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45 肆の勇者

総合評価ポイントが100を超えました!!!! ありがとうございます! 此処まで執筆を続けてこれたのは一重に皆さんのお陰です。ですのでこれからも、評価、ブクマ、感想、レビューをお願いします!!!


 目的地、フェアケタットに着いた俺達は宿に泊まることになった。しかも、温泉宿だ。


「土産売り場はあっちだぞ?」


 土産売り場に行くという名目で部屋からオルムを連れ出すと、彼はそう言ってきた。


「馬鹿。そんなのは嘘だよ。お前の目にはこの木製の壁が見えないのか?」


「いや、見えるけど。ただの露天風呂と外を仕切る壁だろこれ」


「......想像以上に鈍いなお前。露天風呂の有る温泉に来てやることと言ったら何だよ?」


「入浴」


 やんのかコラ。


「チッ。お前に聞いた俺が馬鹿だった」


 温泉、と言ったらアレしかないだろうに。


「じゃあ、正解は何なんだよ」


 オルムは溜め息を吐きながら聞いてきた。


「覗きだよっ!」


「帰る」


「待て待て待て待て。ガキんちょの裸、見たくないのか!?」


 俺は必死に帰ろうとする彼の腕を引っ張った。


「別に」


「ぶっ殺すぞ! この壁はお前が俺のことを持ち上げてくれたらギリギリ覗ける高さなんだよっ!」


「いや、知らん」


 俺の崇高な考えを知らんの一言で片付けるとは。オルム、食えない奴だぜ。


「クッソ。お前が協力してくれねえならどうしろって言うんだ......いっそのこと、浮遊魔法を使える魔法使いでも探すか!?」


 俺が叫ぶと、オルムの背後から少女がひょっこりと出てきて口を開いた。


「此処に居ますよ」


 ソフィアだった。


「「っ!?」」

俺はぎょっとした。何故、此処に彼女が居るのだろう。


「契約者をソフィアの護衛無しで歩かせるのは危険だと思い、付いてきました。それに、もう夜ですし。どんな輩がいるか分かりません」


「いや、ソフィアのスパルタ訓練を受けたお陰でその辺のチンピラには負けないと思うが」


「ですが、偶然気の狂ったエンシェントドラゴンが街中で暴れまわっている可能性もゼロでは無いですから」


 んな、世紀末みたいなことが起きてたまるか。


「そ、それよりもガキんちょ、浮遊魔法を使えるってのは本当なのか?」


 俺は下卑た笑みを浮かべて聞いた。流石、悪魔だ。


「はい」


『ソフィア君、何処に行ったんだろう。まあ、良いか。先に入ろう』


「エディアが入ってきた.......! じゃ、じゃあ、俺に付与してくれ」


 壁の向こうの温泉から聞こえてきた声を聞き、俺は興奮した様子で彼女に頼む。


「契約者......?」


 すると、ソフィアは判断を仰ぐようにオルムを見た。


「良いんじゃないか?」


 さっすが、オルム。


「分かりました。......はい、これで好きに浮遊出来るようになった筈です。効果は一時間なのでお気を付けて」


 ソフィアが俺に手をかざしてそう言うと、体が徐々に浮き始めた。


「お、おう。ガキんちょにオルム、この借りは忘れないぜ!」


 俺は彼らにそう言い残して、壁の向こうに飛んでいった。本当に自由に飛ぶことが出来る。この魔法は何処かで役に立つかも知れない。


「サ、サイズ!? それに浮いてる!? ......どういう手品か知らないけど取り敢えず死ねえっ!」


 浮遊魔法の応用について考えていると、そんな声と共に突然魔法が飛んできて俺は瞬く間に落下した。考え事をしていたせいで、エディアの裸も見逃した。無念。



 エディアの裸を見ることは叶わなかったが、その次の日には凄いものと出会った。エルフだ。俺達は森の奥で密かに暮らしていたエルフと出会ったのである。


「エルフか......」

その日の夜、寝室でエディアは感慨深そうにそう言った。


「どした」


「いや、ただの一般人である僕がエルフと出会うことが出来たなんて自分でも信じられなくて」


 エディアは可愛く苦笑した。


「八つ首勇者にも出会っちまったからなあ」


「やっぱり、ソフィア君とオルム君は何か持ってるよね。バジリスクと知り合いだし、バイコーンを馬の代わりするんだもん」


「今回の旅もこれだけじゃなかったりしてな」


「不穏なことを言うのは止めてくれ。これ以上、何かがあったら僕の精神が持たない」


 思えば、あのエディアの立てたフラグのせいだったのかもしれない。



「グゥオオオオオオオオオオオッ!」


 周囲の木々を吹き飛ばす程の嵐と共に、封印されし龍が咆哮を上げた。足がすくむ。震えが止まらない。俺は意外と臆病者だったみたいだ。


「俺を今すぐ村に移動させることは出来るか?」


 オルムが落ち着いた表情でソフィアに聞いた。


「多少、手荒な方法になりますがそれで良ければ」


 そして、ソフィアが答える。


「分かった。ソフィアはあの龍の足止めをしておいてくれ。出来るなら倒しても良いが、それよりもエルフの村に被害が出ないようにするのが最優先だ。俺は今から村に行ってエルフを避難させ、アデルに応援を頼んでくる。それまで持ちこたえてくれ」


 一見、先程は落ち着いて見えたオルムの表情だがソフィアにそう指示をするときの彼の唇は小刻みに動いていた。彼も、恐ろしいのだ。この龍が。しかし、オルムはその感情を押し殺して冷静な判断をしている。


「ですが、それでは契約者が......!」


「危ない、って心配してくれるならあの龍をきちんと足止めしておいてくれ。エディアとサイズも一緒に行くぞ」


 きっと冷静さを無くしている俺とエディア、魔法の防御壁を張るので精一杯なソフィアの代わりに自分が冷静にならなければと頑張ってくれているのだろう。本当なら、俺も此処で戦いたい。だが、そうする勇気も気高さも俺は持ち合わせてはいなかった。


「分かりました。では」


 ソフィアが俺達に手をかざす。


「ああ、頼むぜ......ガキんちょ」


 俺がそう言うと、俺の体はエルフの村の方向へとソフィアによって飛ばされた。しかし、予測不能の事態が起きてしまう。オルムとエディアが遥か遠くの方に飛んでいくのに対し、俺の体の速度は減速して途中で落ちてしまったのだ。


 このままでは落下の衝撃で怪我をしてしまう......ことは流石になかった。落下するスピードが急速に落ちたのだ。そのまま俺は地面にふんわりと降り立った。流石、ソフィア。当たり前だが、落下のことも考えてくれていたらしい。


「何処だ此処......?」


 恐らくソフィアの風魔法を俺の体が自動で弱めてしまい、こんな中途半端な所に落ちてしまったのだろう。俺は溜め息を吐いて、周囲を見渡した。木々が青々と這えている。エルフの村に飛ばされる途中で落ちたのだからよくよく考えてみると当然だが、此処は俺達が龍の封印に行くまでに通った森の何処からしい。


「ウウウウウウウウウウウッ! グアアアアアアアアアアアアッ!」


 龍の声が上空から聞こえてきた。恐ろしい声だ。俺が恐る恐る上空を見上げると其処には黒い翼を生やしたソフィアが龍と決死の攻防を繰り広げていた。


「ま、悪魔なんだしそりゃ羽も生えてるよな」


 少し驚いたが、俺の反応はその程度だった。というか、それよりも龍が攻撃として用いる炎が森に落ちてきているのが怖い。山火事になったりしないだろうか。と、思っているとこれもソフィアが消火しながら戦ってくれているお陰でどうにかなっていた。......俺も戦うべきだろうか。


「グウウウウウウウウウウッ!」


 その時、龍が悲鳴にも似た叫び声を上げて落下していった。


「うおっしゃ! ナイスだガキんちょ! やってやれ!」


 しかし、そう思ったのも束の間、龍は尻尾で油断した様子のソフィアをなぎ飛ばしてしまった。ソフィアはそのまま遠くへと飛んでいき、岩にぶつかる。


 ......助けなくては。


 恐れている場合じゃない。変な意地を張っている場合でもない。これは使命でも誰かからの命令でもない。仮に、もうアイツらと会うことが出来なくなったとしても俺は単純にソフィアを助けるために、この足を動かさなくてはならない。


 そう決意してからは、早かった。俺は自らの血にソフィアを助けてくれと訴えかけ、音を越える勢いで走り出す。ソフィアの姿が見えてきた。岩にぶつけられた衝撃で頭から血を流しているようだ。しかも、回復魔法を使えば良いものをその素振りを彼女は見せない。龍はソフィアへと近づいて止めを刺そうとしている。間に合え間に合え、間に合ってくれ。


 ソフィアは依然として動く様子を見せない。体が痛いから動かないというよりも何かに心を奪われているようだ。龍がソフィアに向かって遠くから炎を吐いた。俺はそれには目もくれずにソフィアへと走る。もう少しだ。


「ガキんちょ! この鎌、借りるぜっ!」


 俺は何とかガキんちょの元にたどり着き、彼女が手に持っていた鎌を持ち上げて構えた。


「あ、貴方が何故此処に? というか、その鎌は500kg......」


 放心状態から戻り、動揺した様子のソフィア。しかし、彼女と呑気に話をしている暇はない。俺は自分達を目掛けて一直線に飛んでくる火球に向かって鎌を振った。すると、その火球は真っ二つに引き裂かれてたちまちなくなった。


「こういうカッコいい姿はエディアに見せたかったんだけどな。大丈夫か? 残念ながらお前のパートナーじゃないが、このサイズ様が来てやったぜ! 後、あれ。一昨日の奴。浮遊魔法くれ」

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