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35 エルフの村

こ う し ん わ す れ て た。


 体は細いが背は高く、金髪で青色のつり目。そして、耳は長く尖っている。それがその青年の容姿だった。


「俺はオルム・パングマン。冒険者だ。炎龍の森を調査していたら突然爆発が起こり、気が付いたら此処にいた」


 自分が何者なのか、何故、此処に居るのかを説明する俺の声は震えていた。というのもこの青年がただ者ではないことに気付いてしまったからだ。いや炎龍の森の奥地に居る時点で十分、ただ者ではないと分かるのだがそれよりも決定的な証拠があったのだ。


「......嘘は言っていないようだな」


 青年は男のようにも女のようにも聞こえる中性的な声でそう言った。兎に角、疑われずに済んで良かった。


「しかし、何故人間が此処に? まさか、結界を破ったとでも言うのか......? いや、そんな筈はない。あの結界は四代目が命を削って作った最高傑作。それこそ、八つ首の一人でも持ってこない限り破れる筈がない」


 何やら考え事をしているらしい青年はそんなことをブツブツと呟いていた。すみません。その結界、うちの堅物が破っちゃったかもしれないです。


「あの~」


「何だ?」


「黒髪の少女と銀髪の少女。後、剣を持った男を見ませんでしたか? 俺と一緒に吹き飛ばされた筈なんですが」


「......それなら、お前が倒れていたところで死んでいた」


 青年は軽く俯きながら俺に告げる。


「え?」


 信じられなかった。あの三人が死んだ?


「その三人は全員、焼け死んでいた。その中で、お前はかすり傷しか負っていなかったから回復するかもしれないと思い、この病院に運んだのだ」


 辺りを見回すと、少々前時代的ではあるが医療機器が置いてある。此処が病院だというのは事実のようだ。


「一体、此処は何処なんだ?」


 俺は一旦、動揺を抑えて更に青年に質問をしてみた。


「仲間が死んだと言うのに自棄に落ち着いているな......。此処は貴様ら人間達が『炎龍の森』と呼ぶ森の奥地に存在する名もなき村だ」


 確かにソフィア達が死んだと聞かされたときは驚いたが、よくよく考えればソフィアがあれしきの爆発で死ぬ筈がないし、サイズとエディアもなんやかんやで生きてそうな気がする。取り敢えず、今優先すべきはこの村について知ることだ。


「アンタが此処の村長なのか?」


「ああ。何故、分かった?」


「威圧感が凄まじかったからだよ。その耳、エルフだろ?」


 俺は青年の細く尖った耳を指差して聞く。第一次人魔大戦よりもずっと前に殺伐とした魔界に嫌気がさして人間界に移り住んだ種族。それがエルフだ。細く尖った耳が特徴の彼らは魔族でありながら人と共存し、第一次人魔大戦では共に魔族と戦ったが、700年前に突然、人間界から姿を消した。


「......よく分かったな」


 そんな幻の存在に出会えたと言うのに、俺が言うほど動揺していないのは最近俺の中で非日常が日常になりつつあるからだろうか。


「エルフの容姿は現代の人間にも伝わっているからな」


 彼は俺の言葉をどうでも良さそうに鼻で笑った。


「二度と交わらぬ存在の容姿を後世まで伝えて何になるというのだ。やはり、人間は愚かだな」


「確かに気高いことで有名なエルフと比べたらそうかもな」


 俺が苦笑していると、この病院の入り口の方から扉を勢いよく開ける音が聞こえた。


「契約者! 無事ですか!?」


 風のようなスピードで俺が寝かされているベットに近付いてきたのはソフィアだった。寡黙で感情の起伏が乏しい彼女にしては珍しく、少しだけ慌てたような彼女の声を聞き俺は胸を撫で下ろす。


「ああ、俺は大丈夫だ。それよりサイズ達は大丈夫か?」


 そして、俺がそんなことを聞くとソフィアの後ろからはその問いに答えるように見覚えのある二人の男女が歩いてきた。


「おいおい、そんなに急ぐなよガキんちょ。オルムは無事だって言われてただろ」


「先程、会ったばかりの者の言うことなど信用出来ません」


「オルム君は相変わらず、ソフィア君に大事にされているね」


 サイズとエディアに火傷の痕はない。だが、完全に服が修復されているソフィアとは違って二人の服は焦げており、如何に爆発の威力が凄まじかったのかが伝わってきた。


「何故、生きている......?」


 死んだ筈の三人が平然として現れたことに驚いたのだろう。エルフの青年は目を見開いて、疑問を漏らした。


「意識が戻ったガキんちょが瀕死の俺とエディアに回復魔法を使ってくれたんだ。お陰さまでこの通り体は無事だぜ? 服はボロボロになっちまったけどな」


「ソフィア君だけは服に魔力で修復出来る能力が備わってたみたいで今は元通りになってるけどね」


 サイズの言葉をエディアが補足する。


「兎に角、無事なら良かった。関係のないサイズ達を巻き込んでしまってすまない」


 俺は深々と頭を下げた。


「いや、無関係なのに付いてきた俺達が100悪い。気にすんな」


 それから俺達はエルフの青年そっちのけで先程の爆発について話をした。どうやら皆が爆発の被害をモロに受けている中、俺だけが軽傷で済んだのはソフィアが力を振り絞って俺に防御魔法を掛けてくれたお陰らしい。感謝しなければ。


「ぬかりました。申し訳ありません。あの結界はかなり完成度が高く、破壊が極めて困難でした。それをソフィアが無理に壊したせいで結界を形作っていた大量の魔力が行き場をなくして爆発したのだと思います」


 申し訳なさそうに頭下げるソフィア。そんな彼女を俺が励ますために声を掛けようとするとそれより先にずっと黙っていたエルフの青年が口を開いた。


「結界を壊しただと!? どういうことだ!?」


 青年は顔を驚愕と恐怖に歪ませながらソフィアに叫ぶと、俺に説明を要求した。


「あ、あはは。もしかしてアレ、壊したら駄目な奴でしたか?」


 俺は誤魔化すように笑った。額を冷や汗が伝う。


「アレは四代目の『弐』が命を削って作った本当の意味での大結界だぞ!? それを壊した!?」


 四代目の『弐』とは唯一八つ首勇者の中でエルフだった初代『弐の勇者』の四代目のことだろう。エルフが人間界から姿を消したのは弐の勇者が四代目になった頃なので四代目の弐があの結界を作ってエルフの村をこの土地に作ったのだとしたら辻褄が合う。

 あっれえ俺達、結構ヤバいことやっちゃってね?


「い、いやあ......まさか温泉で有名な観光地の近くにかの有名な弐の勇者様が御作りになられた結界が有るなんて普通考えないじゃないですか~?」


「・・・・」


 青年は不機嫌そうに俺を見る。


「す、すみませんでしたああああああああああっ!」


「先程まではタメ口を聞いていたというのに分が悪いと気付くなり敬語を使うとは。此処まで白々しいと逆に心地よいな。これだから人間は......」


「実際にあの結界を破壊したのはソフィアです。すみませんでした。責任はソフィアが取ります」


 ソフィアが厳しい表情で頭を下げると、青年は頭を振った。


「もう良い。これで我々が600年間、子に伝え続けてきた話は間違っていなかったことが分かった。そう考えることにしよう。早く荷物を纏めて帰れ。そして勿論この村のことは他言無用だ。愚かな人間でもそれくらいは分かるだろう?」


「……なあなあ、エルフ」


 青年の話が終わると、それを黙って聞いていたサイズが口を開いた。


「何だ」


「いやあ、俺達があの爆発で意識を失ってたせいでもう夕方だろ? 今から帰ると森を抜ける前に夜になっちまう。一晩で良いから、この村に泊めてくれないか?勿論、金は払うぜ? いや、クリストピア王国の通貨が此処でも使えるのかは分からないが......使えなかったら肉体労働でもするわ」

 

 サイズの言っていることは確かに間違っていない。と言うのも、結界のある位置から森の出口まで歩くと4~5時間掛かるのだ。幾ら、ソフィアが付いているとは言っても流石に夜の森を歩くのは躊躇ってしまう。しかし、どうやらサイズの本来の目的は夜を回避することではなかったらしく


「ソフィアの暗視魔法を使えば夜の森くらい......」


 と、小さな声で言うソフィアにサイズは


「しっ。黙ってろ。俺はこのエルフの村の奥に何が広がっているのか知りたいんだ。恐らく、エディアもそうだ。お前らもこの村の奥を調査したいんだろ?」


と、彼女の言葉を遮って耳打ちしていた。相変わらず悪知恵だけは働く奴だ。


「……成る程」


 ソフィアはサイズの言葉に小さく頷いた。


「この村では通貨など流通していない。皆、物々交換をしたりして生きているのだ。そして、人間の労働力などこの村には必要ない。さあ、早く帰れ」


 しかし、青年は酷くあっさりとサイズの頼みを断ってしまった。


「其処を頼むよ!」


「却下だ。早く立ち去らなければ、蜂の巣にするぞ」


 そう言うと青年は腰に付けた皮袋から何やら金属の筒のようなものを取り出した。見たことのない物体だったが、彼の台詞とその見た目から何と無く察しがついた。


「それは銃かい? 僕の知っている長い奴とは随分、形が違うようだけど」


「当然だ。貴様ら人間は銃の強さに気付かず、研究を怠った。そのせいで貴様らの銃作りの技術は我々より最低でも1世紀は遅れているのだからな。これは自動式拳銃と言って、薬莢の排出や次の弾の装填が自動的にされる銃だ。この銃によって穴を開けられたくなければ、早く帰れ」


 どうやら誇り高きエルフ様は薄汚れた人間が酷くお嫌いらしい。


「うう、痛いよお」


 すると突然、銃を向ける青年とその銃を向けられた俺達の前に子供が一人......。


「アデル様あ。助けてえ」


 いや、二人、いや、無数の子供達が泣きながら現れた。

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