41 温泉
そう言えば先程、あの羞恥的な感情に疎いソフィアが恥ずかしがっていたがあれ以前に確実にソフィアが羞恥の感情と怒りを表てに出したことがあった。時は炎龍の森調査の依頼を受けることにした俺とソフィアがエディアの予約していた温泉宿で夕食を食べていた時まで遡る。
「ご馳走さん。流石、エディアが予約した宿だ。旨かったな」
夕食を食べ終えたサイズは満足そうにそう言う。
「そうだね。温泉も楽しみだ。ソフィア君、後で一緒に入ろう」
「はい。宜しくお願いします」
「いや、別にお願いされるようなことをするつもりはないけどね?」
エディアとソフィアのそんな会話を聞いていると、突然サイズが席を立った。
「……オルム、ちょっと付いて来い」
「あれ、何処に行くんだい?」
「土産売り場だよ。ほらオルム、こっちだ」
「ちょっ、おい!」
俺はサイズに服を引っ張られながら、何処かに連れていかれた。
「さてと、着いたぞ」
俺が連れてこられた場所は特に何も無い宿の外だった。周りには普通に店が立ち並んでおり、観光客向けの通りだと言うことが分かる。
「土産売り場はあっちだぞ?」
「馬鹿。そんなのは嘘だよ。お前の目にはこの木製の壁が見えないのか?」
「いや、見えるけど。ただの露天風呂と外を仕切る壁だろこれ」
「......想像以上に鈍いなお前。露天風呂の有る温泉に来てやることと言ったら何だよ?」
「入浴」
「チッ。お前に聞いた俺が馬鹿だった」
何故、俺はこんなにも罵倒されているのだろう。
「じゃあ、正解は何なんだよ」
俺は溜め息を吐きながら聞く。
「覗きだよっ!」
「帰る」
「待て待て待て待て。ガキんちょの裸、見たくないのか!?」
「別に」
「ぶっ殺すぞ!」
何故。
「この壁はお前が俺のことを持ち上げてくれたらギリギリ覗ける高さなんだよっ!」
「いや、知らん」
「クッソ。お前が協力してくれねえならどうしろって言うんだ......いっそのこと浮遊魔法を使える魔法使いでも探すか!?」
サイズが叫ぶと、俺の背後から少女がひょっこりと出てきて口を開いた。
「此処に居ますよ」
ソフィアだった。
「「っ!?」」
突然現れた此処に居る筈のない少女に俺とサイズは驚く。
「契約者をソフィアの護衛無しで歩かせるのは危険だと思い、付いてきました。それに、もう夜ですし。どんな輩がいるか分かりません」
「いや、ソフィアのスパルタ訓練を受けたお陰でその辺のチンピラには負けないと思うが」
「ですが、偶然気の狂ったエンシェントドラゴンが街中で暴れまわっている可能性もゼロでは無いですから」
……大切にされているのは確かなようだ。過保護な飼い主を持った飼い犬感は否めないが。
「そ、それよりもガキんちょ、浮遊魔法を使えるってのは本当なのか?」
「はい」
『ソフィア君、何処に行ったんだろう。まあ、良いか。先に入ろう』
ソフィアが頷いた瞬間、露天風呂の中からエディアの声が聞こえてきた。
「エディアが入ってきた.......! じゃ、じゃあ、俺に付与してくれ」
サイズは小声でソフィアに頼む。
「契約者......?」
「良いんじゃないか?」
「分かりました。......はい、これで好きに浮遊出来るようになった筈です。効果は一時間なのでお気を付けて」
「お、おう。ガキんちょにオルム、この借りは忘れないぜ!」
そう言い残すとオルムは浮遊して行き、遂に温泉の壁を越えた......!
「サ、サイズ!? それに浮いてる!? ......どういう手品か知らないけど取り敢えず死ねえっ!」
バシャンッ、と誰かが温泉に落ちた音がした。