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34 想定外の事故


「それじゃあ、行ってきます」


 早朝、荷物を纏めた俺達はギルドを発つところだった。


「ご武運を祈るでござるよ!」


 ウカトへの挨拶も済んだことだし、そろそろ出発しようとしていると突然厩舎の方から悲鳴が聞こえてきた。


「ちょっ!? どんだけ餌食べるんすかこの馬!? って、そっちは酒場で出す料理のための肉っすよ! 馬は食べれな......ぎゃああああああっ! ギルマス! オルムさん達が連れてきた馬が酒場のための肉を一口で平らげやがったっす! は? え? 馬って肉食べるんすか!?」


・・・・・・。


「......逃げるぞ」


「了解しました。速度上昇の魔法を掛けますね」


 全速力で走る俺にソフィアは手をかざした。確かに足が軽い。まるで誰かが背中を押してくれているようだ。俺が更にスピードを上げようとすると、何処からともなく二人の男女が現れ、俺達と並走し始めた。


「あ、俺にもお願い」


「僕にも」


「了解しました。......え?」


 あまりにも自然に合流してきた二人の要求にソフィアは思わず応えてしまった。


「何で付いてきたんだよ。サイズとエディア」


「なんか面白そうだったから」


「ギルドマスターとしてソフィア君の実力を見ておきたかったから」


 二人は子供のような笑みを浮かべながら理由を述べる。


「......炎龍の森は暗鬱の森の最奥部に生息している魔物と同程度の実力を持った魔物が生息していると聞きました。出来る限りは守りますが、もしものことがあっても責任は取りませんよ。ソフィアは契約者を優先しますので」


 ソフィアは走りながら小声で二人にそう告げた。何時もと変わらない事務的な彼女の言葉。しかし、俺はその言葉に違和感を覚えていた。ソフィアは何時もなら絶対に言わないであろう言葉を二人に言っていたのだ。


「おう。それくらい承知の上だ」


「僕はギルドマスターだからね。あまり僕の実力を舐めないでくれ」


 どうやら二人はその違和感に気付いていないらしい。やはり、日頃から常にソフィアと一緒にいる俺にしか気付けない違和感なのだろう。


「ソフィアが俺に許可を取らずに判断をするなんて珍しいな」


「......契約者なら二人を守るように言うだろうと思いまして。すみません。貴方の判断を仰がず、勝手に判断してしまって」


「いや、謝らないでくれ。実際に俺はソフィアに二人を守って貰うつもりだったし。自分で判断をしてくれるのは助かる」


 出会った頃は何をしでかすか分からない危うさが有ったが、最近のソフィアは人間界の常識を身に付け始めたのか、はたまた俺の思考に近付き始めたのかかなり大人しくなった。それでもたまに、恐ろしいことを口走る時は有るが。


「そうですか」


「おう」



 それから俺達はかなりの距離を走り続けて炎龍の森に到着した。この森には暗鬱の森の魔物と同レベルの魔物が生息しているのだ。俺は気を引き締めるために顔を軽く叩いた。しかし、実際の調査は俺が想像していたよりも酷いものだった。先程まで生きていたモノが見るも無残な肉の塊へと姿を変え、生臭い血の香りが鼻腔を刺激する。


「予想よりも魔物の数が多いですね。ギルドで換金出来るので心臓だけは抉っておきましょうか。また服が血塗れになってしまいました。契約者、リボンは汚れていませんか?」


「あ、ああ。大丈夫だ。もしかしたら返り血が掛かるかもしれないし、今は外しておいたらどうだ?」


 俺は困惑する心を抑えながらそんなことを提案する。ソフィアは度々、リボンを弄くったり、頭に付いているか確認していた。きっと大切な物なのだろう。


「はい。そうします」


 ソフィアは頭からリボンを外し、丁寧に折り畳んでポケットに入れた。


「「......うわあ」」


 サイズとエディアの二人はソフィアに呆れたように視線を送る。無理もない。彼らは化け物レベルの魔物の死体が積み重なっていく様を見ていたのだから。


「黒牙猪のときにも思ったが、ホントにガキんちょってナニモンだよ」


「キミのような逸材が僕のギルドにいるなんて頼もしい限りだよ」


「まあ、当然の反応だよな」


 俺は言葉を無くす二人にそう言って苦笑するしか出来なかった。その後も森の調査は続いたのだが、現れる魔物......いや、現れずに影で俺達を狙っていた魔物までをもソフィアがズタズタに引き裂いてしまったので特にトラブルもなく、調査は進んだ。


「......っ!?」


 しかし、突然ソフィアは立ち止まってしまった。それも驚いた表情で。


「どうした?」


 俺がソフィアに尋ねる。


「止まってください。この辺りには何者かが幻惑魔法と結界魔法を掛け合わせて作ったらしい幻惑結界が存在しています。このまま進めば、この結界に惑わされ方向感覚が狂います」


「ウカト君が言っていた奴だね。真っ直ぐ進んでも気が付いたら森の入り口に戻ってしまうという」


 ソフィアの言葉にエディアが頷きながら言う。


「で、でも、ガキんちょになら破壊出来るんだろ? 昨日、言ってたじゃねえか」


「確かにソフィアの魔力であれば、大抵の結界は容易に破壊することが可能です。ですが......」


 ソフィアは厳しい表情で目の前を見る。俺の目には見えないが、きっとその幻惑結界とやらを見ているのだろう。


「難しそうなのか?」


「そう簡単に破壊することは出来ないと思います。この結界は恐ろしく完成度が高く、魔法の得意なソフィアでも作れるかどうかは分かりません。恐らくこの結界を創ったのはソフィアに匹敵する人物でしょう」


 あの向かうところ敵なしのソフィアがこんなにも頭を抱えているのは初めて見た。そして、ソフィアに匹敵する人物とは一体誰なのだろう。その答えもこの結界を破れば分かるのだろうか。


「無理はするなよ?」


「はい。三人とも、ソフィアの後ろに居てください。今からこの結界を破壊します」


「お、おう。何かあったら守ってくれよ? ガキんちょ」


「頼んだ。ソフィア君」


 俺達がソフィアの後ろに並んだのを確認すると彼女は右手を結界が有るらしい場所に近付けた。すると突然視界が真っ白になり、謎の爆発音と共に俺達は意識を手放した。



「……ろ」


 男の声が聞こえる。サイズの声ではない。彼よりももっと中性的な声だ。


「……きろ」


「んん。後、二時間」


「黙れ。起きろ」


 その声と共に頭が衝撃を受ける。


「いってえっ! 誰だよ。目的は何だ? 言わなきゃソフィアに言いつけるぞ!」


「その台詞は私の台詞だ人間。貴様は誰だ? 此処に何故いる?」


 俺が目を覚ますと、目の前にはソフィアでもサイズでもエディアでもない。謎の青年が居た。

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