27 被疑者
......プレッツェル食べたい(唐突)。
その後、ソフィアの魔法によって調べてもらった結果、毒を盛られていたのは俺とソフィアの二人だけたったということが判明した。が、年のために全員が病院で検査を受けることになったらしい。
「や、やあ、また会ったね......」
カリーナに案内された部屋で待っていると、真っ青な顔から汗をダラダラと流すエディアがやって来た。その横には秘書のサーラと冒険者取締役のカリーナの姿が有る。どちらも非常に難しい顔をしていた。
「ああ、また会ったな。出来ればこういう出会い方はしたくなかったが」
「......このギルドの酒場が提供する料理に毒が盛られていた、この件に関しては確実にこのギルドの最高責任者である僕の責任であり、僕の管理不行き届きだ。謝られても困るだろうが、僕のために謝らせてくれ。本当にすまなかった」
エディアは悲しさと悔しさが入り交じったような表情で深く頭を下げる。
「......それで、犯人は捕まったのですか?」
ソフィアがエディアに聞く。
「ああ。犯人だと思われる人物は特定できた。調べたところ被疑者は君達のオーダーを受けて君達のテーブルに料理を運んでいたらしい。毒を盛ることは容易だっただろう。それに彼は料理を君達に届けた後、直ぐに逃走したらしい。それが何よりの証拠だ」
「それで、被疑者の名前は?」
今回の事件の犯人は酒場の客全員にではなく、俺とソフィアにだけ毒を盛った。ということは犯人が今回の事件を起こした理由は無差別殺人のようなテロ行為をしたかったからではなく、もっと分かりやすい......それこそ俺達に恨みを持っていたから、なんて理由の可能性が高い。
もし仮に俺に恨みを持った人物の犯行なのだとしたら、かなりの確率で俺は犯人の名前を知っていることになる。犯人の名前を教えて貰えば事件の進展に繋がるかもしれない。
「『ヴィルヘルム・ゲイザー』という名前だ」
「契約者、ゲイザーというと......」
ソフィアが何かに気付いたように俺の方を見る。
「ああ。アルベルト・ゲイザーの弟だ。この前までは兵士だった筈なんだけどな。一体、何時酒場の店員になったのやら」
着ている服や髪型が随分変わっていたので気づかなかったが、成る程。あれはヴィルヘルムだったのか。
「えっと、3週間前ですね」
呆れたように言う俺にサーラが答える。その手には紙が握られていた。恐らく、酒場の従業員の名簿か何かなのだろう。
「アルベルト・ゲイザーに襲われたのが4週間ほど前なので......被疑者の動機は兄を倒した私達への報復でしょうか。恐らく契約者とソフィアがたまにこの店を利用することを調べてソフィア達を殺すためにこの店の従業員になったのだと思われます」
サーラの教えてくれた情報を元にソフィアがそう分析する。ヴィルヘルムも例に漏れず俺の兵士時代に俺のことを虐めていた奴だが、まさか殺されかけるとは思わなかった。
「どうやら、オルム君は被疑者との面識が有るようだね。出来れば詳しく教えてくれないかな」
そう言うエディアに俺はこの前のアルベルトとの決闘のことを話した。
「......相手が元兵士で、兄の兵士との繋がりがまだ有ると言うなら話は早い。捕まるのは恐らく時間の問題だろう。キミ達の料理に盛られていた毒を調べたんだがソフィア君の言っていた通り確かに毒蛇系モンスターから取り出した毒だった。一般人なら入手するのは難しいだろうが兵士なら幾らでも入手出来ると思う」
「じゃあ、犯人はヴィルヘルムで決定か?」
「ああ。ほぼ確定だろう。でも、被疑者に命令をした人物が居たり、手助けをした人物が居れば罪に問われる人間の数は増えると思うけどね」
恐らくヴィルヘルムに俺達の毒殺を命令したのは兄であるアルベルトだ。ヴィルヘルムとアルベルトの仲は確かに悪くないがヴィルヘルムが自分から敵討ちに行くとは思えない。
「それにしても、ソフィア様は何故毒が盛られていることに気付いたのですか?あの毒は僅かな辛さが有るだけで無味無臭。食べたところで気づけるような物ではないと思うのですが」
カリーナは首を傾げながらソフィアに聞く。
「記憶喪失なので詳しくは分かりませんが、ソフィアの舌は毒に敏感なようです。また、毒の知識も豊富なようです」
記憶喪失設定、便利だな。因みに先程、ソフィアにカリーナと全く同じ質問をしたところ『ソフィアの舌は毒を検知する能力が有るのです』と言われた。ソフィアは魔族ではなく魔物なんじゃないだろうか。そして毒に異様に詳しいのは幼少期に毒のことを教えられたから、らしい。毒のことを習っていた理由については恐ろしいので聞かなかった。
「ソフィア様の過去は本当に謎ですね」
「うーん、何処かの国が開発していた人間兵器とかじゃなければ良いんだけどね」
カリーナとエディアがそんなことを言う。そういえば俺もソフィアが悪魔だということは知っていても、その他のことは知らない。ソフィアに過去のことを聞こうものなら直ぐに『それは命令ですか?』と言われて、逃げられてしまうのだ。
「仮にソフィアが人間兵器かなんかだとしても、ソフィアは暴れたりしないもんな?」
「いえ、契約者のご命令なら暴れることも辞しませ......」
「はい。ちょっと黙りましょうね」
俺はソフィアの口を塞ぐ。折角、ソフィアがカリーナとエディアに怪しまれているからフォローしてやったと言うのに。なんてことを口走るんだこの娘は。
「えっと、間違ってもそんな命令はしない......というか、俺はソフィアに命令をするつもりはないからあまり強い視線を向けないでくれませんか? お二方」
恐ろしい視線を向けてくるエディアとカリーナに俺は必死に笑顔を作りながらそう言ったのだった。
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