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36 弐の勇者


「っ......またか。待っていろ。痛み止めを持ってくる」


 突如、現れた子供達に青年はそう言うと病院の棚を漁り始めた。その子供たちは苦痛に顔を歪ませ、大粒の涙を溢している。一体、彼らに何があったのだろうか。


「何があったんだ? 痛いのか?」


 俺は身を屈めると、子供達にそんなことを聞いた。苦しそうにする子供達を見ていると、居ても立ってもいられなくなったのだ。


「お兄ちゃん達、誰? ......うっ」


 すると、子供達の中で一番最初にこの部屋に入ってきた少年が不審そうにそんなことを聞いてきた。やはり、体が痛むようで胸を押さえている。


「俺はオルム。こっちはソフィアとサイズとエディア。人間だ」


「「「「「人間!?」」」」」


 その場に居た子供達、全員が驚くようにそう言った。彼らもエルフのようなので仕方のないことだろう。人間を見るのは初めてだろうし。


「まっ、色々あってな。此処に迷い込んで来たんだよ。んで、結局お前らは何でそんなに苦しそうにしてんだ? 後、ついでにガキ。お前の名前も教えてくれ」


 驚く彼らにサイズは厳しい表情でそう聞く。するとやはり、最初にこの部屋に入ってきた少年が答えた。


「ぼ、僕はボリス。皆、燃やし神の呪いを受けたんだ」


 ボリスと名乗った少年は人間である俺達に怯えた様子を見せながらも質問にしっかりと答えてくれた。だが、その説明を理解できる者は俺達の中には居なかった。


「燃やし神って?」


「大昔から此処に住んでいた炎の怪物ことだよ。四代目の弐の勇者様がやっつけて封印したんだけど、最近は復活しそうになっているみたいで自分を封印した弐の勇者様と同じ種族である僕達に封印の中から呪いを掛けてくるんだ」


 そう言うとボリスは服を捲って自分の肌を俺達に見せた。彼の胸には大きな魔方陣のようなものが浮き出ていて、その魔方陣の中とその周辺の肉が火傷を負ったように爛れている。所々、皮膚がペロンと捲れているところもあり中々衝撃的であった。


「おいボリス、何を話している。その者達は人間だぞ!」


 『燃やし神』とやらの恐ろしい呪いに俺達が驚愕していると、小さな瓶を持ってきた青年が戻ってきた。


「で、でもアデル様。この人達、先生が言ってたみたいな悪い人じゃないよ?」


「醜い本性を仮面で隠すのが人間だ。騙されるな。ほら、痛み止めを持ってきてやったからその人間達から離れろ」


 そう言うと青年は瓶から白い軟膏のようなものを出して、ボリスの皮膚に塗る。


「なあ」


 俺は青年に声を掛ける。


「......何だ」


 すると、彼は鋭い目を此方に向けて俺の言葉に応えた。


「それって痛み止めなんだろ? ちゃんと治療してやることは出来ないのか?」


「何故、人間がそのようなことを聞く。貴様らには関係ないだろう」


「まあ、そう言われてみればそうだな。だけどほら、人間は愚かな生き物だから自分に関係のないことが気になってしまうんだよ。面白いだろ?」


 苦笑しながらそう言う俺を青年は鼻で笑った。かと思えば、溜め息を吐いた。


「......この火傷の正体は先程、ボリスから聞いただろう」


「ああ。燃やし神の呪いだ、って聞かされた。でも、正直よく分からなくてさ。燃やし神って誰なんだ? 呪いってなんなんだ?」


 俺の質問に青年は暫し沈黙し、口を開いた。


「かつて、醜い権力争いに明け暮れる人間達に嫌気が差した一人のエルフが居たんだ。彼は多くのエルフを引き連れて人間に見つからない安住の土地を探し求めた。そして、やっとの思いで見つけた場所が此処。貴様ら人間が炎龍の森と呼ぶ森の奥地だ。だが、彼らが見つけた土地は決して安住の土地などではなかった」


「それは......燃やし神が居たからか?」


「ああ。察しが良いな。人間。深い森の奥地であり火山の付近ということもあって人に見つかる可能性はゼロに等しい。そんな絶好の場所を見つけたエルフ達は喜んだ。彼らの前に燃やし神が現れるまでは。突如現れた燃やし神は口から青い炎を出してエルフ達に襲いかかってきた。が、燃やし神はエルフの指導者である彼によって封印された」


「四代目の弐の勇者のことだね」


 青年は子供達に痛め止めを塗りながらエディアの言葉に頷いた。


「ああ。燃やし神というのは貴様らがこの森の地名にも付けている炎龍のことだ。巨大な龍だったらしい。そして、呪いというのは......」


「強力な魔力を浴びると体に魔方陣が現れて魔法痕という傷が出来ることが有りますが、その現象のことでしょうか?」


「ほう。何故、分かった?」


 ソフィアの推測に青年は少し感心したように聞く。


「先程、燃やし神を封印する力が弱まっているとお聞きしたので。封印された燃やし神が垂れ流している魔力が原因なのではないかと」


「其処まで分かっているのなら、この傷を治せるか治せないかも分かるだろう人間。魔力痕を薬で治療することは不可能だ。魔法で治療することも不可能に近い。それこそ、聖女である三勇帝国の参の勇者でも連れて来ない限りは無理だな。もう、良いだろう。帰ってくれ」


 不機嫌そうにそう言うと、青年は無言で痛め止めを子供達に塗り始めた。もう、会話をする気はないようだ。


「アデル様、ありがとう。実は僕のお母さんも『貴重な痛め止めを大人が使う訳にはいかない』って言って痛みを我慢してるの。あの.......」


「分かった。ボリス。お前の母のところにも後で行こう」


「僕のお父さんも最近、呪いにやられたの!」


「私のお兄ちゃんも!」


「ボクのお婆ちゃんも!」


「分かった分かった。後で、全員のところに行く」


「「「お願いします!」」」


 健気な子供たちと、エルフには優しい表情を見せる青年を黙って見ていた俺は無言でソフィアの方を見た。


「魔法痕程度でしたら治療は可能かと」


 ソフィアは俺の視線の意図を読み取り、そう応えた。


「え、ソフィア君。今の分かったの!?」


「ソフィアは契約者のパートナーなので」


 驚きの声を上げるエディアにそんなことを言うソフィア。彼女の顔はちっとも笑っていないが少し......いや、かなり嬉しかった。ソフィアが俺をパートナーとして認めてくれて。


「ソフィア、頼む」


「分かりました」


 そう言うとソフィアはボリスに近付き


「魔法痕の治療をしても宜しいでしょうか?」


と、尋ねた。

 俺の頼みだからといって強制的に治療する訳ではなく、きちんと本人に許可を取っているあたり、ウチの悪魔は優秀だ。


「え?」


 ソフィアの言葉に間抜けな声を漏らすボリス。青年曰くあの魔法痕を治すには参の勇者レベルの治癒系魔法が使えなければいけないらしいので驚くのも無理はない。そしてソフィア、お前は一体、何者なんだ。


「その程度の魔法痕でしたら、ソフィアの魔法で治療することが可能です。どうでしょうか?」


「ほ、本当に治してくれるの?」


 ボリスは戸惑いながらソフィアに聞く。


「ええ。契約しましょうか?」


「い、いや、大丈夫だよ。治療、お願い」


 ソフィアに迫られて少し、顔を紅くするボリス。


「顔を赤らめるなっ! ソフィアは俺の契約者だぞ! ......何でもない」


 決して、俺もソフィアに迫られたいとか思った訳ではない。


「分かりました。どうぞ」


 ソフィアが『分かりました』と言って、ボリスの胸に手をかざしてから一秒も経たないうちにボリスの胸に変化が現れた。彼の胸の魔方陣が半時計回りを始め、たちまち彼の胸の火傷が消えていったのだ。

 そうして治療された彼の胸に火傷の痕は全く見当たらない。


「す、凄い......! あ、ありがとう。ソフィアお姉さん!」


「誰がソフィアお姉さんだ! ソフィアはボリスの姉じゃな......悪い。何でもない」


 決して、10歳くらいの少年に向かって対抗心を燃やしたり、俺もソフィアの弟になりたいとか思ったりはしていない。


「契約者。先程から様子がおかしいですが何かありましたか?」


 普通に心配された。死にたい。


「いや、ちょっと、変な思考が過ってな」


「成る程。平常運転ですか」


「辛辣!? ソフィアさん、最近毒舌になってきてません!?」


「ソフィアが暴言を吐くことはありません。従って、ソフィアは毒舌ではありません。ソフィアが言うのは事実だけです」


 なんか酷い。でも、ソフィアとのこんなやり取りも好きだ......やっぱり、今日の俺は何かおかしいな。信じていなかったとはいえ、一度ソフィアが死んだと言われたので再会出来たことで気分が高揚しているのかもしれない。


「見て! アデル様! あの人が治してくれた!」


 ボリスは痛み止めを黙々と塗り続けている青年の元に行き、自分の胸を見せた。どうやら青年は俺達のやり取りを見ても聞いてもいなかったらしく、彼は完治したボリスの胸を驚いたように凝視した。


「......何故」


「やっぱ、ガキんちょすげえな」


「ああ。僕もこんな冒険者が自分のギルドに居ると思うと鼻が高いよ」


 目が飛び出るんじゃないかというくらいに驚く青年とは対称的にサイズ達は何処か呆れた様子でソフィアの力を誉めていた。


「ボリス、他の子供や皆の家族に此処に列を作るように行ってくれるか?」


 そして俺は魔方痕を治すことですっかり俺達人間(と悪魔一人)を信用してくれた様子の少年にそんなことを頼んだ。


「う、うん。分かった! ありがとう! 皆、此処に並んで!」


「ソフィア、手を煩わせて悪い」


「いえ、契約ですので」


 そんなことを話していると、俺達の目の前には長蛇の列が作られていた。

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[一言] 美人で優しげな行動を取るお姉さんが子供に人気なのは仕方ない から嫉妬はするなオルムよ
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