33 フェアケタットのギルド
更新遅れてすみません! 書き溜めは大量にあるんですが、ついつい、忙しくて更新を忘れてしまっていました! 評価、ブクマ、感想、レビューを頂ければ更新速度も上がると思うので宜しくお願いします(孔明の罠)
「お、来ましたな! おーい、ワレはこっちですぞ!」
温泉の町、フェアケタットに到着した俺達がエディアの案内で冒険者ギルドにやってくると、ギルドの前でそわそわしていた男性が此方を見てそう叫んだ。
「そんな大声を出さなくても聞こえるよ。久しぶりだね。ウカト」
「おお。その声はやはりエディア氏でござるな!? ワレ、皆が来るのを朝からずっと待っていたのでござる。でも、中々来ないから心配したでござるよ」
どうやらこの、恰幅の良い不思議な喋り方の男性がこの街のギルドマスターらしい。
「いや、フェアケタットに着くのはお昼頃になるって言っただろう。まあ、良いか。取り敢えずこのバイ......馬を厩舎に連れていってくれ。一番、大きな小屋を頼む」
車を止めて皆が降りると、エディアはバイコーンを指差してそう言った。
「でもエディア氏、ワレが見たところこの馬はそんなに大きくないでござるよ? 下手に大きい厩舎に入れるとかえってストレスになる可能性が」
「この馬は広いところじゃないとストレスが溜まるんだ。頼む」
「......分かりました。んじゃま、取り敢えず皆さん入って下さい」
エディアに軽く圧力を掛けられたウカトはバイコーンの手綱を部下に渡すと俺達にお辞儀をしてそう言った。ギルドマスターという高い地位の人間なのに腰が低いな。そんなことを考えながら、ウカトに案内されてギルドに入ると其処には驚くべきものが広がっていた。
「何これすげえっ! ギルドの中に足湯が有るのか!?」
サイズは子供のように目を光らせて言う。そう、彼の言う通りフェアケタットのギルドには部屋の四隅に足湯が作られていたのだ。冒険者達は其処に足を浸けながら楽しそうに会話をしている。
「近くに火山が有る、という地域の特色を活かしたユニークなギルドでござるよ。貴殿らも後で利用してくれると嬉しいでござる」
「成る程......先程から腐卵臭をさせていたのはこれですか」
ソフィアは足湯の方を見ながら、軽く頷いた。
「それでは早速、依頼についての話をするでござるか」
ウカトがそう言い、受付の奥に俺達を連れていこうとすると突然冒険者が足湯をしながら大きな声で此方に話し掛けてきた。
「お、もしかしてこの前ウカトの兄貴が言ってた最強の冒険者ってその人達か?」
「んな訳ないだろ。馬鹿かお前は。あの、小さな少女を見てみろ。あの子が最強の冒険者だと思うか? あの人達は四人兄弟で、商人なんだよ。遣り手のウカトの兄貴のことだ。きっと、良い話が舞い込んできたから商談をするんだろう。なあそうだろ? ウカトの兄貴!」
「いやいや、でも見ろよ。あの銀髪の人は魔法使いの杖を持ってるぜ? それも恐らくかなり一級品だ。二人の男の人達も剣を持ってるし、やっぱり冒険者なんじゃねえの?武器を持ってないのはあの黒髪の女の子だけだし、きっとあの子は観光目当てで付いてきた友人か何かなんだろ」
冒険者達は仲良さげにそんな会話をする。一方、議論の中心である筈の俺達は置き去りだ。しかも、当の『最強の冒険者』は非戦闘員扱いされてるし。
「残念ながら最強の冒険者というのは君が今、『観光目当てで付いてきた友人か何か』と言ったこの人なのでござるよ。気になるなら、後で詳しく教えるから今は待ってて欲しいでござる」
ウカトは冒険者達にそう言うと、関係者以外立ち入り禁止の扉を開けて俺達をギルドの奥に通した。
「随分、冒険者達と仲が良いみたいだね」
移動中、エディアが笑いながら言う。
「そりゃあ、ギルドマスターは冒険者の信頼を勝ち取らないといけないでござるからな。それに皆、良い人ばかりで話していて楽しいでござる」
「100点満点の回答をありがとう。ギルドの奥に引きこもってばっかのエディアとは大違いだな」
「だ、黙れ! そもそも僕のギルドの冒険者はサイズみたいなチンピラが多くて怖いんだよ」
「誰がチンピラだって?」
「キミだよ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。此処がこのギルドの会議室でござる。ささ、好きなところに座って下され」
ピリピリとしたオーラを漂わせ始める二人にウカトはそう言った。
「すまない。では、早速話し合いを始めようか。......とは言っても、依頼を受けるのは僕じゃないんだけどね。ウカト、紹介するよ。左から順にオルム・パングドマン、ソフィア・オロバッサ、そしてサイズだ」
椅子に座った俺達はそんな風にエディアに紹介されながら、頭を下げた。
「おお、ご丁寧にどうも。冒険者ギルドのフェアケタット支部ギルドマスター。ウカト・ナンジエでござる。ソフィア氏とオルム氏のチートっぷりはエディア氏からお聞きしているでござる」
「いえいえ、俺はソフィアの付き添いみたいなモノなので強くは有りませんよ。チートなのはソフィアです」
「ですが、ソフィアの判断だけで動けばきっとギルドマスターの納得のいく結果を出すことは出来ません。彼の指示が有って初めてソフィアの力は有用になるのです。ですので、契約者をただの一般人だとは思わないで下さい」
ソフィアはそんな風に俺の言葉を補足する。ウカトに一般人が調査に参加するなと言われたら困るので、ソフィアのその補足は助かった。ソフィア一人で調査をさせたら、調査地の生態系を崩壊しそうだしな。
「勿論、ワレはソフィア氏のパートナーであるオルム氏を軽視するつもりは無いでござるよ。安心してくだされ。それでは自己紹介も終わりましたし、依頼の内容を簡潔に説明するでござる」
柔らかい笑顔を浮かべながらウカトはそう言うと、ホワイトボードを机に置いて図を書きながら依頼の説明を始めた。その内容は簡単に言うとこうだ。このフェアケタットの街の近くには『炎龍の森』と呼ばれる森が有る。その森の奥には巨大な火山が存在し、其処には3000年の時を生きる炎の龍が居るという伝説が有るそうなのだが、誰もその森の調査に成功したことがないらしいのだ。
話だけ聞いていると、暗鬱の森と大して変わらなそうなのだが炎龍の森の調査が難しい理由は単純に生息している魔物が強いからではない。勿論、それも有るのだがそれよりも調査の障壁となっているのはその森の性質らしい。何故か、調査をしに行った冒険者達は真っ直ぐ進んでも気が付いたら森の入り口に戻っているのだと言う。
「ワレはそのことで長年、頭を悩ませていたのでござる。しかし、偶然エディア氏から暗鬱の森の調査を成功させたというソフィア氏とオルム氏の話を聞きましてな。居ても立っても居られなくなって、この度はお二方をこの街にお呼びしたという訳でござる。報酬は金貨3000枚程でどうでござるか?」
金貨3000枚。家が一軒立つ額だ。
「......ソフィア、どうする?」
幾ら報酬が良いと言っても、当たり前だがその依頼を達成出来なければ意味がない。どうやらこの前のようにはいかないようだし、依頼を受けるかどうかはソフィアに決めてもらうしかないだろう。戦うのは俺ではなく、ソフィアなのだから。
「恐らく、真っ直ぐに進んでも入り口に戻ってしまうというのは幻覚魔法や結界魔法によるものでしょう。そして、そのどちらもソフィアは解除することが出来ます。聞いた限り、魔物の強さは前回と同じくらいのようなので契約者を守りながら戦うことも容易いです。ソフィアとしては受けて損のない依頼だと思います」
ソフィアが出来ると言うなら、出来るのだろう。そう思い俺はウカトに依頼を受けさせて貰うと伝えた。