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32 温泉の街へ


「魔界に温泉は無いのか?」


「はい、恐らくは。火山付近で暮らす少数種族が似たような文化を持っている可能性は有りますが」


「へえ~。実は俺も温泉は初めてなんだよ。楽しみだな」


 俺とソフィアは依頼を受けるため、温泉の街フェアケタットを目指して馬車を走らせていた。勿論、サイズとエディアも一緒だ。


「ねえ......オルム君、これは馬車なのかい?」


 何故か苦い顔をしながらエディアがそんなことを尋ねてきた。


「当たり前だ。てか、そもそもこの馬車を貸してくれたのはエディアだろ?」


「い、いや、まあそうなんだけど。じゃあ、もう一つ質問して良いかい?」


「どうぞ」


「これが馬車だと言うのなら......」


「ギュイ、ギュイーン!」


「何故、車を引く動物が馬じゃなくてバイコーンなのかなっ!?」


 エディアはひきつった笑顔を浮かべながら、そう叫んだ。


「何を言ってるんだ。どう見ても立派な馬じゃないか」


「いやいやいやいや、さっきの鳴き声聞いた!? ギュイ、ギュイーンだよ!? しかも、頭からは角が生えてるし! 背中には翼が有るし! どう考えても馬じゃないよ!」


 エディアはバンバンと馬車の椅子を叩いて反論する。


「まあまあ、落ち着けよエディア。バイコーンが引いてくれる馬車......もとい、バイコーン車に乗るなんて人生で一度有るか無いか、ってレベルの貴重な体験だぜ? 速さも普通の馬の3倍くらいの速さだし、悪いことなんてないじゃねえか」


「そうだそうだ」


「ソフィア達以外の人間がこのバイコーンを見ても、普通の馬に見えるようバイコーンに幻惑魔法を掛けておきました。ギルドマスターが案ずるようなことは起こらない筈です」


「......だったら良いんだけど。というか、どうやって用意したのこの子。バイコーンが人になつくなんて聞いたことがないんだけど」


 エディアは諦めたように溜め息を吐くと、そんな質問をしてきた。


「あ、それ俺も聞きたい! こんなカッケエ魔物、どうやって仲間にしたんだよ」


「え? 借りた」


 俺の言葉を聞くと、エディアとサイズは沈黙した。


「「......は?」」


 そして、そんな言葉を漏らした。


「は? え? 今、借りたって言った?」


「言った」


「そ、それは誰からだい? バイコーンを所有する人なんて聞いたことがないんだが......」


 そりゃあ、人じゃないし。


「契約者に話させると話が冗長になるのでソフィアが簡潔に話します。このバイコーンは暗鬱の森の最奥部にいるバジリスクに仕えているのですが、ソフィア達はそのバジリスクともバイコーンともこの前の調査で知り合っていたので、今回は特別に頼んで貸して頂いたのです」


 エディアの質問に俺が答えようとすると、ソフィアはそれを静止して代わりに答えた。


「成る程。確かにキミ達が提出した調査報告書にそのことが書いてあったね」


「つーか、お前らえげつないこと言ってる認識ある? バジリスクと知り合いだなんてことを言う奴は普通精神病を疑われるぞ。お前らのことだから本当のことなんだろうけどよ」


「ソフィアと1ヶ月くらい一緒にいたらその感覚は消える」


「流石、ガキんちょとの付き合いが長い一般人。説得力凄いな」


 サイズが俺をそんな風に茶化す。そう。俺はただの一般人。ソフィアの契約相手なんて幾らでも居た。ただ、その幾らでもいる人間の中で偶々選ばれただけの人間なのだ。そんなことを考えていると、ソフィアが突然、口を開いた。


「契約者」


「何だ?」


「契約者の力は確かに平均的ですが契約者が普通、なんてことは絶対にないのでご安心下さい。と言いますか、どう考えても異質です。変人です」


「......俺は慰められているのか? それとも貶されているのか?」


「いえ、どちらでもありません。ソフィアは事実しか言いません」


 あ、そっすか。


「というか、今思い出したけどさっきソフィア酷いこと言ってただろ! 俺に話をさせると冗長になるとか!」


「ソフィアは事実しか言いません」


「今は戦場でも何でもないから、冗長になって良いの! ぐだぐだと脱線しながらゆっくり話したって良いだろ!」


「話は簡潔且つ論点がずれないことが一番大切です」


「ああん!?」


 俺はわざとらしく声を荒らげる。


「......どうかしましたか?」


「いや、普段、怒鳴らない俺が怒鳴ったらソフィアは少しくらい動揺するのかなと思って検証してみただけ」


「ソフィアは契約者がその程度のことで腹を立てるような方ではないことを知っているので何を叫んでいるのだろう、としか思いませんでした」


「おお、流石、俺の契約者」


「かれこれ、一ヶ月以上、契約者と行動を共にしているのです。その経験は伊達ではありません」


 俺とソフィアはそう言い合って、バシッと互いの手を握った。


「ソフィア、これからも宜しくな」


「勿論です」


「......うるせえんだよ!」


 そんな会話をしていた俺とソフィアに聞き覚えのあるツッコミをサイズがした。


「イチャつくなら他でやってくれないか」


 エディアは呆れたように言う。


「どうだお前ら。この前の俺達の気持ちが少しは分かっただろ。後、別にイチャついてはいない」


「目の前で茶番をされると迷惑でしょう?」


「え、じゃあ何? お前らは俺達にその気分を味あわせるためにさっきのやり取りをやってたのか?」


「「勿論」」


 俺とソフィアが声を重ねると、エディアとサイズの二人は呆れたように溜め息を吐いた。

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