


「じゃあ、状況説明はこれくらいで良いかい? オルム君?」


 満面の笑みで額に青筋を浮かせながらエディアが言ってきた。


「......ハイ。カマイマセン」


「そうか。そうか。君が素直で良かった。それじゃあ、この質問は前にもしたが正直に答えてくれ。君とソフィア君は一体、どういった関係だ? 君は何者だ?」


 エディアの質問に部屋中に緊張が走った。エディアにはソフィアの悪魔の羽が見られている。言い逃れは出来ない。『正体がバレれば即刻、魔界に帰還する』筈なのに何故か、この場にいるソフィアに俺は助けを求めて視線を送った。


「では、ギルドマスター、ソフィアと契約をして頂けますか? 後、聞くのならお二人も」


 ソフィアは落ち着いた様子で三人に聞く。


「その契約の内容は?」


 エディアが低い声で聞き返した。


「今から聞くことを決して口外しない、というものです」


「口外出来ないようなことなのかい?」


「さあ? して頂けないのであれば、ソフィアはこの場から契約者を連れて退散させて頂くだけです」


「ふむ......」


 ピリピリとした雰囲気をエディアとソフィアが漂わせる。エディアは大切な友人だ。彼女と敵対はしたくない。そう思っていると、サイズが静かに手を上げた。


「あの、ガキんちょ?」


「何でしょうか?」


「実を言うと、お前の話を聞くまでもなく俺はお前の正体もオルムとの関係も知ってたりするんだよな」


「「「「は?」」」」


 サイズ以外、全員の声が重なる。......聞き間違いだよな?


「いやあ、この後、どうせ俺もエディアに正体暴かれて説教されるからさ。ぶっちゃけちゃおうと思って。悪かったなオルム。実はソフィアの契約者は俺になる予定だったんだぜ?」


 頭の中が真っ白になった俺は顔を強張らせながらソフィアの方を見る。すると、彼女は固まっていた。


「……いえ、違うんです契約者。違うんです。決して契約者は貴方以外でも良かったとかそう言うわけではなく、貴方を選んだのには理由が」


「いや、うん。其処は気にしてないからな!?」


 あまりにナチュラルにソフィアがサイズの言ったことを認めるので驚いてしまった。


「あ、一応、言っとくとガキんちょの言ってることは本当だぞ。俺がコイツの契約を断ったときに次から契約の相手を選ぶなら、自分がこの人でなければならないって思う奴にしろって俺が助言したんだ」


 その言葉にソフィアは黙って頷いた。サイズの言っていることは確からしい。俺が突然、発覚したその事実に困惑していると急に誰かが怒鳴った。


「僕達抜きで勝手に話を進めないで貰えるかな!? 契約って何!?」


 エディアだった。


「お、落ち着け。それに、私は別に大丈夫だ」


 アデルが荒らぶるエディアを宥める。


「では、契約をして頂けますか?」


「す、するよ! してやるよ! ソフィア君は悪い人ではなさそうだし!」


「弐の勇者は?」


「私は別にどちらでも良いが、エルフの村を救ってくれた英雄のことは知りたい気もするな。分かった。契約しよう」


 エディアとアデルの了承を得たソフィアが早速、二人に契約魔法を掛けようとすると


「待て。一応、俺にも掛けておけ。俺も口外はするつもりはないが、お前らとしては契約をしておいた方が安心出来るんだろ? それに、もしかしたら俺の知らないことも話に出てくるかもしれないからな」


『私も忘れているぞ』


 サイズと炎龍がそう言ってきた。ソフィアは更にその二人......いや、一人と一匹を契約対象に加えて契約魔法を掛けた。

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