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24 訓練


「それでは契約者。用意は良いですか?」


「ああ、バッチリだ。ソフィアは?」


「ソフィアも問題有りません」


 そんなやり取りをしている俺達は5メートル程の距離を取り、剣を構えていた。俺の剣は兵士時代に支給されたもの。対するソフィアの剣は魔法で生成した特注品。......明らかに俺が不利な気がするが大丈夫かこれ。


「それじゃ、模擬線を始めるぞ。この銅貨が地面に付いたら開始な」


 俺はそう言うと服のポケットから銅貨を取り出して空高く投げた。暫しの静寂の銅貨が地面に落ち『チャリン』という音がするとソフィアは俺の元に駆けてきた。

 しかし、その速度は昨日彼女がアルベルトを相手にしたときと比べるとかなり遅い。この戦いはあくまで俺の特訓。敢えて手加減してくれているのだろう。


「剣の振り方にブレや無駄が多いです。足運びも芳しく有りません。ソフィアの剣を受けるように剣を動かし、足を運んで下さい」


 早速ダメ出しを食らってしまった。俺は言われた通りに彼女の剣撃を受けようとするがソフィアの動きと剣撃が早すぎて間に合わない。あっという間に俺の剣は弾き飛ばされてしまった。


「最後まで自棄にならず、剣筋を見極めて対処しようとするのは契約者の長所だと思います。もう一度、戦いましょう」


「お、おう!」



 それから三時間後。


「はあ、はあ。ソフィア、一度で良いから休憩させてくれ」


 流石にぶっ続けで模擬戦と素振りはキツイものがある。


「駄目です。契約者に休む暇など有りません」


「スパルタ過ぎませんかねっ!?」


「......と、言いたいところですが、どうしても疲れたと言うなら少しだけ休憩しましょうか」


 息切れの酷い俺にソフィアは静かに提案する。女神だ。本物の女神が此処に居る。


「ありがとう。疲れた~」


「冷やした紅茶を持ってきました」


 ソフィアはトレーに綺麗なオレンジ色の液体の入ったコップを二つ乗せて、家から出てきた。俺達が模擬戦をしていたのは俺達の家の庭。このように休憩時には家から色んな物を出してこれるのだ。


「ありがと。ふう......特訓の後の紅茶は最高だな」


「まだ特訓は終わっていませんが」


「畜生」


「ですが、契約者はたった三時間でかなり足運びの無駄が減りました。このまま特訓を続ければ最強の剣士も夢ではないかもしれません」

 

 いや、別に俺は最強の剣士を目指している訳では無いのだが。そんなことを考えながら紅茶を啜っていると不意にとある話を思い出した。


「ソフィアが剣を持っているのを見て思い出したんだが、『(はち)の勇者』は悪魔だったっていう説が人間界には有るんだ。殆どの歴史学者は作り話だ、って主張してるんだが実際はどうなのか知らないか?」

 

 捌の勇者は八つ首勇者の中でも『(よん)』や『(ろく)』の勇者に並んで謎の多い勇者の一人だ。初代捌の勇者について分かっていることは小刀の使い手であったということと『伍』の勇者と結婚したと言うことだけで、それ以外は何も分かっていない。


「ソフィアもその話は聞いたことが有りません。ただ、悪魔は非常に契約を重んじる種族。上の者との契約を破り、人間に寝返るような悪魔は少数な筈です。捌の勇者が悪魔だった可能性は低いかと」


「成る程。俺はロマンが有る話だと思ったんだけどな~」


「そうですか?」


「ああ。俺は八つ首勇者の中で一番好きなのは捌の勇者なんだよ。いや、正確にはその末裔か」


 というのも、謎の多い初代捌の勇者だがその末裔はとても有名なのだ。


「末裔......ソフィアは初代の八つ首勇者のことしか知らないのですがどんな方だったのですか?」


 ソフィアの質問に俺は捌の勇者の末裔の有名なエピソードを話し始める。第一次人魔大戦終結後、色々あって『(いち)』『(さん)』『()』『(はち)』の勇者の末裔が『四勇帝国』という勇者四人を皇帝とした国を建国した。最初の頃は善政を敷いた良い国だったのだが三代目の皇帝達が即位すると国は一変。捌の勇者以外の三人の皇帝は横暴に振る舞い税を引き上げ、議会を解散させて独裁政治を行うようになった。


 その独裁体制は次の代にも受け継がれていき、国民をボロ雑巾のように皇帝は酷使した。そして、その惨状を変えようと立ち上がった者こそ八代目の捌の勇者だ。捌の勇者は周辺諸国や民衆達と共に反乱を起こした。しかし、彼女の想いは叶わず捌の勇者は剣の使い手である壱の勇者に殺されてしまう。そのため捌の勇者の力は途絶えたのだ。


 補足すると勇者の力というのは一番最初に産まれた子に継承されるのだが、その力を持っている者が子を授からないまま死んだ場合、その力は完全にこの世から消滅する。捌の勇者の力が途絶えた、というのはそのためだ。


「まあ、そんな感じだ」


「成る程......悪政を敷く皇帝三人に一矢報いようと立ち上がり、死んでいった英雄という訳ですか」


「そうそう。捌の勇者の記録が残っていないのも、捌の勇者が反乱を起こした後、四勇帝国が初代の捌の勇者に関する書物を焼き払ったからだって言われてる。因みに四勇帝国の意思を継ぐ『三勇帝国』は今も大国として存在しているぞ」


「悪政は......?」


「閉鎖的な国だから詳しくは分からないが、まだ行われてるみたいだな」


 ソフィアの質問に俺がそう答えると彼女は何やら複雑な表情で黙り込んで俯いてしまった。


「どうかしたか? ソフィア」


「......いえ、この国はソフィアの住んでいた魔界とは違って犯罪者は居るものの治安が良く、良い国だと思っていたのですが、やはりそういった国も有るのですね。人間界は良いところばかりだと勝手に考えていたので少し驚きました」

 

 このクリストピア王国が平和なのは先進国だからであって、スラムが有るような発展途上国もこの人間界には存在する。それでも人間界を評価してくれていたソフィアに現実を教えるのは心苦しかった。


「なんか......すまん」


「いえ、常に紛争や戦争ばかりの魔界に比べたら確実に人間界の方が平和だと思うので別に傷付いたりはしていません。それに契約者が謝る問題でも無いでしょう」


「いや、うん。まあ、そうなんだけど......」


 責任の押し付け合いや、自分の利益のことばかり考えて動く権力者がこの人間界には無数に存在する。それを考えていると同じ人間としてなんだか情けなくなってきた。


「そう言えば契約者、この街には肆の勇者の末裔が隠れているという話が有るそうですね。この前、冒険者が話しているのを聞きました」


 ソフィアは俯く俺を見て話題を変えようとしてくれたのか、突然そんなことを言い始めた。肆の勇者......得意の鎌で人間の勝利に貢献したものの、第一次人魔大戦が終結すると突然、消息不明になった謎の勇者の一人だ。


「都市伝説みたいなものだけどな。証拠も無いし」


「仮に肆の勇者の末裔が敵になってもソフィアは契約者を守り抜くのでご安心下さい」


「流石に八つ首の末裔は無理......いや、ソフィアならいけそうだな」


 肆とソフィアの戦いが見れるのなら見てみたいものだ。


「そろそろ、休憩を終わりましょうか。契約者、剣を持ってください」


 そんなことを考えていると、突然ソフィアが立ち上がそう言ってきた。彼女の手には早くも剣が握られている。


「......良し、やるか!」


 模擬戦の後半戦を開始すると、俺は彼女との間合いを積極的に詰めていき剣を振るった。何故だろう。ソフィアの動きが鈍い。


「・・・・」


 何かの罠なのか、それともただ単に俺の剣撃なんて余裕で対処出来るという自信の現れなのか、良く分からないが体を動かさずに勘繰ってばかりいても仕方がない。俺に出来るのはひたすら剣を振ることだけだ。


「ソフィア、幾らなんでも手加減し過ぎだ!」


 俺は笑いながらソフィアの剣を弾いてやろうと大きく剣を振るう。勝った。彼女の細い剣では俺の攻撃を弾き返すのは不可能だろう。そう思った瞬間......


「油断大敵」


 ソフィアの細い剣は目を見張るほど大きく、重そうな鎌へと姿を変えて俺の剣を簡単に弾き返した。......肆の勇者の末裔って、お前じゃないだろうな。

明日、休みだああああああああああっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 四勇帝国の件はよく言われる三代目が家を滅ぼすってパターンだねぇ 苦労した初代と親の苦労を見てきた二代目はマトモでも生まれた時から地位持ってる三代目がやらかす
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