38 宴会
新作投稿しようとしたけど、なんやかんやあって結局、出来なかったので代わりに更新。
その日の夜は本当に楽しかった。アデルの館の使用人の提案で俺達の来訪を祝う宴会が開かれたのだ。『アデルは人間の来訪を祝うなど......』とその提案に難色を示したのだが、他のエルフ達の賛成もあって宴会は決行された。
「さあさあソフィア様、お食事をお召し上がり下さい。此方は今朝、獲ったばかりの鹿のシチューでございます。臭みがなくて柔らかいですよ」
「あの......」
そしてソフィアはエルフ達の魔法痕を治したことでたちまち村の英雄となり一人だけ豪華な椅子に座らされて、もてなされていた。
「本来ならあの椅子は八つ首勇者が世代を交代したときに座る椅子なのだが」
「なんか、悪い」
「......別に謝らなくてもよい。私は燃やし神によって傷付く彼らを救うことが出来なかったのだからな。最早、勇者を名乗ることすらおこがましい」
「だったら、名乗らなければ良いんじゃねえか?」
肩を落とすアデルにそう言ったのはサイズだ。
「......は?」
「お前は成りたくて八つ首勇者なんかになった訳じゃねえんだろ? それなのに勇者として村長として村の奴らを救おうと守ろうとしていた。俺はその姿を確かに立派だと思う。だけど、お前が勇者である必要はないとも思うんだよ。勇者の力なんて押し付けられた力だ。世界からのパワハラだ」
そんなことを言うサイズの顔は真っ赤だった。
「ただの人間の癖に随分と分かったような口を利くな」
「……分かるんだよ」
「は?」
「まあ、だから俺が言いたいのは無理して勇者になんかなろうとするなってことだ。それに勇者ってのは、自分からなるものではなく周りからならされるものだ。お前がエルフ達を愛しているのは分かるが、あんまり気負いすぎんな。勇者の称号がプレッシャーになるなら、そんなもん捨てちまえ。勇者じゃなくても立派な村長になることは出来るんだ。ヒック」
語尾がどこぞの酔っぱらい兵士みたいになってやがる。
「......そうか。ありがとう。良い話を聞いた」
「おう、頑張れよ」
サイズは顔を真っ赤にしながらアデルの肩を叩く。
「サイズお前、かなり酔ってるだろ」
「エルフの酒は旨いからな。ガキんちょも無理矢理飲まされてたぞ」
「ソフィアは17歳だぞ」
「なんでもエルフの村では15歳以上は飲酒OKらしい」
いや、確かに法律上はOKなのかもしれないけど。それにソフィアは悪魔だし。でも、見た目ロリのソフィアが酒を飲むのは何と無く宜しくない気がする。
「何杯も飲まされていたが全く酔ってなかったぞ。残念だったな。べろんべろんに酔ってデレデレになったガキんちょを拝めなくて」
サイズはからかうように言う。
「まあ、普通に考えてあんなに強いソフィアがアルコールごときでどうにかなる筈がないからな。分かってたよ......うん」
だから全く、残念なんかじゃない。
「さてと、俺はエディアに絡みに行こっと。おい、エディア! 酒飲もうぜ!」
そう言うとサイズはワインの瓶を持ってエディアの元に駆けていった。
「嫌だあああああああっ! 来ないでくれえっ! 僕が酒を苦手としているのは君も知っているだろう!? 止めて! お願い! あちょ、あ、美味し。あっ......」
「合掌」
俺はサイズに酒を飲まされているエディアに向かって手を合わせてそう言った。
「人間の癖に中々、興味深いことを言う男だったな」
「ああ。何時もはふざけた奴だが、いざというときは結構頼りになるんだ」
「貴様は......オルムだったか。あの少女から契約者と呼ばれていたが、彼女とは一体どのような関係なのだ?」
この質問、よくされるな。
「詳しい説明は省くが、まあアレだよ。パートナーだ」
「つまり、貴様も彼女と同じように怪物級の力を......?」
アデルはゴクリと唾を飲む。
「ああ。そうだ。今の俺は本気を出せば、ブルースライムを倒すことも出来るんだ! 凄いだろ!」
「雑魚ではないか」
心に刺さる。
「そうだよ」
「だが、あれほどの力を持った彼女がパートナーに選んだのだ。何か理由があるのだろう?」
「ない」
「は?」
いや、だって実際にソフィアが俺を選んでくれた理由なんて......
「強いて言うなら、クロワッサンとメロンパンをあげたことくらいだな」
二個のパンで契約してくれる悪魔。お買い得すぎる。
「......よく分からないが、彼女と良い関係を築くことは出来ているようだな。私の目から見ても貴様ら二人は仲が良さそうに見えた」
「一応、俺よりソフィアが心を開く相手はいないと思ってる」
「随分と自分に自信があるようで」
「いや、あんまり自分のことを下げて言うとソフィアに色々怒られたからさ。少し、調子に乗ってるくらいが良いのかなと思って」
俺の言葉にアデルは笑った。
「そうかもしれないな。全く、貴様らは人間の癖に愉快な奴等だ」
少し、彼が俺達に心を開いてくれたようだった。