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20 撫で撫で


「銀製メダルに、ですか」


「うん。誰も探索したことのない暗鬱の森の最奥部を調査した。そして森の異変に気付き異変の正体を突き止め、解決した......僕個人としては金製メダルをあげても良いと思うんだけど、金製は色々と面倒でね。取り敢えず、銀製メダルをあげようかなと」


 メダルが銀製に変われば、その分受けられるクエストの幅も一気に広くなる。それはつまり、夢のマイホームに近付けるということだ。家を買うために金が必要な俺にとっては夢のような話だった。


「バイコーンにバジリスク......にわかには信じ難いがキミ達が調査報告書と一緒に提出してくれたバジリスクの鱗とバイコーンの毛がどうやら本物らしいんだ。それも流通している何十年も前に狩られた個体の奴じゃなくてつい最近まで、生体の体に引っ付いてた奴らしい。そんなものを提出されたら信じざるを得ないよ」


 エディアはそう言いながら『ふう』と溜め息を吐いた。念のためにあの後、二人......もとい、二匹に頼んで鱗と毛を貰っておいて良かった。


「それで、今回の報酬は幾らくらいになるんだ?」


 俺の質問にエディアは困ったように目を閉じた。


「正直、キミ達のしてくれたことは凄すぎて幾ら支払うか困っているんだ。普通に計算した額を支払うとギルドの財政が......ちょっとね。キミ達が良ければなんだけど今回の報酬、通常の計算より少ない額にする代わりに僕に借りを作るってのはどうだい?」


「借り?」


「ああ。これでも僕はギルドマスター。色んなツテを持っているしその気になれば超法規的措置だって取れる。場合によっては普通に報酬を受けとるよりも得をするかもしれないよ?」


 エディアの話は確かに魅力的だ。ギルドマスターのツテを使えば金だけではどうにもならないことでもどうにか出来るかもしれない。


「でも、俺は別にスローライフを送りたいだけだし......あ」


「ん?」


「家が欲しいな」


「家?」


「契約者とソフィアは家を持っておらず、宿で寝泊まりをしています。なので、ソフィアと契約者の目標は家を買うことなのです」


 首を傾げるエディアにソフィアは俺の話を補足した。ギルドマスターなら安価で貸し出せるような家を持っていたりしないだろうか。


「ああ、成る程。そういうことか。家はどれくらいの物を想像してるんだい?」


 その質問に俺は、はたと悩んだ。俺が欲しい家はどのような物なのだろう。取り敢えず、一人部屋はソフィアと俺で一つずつ欲しい気がする。


「......うーん、欲を言えば風呂とトイレが別の3LDKが良いな。場所はこの街の中で。立地は気にしない」


 3LDKは流石に欲張り過ぎた気もするが、どうだろうか。そんな風に俺が心配しているとエディアは『ちょっと、待っててくれ』と言い残して席を立った。それから暫くすると、エディアは沢山の紙を持って部屋へと戻ってきた。


「待たせてすまない。一般的な銀製メダルを持つ冒険者からすると少し質素な気がするけど、風呂とトイレが別の3LDKで良いんだね?」


「ああ。いけそうなのか?」


「うん。不動産屋の知り合いも結構いるからね」


 半分冗談で言ったのだが、何事も言ってみるモノだ。買えるのは何ヵ月も後だと思っていた夢のマイホームが間近に迫ってきているのだから。いや、流石にどれだけまけて貰っても一括払いはできないだろうからローンになると思うが。


「それで、どれくらいの値段に出来そうなんだ?」


「まあまあ、一先ず落ち着いてくれ。キミ達には二つの選択肢がある。一つは僕を使って不動産屋の家を最低レベルまで値引きする方法。これなら金貨1000枚前後でそこそこの家を紹介出来るだろう」


 金貨1000枚前後でそこそこの3LDK......はっきり言って、もうこれで良い気がする。金貨1000枚くらいのローンであればソフィアがいる今、返すのも苦ではない。余程良い案を出されない限りは前者の案を選択するだろう。


「......それで、もう一つの案と言うのは?」


 ソフィアが真剣な眼差しでエディアに聞く。意外にソフィアも家に憧れているのかもしれない。その証拠にソフィアは家の話が出てからずっと前のめりになっている。

 

「僕の家を買い取る、というのだね。4LDKで120平米とかだったかな? 勿論、風呂とトイレは別で金貨600枚ポッキリ。どうだい?」


「「「......は?」」」


そんな意味の分からない案を出され、俺とソフィアは勿論、サーラまで驚いたように声を漏らしたのは必然というものだった。



「確かに大きいですね」


「ああ。家具とかは無いらしいから買わないとな」


 俺達の目の前に建っている赤い屋根の大きな家が、今日からは俺達の拠点だ。家が欲しいとソフィアに打ち明けた翌日にこんな素晴らしい家を手に入れられたのだから、心が踊らない訳がない。


「......それにしても、運が良かったですね」


「ああ。全部、ソフィアのお陰だよ。本当にありがとうな」


 エディアは父の遺した全く使っていない家を丁度もて余していたらしく、格安で売ってくれたのだ。    

 その代わり今回の調査クエストの報酬はタダにするということになったが魔物の討伐報酬は別で出してくれるらしく、黒牙猪の討伐で手にいれた金も余っているので金銭面で困ることはなかった。


「いえ、契約」


「ありがとうな?」


「......どういたしまして」


「良くできました」


 ソフィアの『契約ですので』を事前に防いだ俺は、したり顔でソフィアの頭を撫でた。ソフィアは俺と丁度、10cmくらいの身長差があるので撫でやすい。


「あの、何のつもりですか?」


「いや、何と無く」


「......そうですか」


 ソフィアはそう言いながら顔を若干、朱に染める。その様子を見た俺はハッとした。つい、容姿が幼いので子供扱いしてしまったが、ソフィアは俺と一つしか違わないのだ。小動物を可愛がるような感覚でソフィアの頭を撫でた俺だが、そう気付いた瞬間何だか恥ずかしくなってきた。


「契約者。顔、紅いですよ。熱でも有るのですか?」


「いや、大丈夫。ソフィアの顔も紅いぞ」


「熱が有るわけではないと思います。この体はそんなに柔では無いので。ですが、何故でしょう。体全体が火照っているような気がします。契約者、ソフィアに何かしましたか?」


 その時、俺は確信した。ソフィアも俺と同様に撫でられて恥ずかしがっているのだということを。昨日の夜のソフィアは『恥ずかしい』という気持ちが理解できないと言っていたがこの短期間でその感情を手に入れたようだ。俺や、バジリスクのミラにサイズとエディアなどの人物と一緒にいたことが彼女に刺激を与えたのかもしれない。


「強いて言うなら、頭を撫でた」


「......撫でられたら、体が熱くなるものなのですか」


 ソフィアは頭のリボンを弄りながら聞いてきた。


「というよりも撫でられたから恥ずかしくなって、体が熱くなったんじゃないか? 若しくは頭を撫でた俺に腹が立ったとか、俺みたいな奴に頭を撫でられて傷付いたからとか......何かしらの感情が動いたんだと思う。後、さっきは軽々しく頭を撫でたりして悪かった。ごめんな」

 

 俺が純粋な謝罪をして、頭を下げるとその頭にソフィアが手を乗せてきた。ソフィアはそのまま手を動かして、俺の頭を撫で始める。


「ソフィアは動揺こそしましたが苛立ったり、傷付いたりはしませんでした。つまり、消去法でソフィアは恥ずかしい、という感情を抱いていたことになります。今、契約者は同じことをされてどんな気分ですか?」


「なんかふわふわしてて、不思議な感じがする......恥ずかしい。あの、ソフィア?」


「ソフィアも同じような気持ちです。つまり、今の契約者の気持ちとソフィアの気持ちは同一のモノの可能性が極めて高いと言うことになります。契約者と同じ気持ちになれて、ソフィアは少し嬉しいかもしれません」


 そう言いながらもソフィアは俺の頭を撫でるのを止めない。別に苦ではないし少し嬉しい気もするが、やはり気恥ずかしさもある。


「そう......か」


「はい。そして、こうやって契約者の頭を撫でていると、また体が熱くなってきました。契約者さえ良ければ、もう少しこのままでも良いですか?」


「ああ。別に良いけど......悪い気分ではないし」


 その後、ソフィアと俺は互いに頬を染めながらそんなやり取りを続けた。今思えばあの時の俺はどうかしていた。思い出すだけで恥ずかしくて死にそうになる。でも、数年ぶりに本当の癒しを享受出来た日だった。

こんばんは~! 更新遅れました蛇猫です! 今回はソフィアとオルムの関係を半歩くらい進展させてみました。......ソフィアが完全にデレる日はいつになるのやら。 


物書き特有の悩みで自作のキャラが勝手に動いたり、言うことを聞いてくれないというのが有るんですが、どうやらその現象が起きているらしくどれだけ私がソフィアをデレさせようとしてもデレてくれません。気長にお待ちください。


あ、因みに物語の中で通過の価値は大体日本円で


銅貨 100円


銀貨1000円


金貨 10000円って感じですねはい。

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