37 宿泊地の確保
「燃やし神の呪いに掛かっている方は此方にお並び下さい! 」
俺は大きな声でそんなことを叫びながら列を整理した。俺はソフィアのように治癒魔法で魔力痕を治すことは出来ないが、その手伝いなら出来る。
「人間が一体何故、突然現れ、私達の治療をしてくれているのかを私は知らないが私の呪いは確かに消えたよ。何と言ったら良いのか......」
そんなことを言って握手を求めてきたのは緑色の髪の老人だった。最初、大人達は無償で魔力痕を治して貰えるという話に半信半疑だったのだがボリスが大人達に自分の魔力痕が治ったことを伝えてくれたお陰でこうして大人達も治療を受けてくれるようになったのだ。
「いえ、俺は別に何もしてませんよ。礼を言うならソフィアに言ってください」
「ああ。彼女にも礼を言ったよ。本当にありがとう。この借りは必ず」
老人は深々と頭を下げると、帰っていった。俺の周りにはこの老人の他にもソフィアに治療を施されて嬉しそうに家に帰る大人や子供の姿があった。
「流石、ガキんちょだな。勿論、あの無口で何をしでかすか分からないアイツと当たり前のように付き合ってるお前も凄いと思うが」
「別にそんなことはないだろ。ソフィアが凄いのは確かだが......」
俺がそう言うと、サイズは俺に『馬鹿』と言った。
「んなこと言ったらガキんちょ、怒るぞ? それに俺が初めてアイツと会ったときに比べて、お前と行動するようになってからのアイツは明るくなった気がするしな」
「そうだと良いんだがな。......ん?」
「どうしたんだ?」
「いや、お前とソフィアが初めて会ったときにはもう俺達は一緒に行動していた筈なんだが。俺とソフィアが会う前に、アイツと会ったことがあるのか?」
俺の質問にサイズは顔をしかめた。
「......あ」
「あ?」
「いや、まあ。ああ。そうだ。一応、お前と契約する前にガキんちょと会ったことがある」
「じゃあ、何で俺達が初めて出会ったときにソフィアとお前は自己紹介をしてたんだ?顔見知りだったなら自己紹介なんてしなくても......」
俺が其処まで言うと、突然叫び声が聞こえてきた。
「貴様らは一体、何者なんだ!? 何がしたい!?」
最初に出会ったエルフの青年の声だ。
「え、今更? もう、魔法痕を持ったエルフの大半は治療したぞ?」
「先ほどまでは話の展開が早すぎて呆然としていた。もしや、あの黒髪の少女は今代の参の勇者か?」
「いや、ただの怪物だ。因みに今代の参の勇者は三勇帝国で栄耀栄華を極めてる」
俺の言葉に暫し、彼は沈黙する。
「......それで、あの治療の対価は何だ」
そして、エルフの青年は諦めたようにそう聞いてきた。
「対価を取るつもりはないが、出来たらさっきも言ってた通りこの村に今晩、泊めてくれねえか?」
詐欺師のような笑みで青年に聞くのはサイズだ。
「......そんなことで良いのか? 賎しい人間のことだ。エルフの銃造りの技術や金や銀を求められるのだと思っていたのだが」
「お前の頭ん中で俺達はどれだけ悪人なんだよ!」
サイズのツッコミに俺は苦笑する。エルフ達は人間に愛想を尽かしてこんなところに住んでいるのだ。そう思われていても仕方がない。
「契約者。全てのエルフの魔法痕及び病の治療が終了しました」
そんなことを思っていると、ひょっこりとソフィアが現れた。
「助かった。因みに病気の治療は何故?」
「契約者なら治してやるように言うかと思いまして。......違いましたか?」
「いや、合ってる。ありがとうな」
「いえ、契約ですので」
あ、はい。
「燃やし神による皆の魔法痕を治療してくれたこと、深く感謝する」
「いえ、ソフィアは契約者に言われたことを遂行しただけですので」
......『いえ、~ので』という文をソフィア構文と名付けるのはどうだろうか。
「ちょ、ちょっとソフィア君! 置いていかないでくれよ」
そんなことを考えていると、ソフィアの補佐をしていたエディアが走ってきた。
「お、やっと全員揃ったな」
俺はソフィア、サイズ、エディアを見てそう言った。
「......この礼として、貴様らが先程私に要求していたこの村での宿泊を許可する。といっても、この村に宿などない。私の家を貸そう」
「うっしゃ。ありがとな! お前、名前は? というか自己紹介がまだだったな。俺はサイズだ」
俺達がサイズの自己紹介に続くと、青年も口を開いた。
「私はアデル・アハト・ベルガー、十三代目八つ首勇者の弐番目でありこの村の村長だ」
そして、青年......いや、アデルは当たり前のように衝撃的なことを言った。
「「八つ首勇者!?」」
しかし、驚愕の声を上げるサイズとエディアに対して俺とソフィアはあまり驚いていなかった。
「まあ、ボリスに『アデル様』って呼ばれてたし、周りのエルフ達とは俺達への警戒心が段違いだったからな」
「それに、この村の何処かには必ず、弐の勇者が居るわけですから別段、驚くようなことでもないですね」
「オルム君が最近、ソフィア君化している気がするよ。冷静なところとか......」
「ソフィアに治療されて顔を紅くしてたボリスには滅茶苦茶キレてたけどな」
うるせえ。
「もう日が暮れる。兎に角、私の家に案内しよう」
そう言って歩き始めたアデルに俺達は続く。そして、俺はソフィアの手を握った。
「あの、契約者?」
ソフィアが困惑したように俺の顔を窺う。
「......ボリスに盗られたくないからな」
俺は小さくそう呟いた。
「盗られる、とは? ソフィアは契約者のパートナーです。契約者以外の者とパートナーになるつもりはありませんが」
「分かってる。でも、握らせてくれ。その方が安心する」
どうやら、俺は子供に嫉妬してしまうほどソフィアのことが好きらしい。そして、独占欲も中々のもののようだ。......直さないとな。ソフィアは俺のことをあくまで契約者としてしか見てないんだし。
「契約者がそう仰有るならソフィアは良いですが。それに、不思議と契約者の手を握っているとソフィアも気分が良いです」
頭のリボンを弄りながらそんなことを言うソフィアの破壊力は凄まじかった。