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18  バジリスク

感想をいただきましたあっ! ありがとうございます!


 その後も俺達とバジリスクの会話は続いた。と言っても、別に真剣な話ではない。特に意味のない雑談だ。どうやらバジリスクは相当話し相手に餓えていたらしい。


「私、あの八つ首勇者とも知り合いなんだよ! 凄くない?」


「それは凄いな。八人のうち、どの勇者だ?」


 第一次人魔大戦での人類の救世主、八つ首勇者。その団体を作り上げ、人類を救おうと最初に決意したのは『壱の勇者』と呼ばれる者だ。そして、全ての八つ首勇者には古参組から順に『(イチ)』『()』『(サン)』『(ヨン)』『()』『(ロク)』『(ナナ)』『(ハチ)』という番号が

振られている。


「えっと、確か弐って人間達は呼んでたと思う」


「『弐』の勇者と言えば、エルフの勇者か」


「うん。凄く弓が得意な子。シータちゃんって言うんだけどね。私に色んな話をしてくれたんだ~」


 そんな凄いことを軽い口調で言うバジリスクを見て、何やらソフィアが難しい顔をした。


「......エルフ、久し振りにその名を聞きましたね」


「ああ。ソフィアは魔族だもんな。エルフのこともよく知ってるのか」


 エルフは便宜上人間、ということになっているがその正体はまごうことなき魔族である。尖った耳を持ち、弓の扱いに長けていて、長寿なエルフ達の殆どは第一次人魔大戦のときやその前に人間界へと移り住み、人間と共に魔族勢力と戦ったのだ。

 そして、そんなエルフの中でも取り分け有名なのが弐の勇者。弓の腕は人間界最強だったらしい。


「はい。ですが、今の人間界にエルフはいないのですよね?」


「ああ。いない......というよりは行方不明って感じだな」


 八つ首勇者が死んでからも、八つ首勇者の力はその子の一人に受け継がれ各々が好きな生き方をしていた。しかし、4代目の『弐』の勇者が突如他のエルフ達もろとも姿を消してしまったのだ。八つ首勇者が消息不明になる、というのは無かった話ではない。


 例えば初代の『肆』と『陸』の勇者は大戦が終結してから直ぐに消息不明になり今も子孫が生きているのかは分かっていない。しかし、その騒動では『エルフ』という種族が全て消えてしまったのだ。勇者一人が消えるのとは訳が違う。


「私は鳥の魔物とかに色んなことを教えて貰ってるけど、未だにエルフの目撃情報は無いんだよね~。もしかしたら、絶滅しちゃってるかも......」


「魔界に少数ですが、人間界へ行かなかったエルフ達の子孫がいるので絶滅することはないかと」


「へえ、やっぱり弓が上手なのか?」


「いえ、今は持ち前の射撃力を活かして銃を扱っているようです」


「イメージ崩壊甚だしいな!」


 銃というのは鉄で出来た筒から、鉛の弾を飛ばして敵を撃つ武器のことだ。人間界にも無いことはないが職人が少なく、効率的な製造方法が確立されていないため値段は非常に高い。持っている者はほぼ確実に金持ちだ。


「無駄話が過ぎましたね。そろそろソフィア達を此処へ呼んだ理由をお聞かせ願えますか?」


「あーうん。私が呼んだ訳じゃないの。この子が勝手に連れてきて......」


 バジリスクは大岩程ある顔をバイコーンの方に向けて言う。


「そのバイコーンは、何で俺達を連れてきたか分かるか?」


 俺がそう質問をすると、バジリスクは明らかに顔をしかめた。


「その、私は今......体調が良くなくて。この子はずっと私の体調を治すために色んな方法を探してくれてたの。その時凄い魔力を感じるソフィアを見つけたらしくソフィアなら何とかしてくれるんじゃないかって」


 バジリスクは其処まで言うと、大きく頭を振った。


「でも、ソフィアだって急にそんなことを言われても困るよね! 幾らソフィアが魔族でもバジリスクの私を治療出来たら文字通りの化け物だし、仮に出来ても無償でなんて」


 慌てて言葉を付け加えるバジリスクを見ていると、すっかり俺の中でバジリスクという魔物のイメージが変わってしまった。少なくともこのバジリスクは人を襲ったりするようなバジリスクではないだろう。


「......ソフィアの魔法で診断したところ、体内の毒の性質が変わってしまい体を緩慢に蝕む病気のようです」


 俺がソフィアに意味ありげな視線を送ると、俺の考えを察してくれたらしくソフィアはバジリスクの病気を診断し、その結果を俺に耳打ちしてくれた。


「バジリスクもああ言ってるし、お前に治すのは無理だよな?」


「......確かにこれ程巨大な魔物の治療は難しいかもしれませんがソフィアの回復魔法であれば可能です。どうしますか?」


 自分が過小評価されたのが気に触ったらしく、ほんの少しだけ怒りを含ませた言い方でソフィアは答えた。バジリスクの言うことが本当ならソフィアは『文字通りの化け物』ということになるがそこの所どうなのだろうか。


「ソフィアに任せる」


 酷く適当且つ簡潔。俺が出したのはそんな判断だった。


「......は?」


「バジリスクを助けるか、助けないかはお前次第だ。好きな方を選べ」


「あ、あの......二人共どうしたの?」


「ん、ああ。何でもない。こっちの話」


 ヒソヒソと話をする俺達を不審がるバジリスクに俺はそんな返事を返すとソフィアを見た。果たして、ソフィアはどちらを選ぶのだろうか。


「......バジリスク」


「え? あ、うん」


 ソフィアは鋭い視線でバジリスクを睨み付ける。本人に睨み付けているつもりはないのだろうがソフィアは元々目付きがキツい方なので真剣な眼差しになると必然的に鋭い目になってしまうのだ。


「貴方はこの森のことをよく知っているのですよね?」


「......うん。知ってるけど、それがどうしたの?」


「この森の魔物は今まで木の色ごとに生息している場所が違いました。それが最近では変わり、元々森の奥に生息していた魔物が森の外側へと移動してきているようです。例えば、その原因などは分かりますか?」


 ソフィアの意図が読めない。確かにバジリスクならその質問の答えを知っていても不思議ではないが、バジリスクを治療するか、しないかの選択をしているときに何故そんな質問をする必要があるのだろうか。


「ああうん。大体は分かるよ。知りたいんだったら教えてあげる」


「待ってください」


 バジリスクが説明をしようとすると、ソフィアはそれを制止し


「契約をしましょう。ソフィアが貴方を治療する代わりに、貴方にはソフィアの質問に答えて頂きます。どうですか?」


と、何時もの理知的で代わり映えのない表情で言ってみせた。

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