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30 深紅の城にて


「やはり、アレをスパイに使うのは失敗だったのではないでしょうか?」


 玉座に座る私に、痩せこけた青年がふとそんな言葉を漏らした。


「黙れアグネス。不死族の領域の主要な都市は我々が占拠した。わざわざアレを使う必要はない」


「しかし、だからと言って何故人間界に?」


 男は首を傾げる。


「察しが悪いぞアグネス・オロバッサ。我々悪魔族が魔界で敵対している相手は不死族とその同盟の種族だけだ。我々が不死族の同盟を潰せば事実上、魔界の戦争は終わる。......魔界を手中に収めたら次に狙うべきは何処だ?」


「人間界、ですか?」


 タナエル家に代々仕えるオロバッサの一族が聞いて呆れる。それくらいのことは私が命令をしたときに気付いて欲しい。


「ああ人間界だ。話によると、八つ首の末裔の殆どは散り散りになっていて消息不明の者も多いらしい。それに加えて(はち)(なな)の力は完全に途絶えたという。これは世界が我々に味方をしていると言っても過言ではない」


 捌の末裔は革命に失敗し殺害され、漆の末裔は不死族に殺された。漆の末裔が殺されたことで勇者の末裔が建国した四勇帝国が不死族に戦争を吹っ掛け、それがきっかけで第二次人魔大戦に発展したこともあったが結局、四勇帝国の勇者以外に参戦する勇者は居なかったことを考えると我々の優位性が分かるだろう。


「しかし、大結界は......人間界と魔界の間に存在する険しい山脈はどうするのですか? 魔族と人間が第一次、第二次人魔大戦以外で衝突することがなかったのはあの山脈が有ったからです。大結界を構成する山々は酷く高く、その山には我々魔族でも被害を被る可能性のある強力な動物のフェニックスやエンシェントドラゴンなどが生息しています。そう簡単に越えられるものではないと思うのですが」


 アグネスの意見は最もだ。しかし、それと同時に愚問でもあった。魔界の一大勢力である悪魔の長の私がそのような誰にでも考え付く問題点を考慮しない訳がない。


「勿論、そのことについても考えてある。アグネス、貴様は第二次人魔大戦と第一次人魔大戦で魔族と人間は大結界を越えて衝突したと言ったな?」


「はい。それが何か......」


「それだから貴様は馬鹿なのだ。人間界に送ったあの兵器の方が察しが良かったぞ。良いか? 第二次大戦の頃の魔界は今のように様々な種族が国を持つような場所ではなく『魔界』という魔族の統一国家のような場所だった。その時の魔族は皆が手を取り合い、力を合わせて大結界を越えたのだ」


「......成る程。魔族が束になれば、大結界を越えることはそう難しくない。つまり我々悪魔が不死族の同盟を倒せば、事実上魔界から戦争は消えて自然と統一感が生まれ、第一次人魔大戦のように魔族が力を合わせることが出来るだろう、と?」


 アグネスの推察に私は満足しながら頷く。第二次人魔大戦の頃には様々な国が建てられて争い合っていたが、それでも魔族達は攻めてきた人類に抵抗するという共通の目標を掲げていた。だからこそ、魔界の地を一歩たりとも人間に踏ませなくて済んだのだ。


「そういうことだ。魔界で我々悪魔や不死族と同程度に勢力を誇っている吸血鬼とはこれまで以上に足並みを揃えられるように、と相互防衛を始めとする様々な協定を結んでおいた。無論、人間界侵行についての話もした」


「流石、我らの長! 頭が冴えていらっしゃる!」


「まあ、エルフや粘体人(スライムヒューマン)の連中は人間界への侵行に反対していたが......所詮、弱小種族だ」


戦争になると厄介だが、幸い彼らは中立を守っている。


「フッ。所詮、銃が少し上手い傭兵とスライムのなり損ないの集まりです。そんな奴等に批判されたところで我々は痛くも痒くもありません」


「その通りだ。馬鹿な貴様にも私がアレを人間界に送った理由が分かっただろう?」


「はい。来るべき人間界侵行に備えるために、アレから人間界の情報を吸い上げるおつもりなのですね。流石、我々の長」


 この男、察しは悪いが理解力は有る。


「そういうことだ。アレの化け物染みた強さであれば大結界を越えることも容易いだろうしな」


 事実、アレを作った私でさえもアレの強さに恐怖することが多々有った。洗脳を何重にもしている上に、とある出来事が切っ掛けで感情も失ったので大丈夫だとは思うのだが。


「あの大量破壊兵器が自分の娘だというのは誇らしくもありますが、それよりもおぞましいです。アレが魔界随一の耐久力を誇る不死族の師団を瞬く間に壊滅させたときの情景は未だに覚えていますよ」


「というか、そもそも貴様はアレを自分の子供だと思っていないだろう? 貴様がアレに愛情を持って接しているのを見たことが無いぞ」


「それはまあ......アレは所詮、生命体のフリをした兵器ですし情も湧きませんよ。それに、アレが小さい頃は色々と苦労しましたしね。我々を裏切らないように何度も言い聞かせ、契約と命令の重みを理解させました。大変でしたよ」


 私は溜め息を吐くアグネスを見て、少し笑うと魔法を唱えて水晶のように透明の球体を顕現させた。


「まあまあ、そう言うな。アレが人間界に行ってから約1ヵ月が経った。アレもそろそろ有用な情報を手に入れ始めた頃だろう。少し連絡を取ってみようではないか」


 私がその透明の球に息を吹き掛けると、その球の中に何かが映った。アレの姿だ。見たところ、屋内にいるらしい。


『.......お久し振りです。アーダルベルト・タナエル様』


「ああ、久し振りだな。ソフィア・オロバッサ」

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