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16 ヘルウルフと魔法

評価をくれえええええええ!


「ア......ア、ア。アアアアア......」


 魔物とは思えない研ぎ澄まされた太刀筋で斬りかかってくる骸の剣士。俺は剣を抜くと、どうにかそれに応戦した。しかし、骸の剣士は手加減をしてくれない。俺の剣を凄まじい力で弾くと、俺の胸目掛けて切っ先を突き刺してきた。

 だが、彼の剣は俺の胸には刺さらなかった。俺の後ろから黒い塊が飛んできて、その塊が剣士を粉々にしたからだ。


「やはり、契約者には戦わせることは出来ませんね」


 うめき声をあげながら死んでいったスケルトンナイトの骨を拾いながらソフィアはそんなことを言った。そして彼女は『失礼します』と言い、徐に俺の肌を触りながらジロジロと見始める。何だかくすぐったい。


「怪我はないようですね。安心しました。ですが、契約者の戦い方は危なっかし過ぎます。引き続き魔物の討伐はソフィアにお任せ下さい」


「いやいや、だって腕試しの相手がスケルトンナイトって明らかに可笑しいじゃん。スケルトンナイトって、普通の人間に倒せる相手じゃ無いぞ?」


「暗鬱の森の最奥部にまで迫っているのですから普通の人間は本来此処に居てはならないのです。頼みますから、ソフィアに全てを任せて下さい」


 別にソフィアの力が信頼出来ないとかではなく、ソフィアに頼ってばかりの自分が嫌で自分にも戦わせてくれと申し出たのだが。よく考えると俺みたいなのが参戦しても足手まといになるだけか。情けない。


「......分かった。なんだ。ソフィアも俺のことを心配してくれてるんじゃないか」


 俺はボソッと微笑を浮かべながら呟いた。


「ソフィアは契約によって契約者の身を守り、健康を管理しなくてはなりませんので」


「あ、今の俺の呟き聞こえた? 意外に地獄耳だな。じゃあ、聞くがもしも契約内容に俺の健康管理が含まれていなかったら、ソフィアは俺の体がどれだけ傷付こうがどうでも良いか?」


 意地悪な質問だという自覚はある。ソフィアは何と答えるだろうか。自分で聞いておきながら不安になってきた。


「・・・・」


 しかし、ソフィアは俺の質問に答えずに沈黙し、ただただ俺に恨めしそうな視線を送ってきた。


「そ、ソフィア?」


「その話はしたくありません。命令だというのであれば答えますが」


 ソフィアはスッと顔を逸らす。


「いや、ソフィアが言いたくないのなら言わなくて良い。こんなことで時間使わせてごめん。行くか」


「いえ、ソフィアもお答え出来ず、すいません」


 その後は、何故か微妙な空気になってしまい、互いに殆ど顔を合わせず会話もせずに奥地を目指した。非常に気まずい。


「ソフィア(契約者)」


 二人の声が重なった。


「あー、ソフィアから言ってくれ」


 俺は困ったように頭を掻く。


「いえ、契約者からお願いします」


「いやいや、俺の話は別に大したことないから」


「ソフィアもです」


 ......再び静寂が流れた。気まずい空気をどうにかしようと話し掛けたは良いがまさか言葉が重なるとは。


「ソフィアが先」


「契約者か先です」


「ソフィア」


「契約者」


 駄目だ。まるで決まる気がしない。


「.......分かった。俺の話はやっぱりこの森可笑しいよなって話だ。多分何らかの異変が起きているのは確実だと思う」


 根負けした俺はそんなことを話し始めた。


「ソフィアがしたかったのも丁度その話です。しかし、異変が起きているとしてその異変の内容が分かりませんね」


「そうなんだよな~。そもそも、ウチの領主が本格的な暗鬱の森調査に金を掛けないせいで暗鬱の森自体、謎に包まれてるんだよ。金製メダルを持った冒険者を王都とかから雇えば最奥部も調査できるかもしれないのに」


 巷でのあだ名はケチ領主。政治は結構上手くやるのだがなんせ金払いが悪いので評判はあまりよくない。


「ですが、逆説的に考えるとソフィア達が金製メダルの冒険者と同等の報酬を貰えるかもしれないということです。何としてでも異変の原因を突き止めましょう」


 たくまし過ぎることを仰るソフィアに俺は思わず笑ってしまった。


「よし、兎に角奥地まで言ってみるか!」


 ソフィアの頼もしさと強さに改めて励まされた俺は、そんな風に意気込んだのだった。



「オイ、奥地まで行こうとか言い出した奴誰だ! ソフィアか!? よし、帰ったらソフィアの分のメロンパンを一つ貰ってやる!」


 最奥地ではないにしろ、奥地と呼ばれるであろうゾーン。怪しげな黒い木が立ち並ぶエリアに足を踏み入れた俺は半狂乱で叫んでいた。


「えっと......パンは構いませんが契約者、落ち着いて下さい」


 闇魔法と思われる魔法を操って魔物を倒しながら、ソフィアはそう言った。


「落ち着けるか! 思いっきり囲まれてるし!」


 そう、俺達は魔物の群れに出くわしてしまい囲まれてしまったのだ。その魔物は大きな狼のような見た目をしていて、口からは炎を吐いている。見たこともなければ名前も知らない魔物だが、この森の奥地にいる時点でその強さは何と無く分かる。


「.......ヘルウルフですね。東方に生息する地獄狼の亜種です。力は異常に強いですが爪で引っ掻くか、噛み付くか、近距離で炎を吐くしか出来ないのできちんと対処すれば其処まで強くはない筈です。しかし、数が厄介ですね」


 ソフィアはそう言うと、俺達の周りを囲むヘルウルフに魔法で作り出した黒い塊をマシンガンのようにぶつけまくり、瞬く間に一掃した。無惨にも腹や頭に穴の空いたヘルウルフの死体はそこはかとない哀愁を漂わせている。


「倒しました」


「あ、うん。騒いでごめん。帰ったら好きなだけパン買ってあげるから」


 俺は途端に冷静さを取り戻して、ソフィアに謝った。自分でもいい加減、ソフィアの強さを忘れすぎだと思う。別にソフィアの力を信用していないわけではない。ただこの前までただの一般兵士だった俺に黒牙猪やヘルウルフといった相手は刺激が強すぎるのだ。


「いえ、契約ですので。契約内容にない報酬は」


「良いから、良いから。パートナーを労うのは当たり前のことだろ? な?」


「......そう言うことでしたら」


 ソフィアは意外と押しに弱いと言うことが分かってきた。次からソフィアの口癖の『契約ですので』が出たら、押しに押してやろう。


「それにしても、さっきの魔法格好良かったな。何て名前なんだ?」


 どす黒い塊がヘルウルフの体をどんどん貫いていく様子は恐ろしくもあり壮快だった。少し、ヘルウルフ達に申し訳なくなったが、先に襲いかかってきたのは彼方なのだ。

 此方が気に病むことはないだろう。


「闇の球体と私は呼んでいますが、ソフィアの固有の魔法なので正式な名前は有りません」


 出たよ。固有魔法。強い魔法使いの代名詞。


「良いな。魔法とか憧れる」


「契約者は魔法が使えないのですか?」


「魔法って一種の才能みたいなものだしな。俺には無理」


 幼い頃から修行に修行を重ねれば習得可能だったかもしれないが、俺の家はとてもじゃないが修行をしていられるような経済状況ではなかった。


「......ソフィアで宜しければ、また今度お教えしましょうか? 簡単な物でしたら二週間程度で習得出来るかと」


「マジで!?」


「はい。魔法とは空気中に漂う魔力というエネルギーを操る力。そして魔法の才能が有る者と無い者の差は、魔力を感じ取れるか感じ取れないかです。ソフィアが手伝えば簡単に魔力を感じ取れるようになると思うので才能の問題は解決します。初歩的な魔法であれば使えるようになると思いますよ」


「初歩的な魔法って例えば!? 炎を操れるとか!?」


 魔法が使えるようになるかもしれない、という期待に胸を膨らませながら俺は食い気味に質問した。


「はい。マッチレベルの炎を生み出すことは可能になると思います。その他にもバケツ一杯の水を生み出したり、擦り傷を治せるようになったり」


「ええ.......」


 チートの魔法講師がいるから俺も短期間でチート魔法使いになれる、なんて都合の良い話は無いらしい。やはり、何事にも努力が必要なのだろう。先程までの自分の考えは実に愚かなモノだった、と反省させられる。


「やはり、実戦で使える術を学びたいのであれば魔法よりも剣術をお勧めします。幼い頃から剣術を習わされていたので、ソフィアも教えれますし」


「ソフィアと戦ったら殺されそうなんだけど」


 竹刀で俺の剣を粉々にして、俺の頭を粉砕するところまで読めた。


「......ソフィアも手加減くらいは出来ますよ」


「本当か?」


 俺はからかうように訝しげな表情を浮かべた。


「本当です。......っ!? 契約者!」


 ソフィアは叫んで俺を草むらから遠ざけると、闇の球体を手のひらに準備して草むらを睨んだ。大きな足音がする。何やら大きなものが俺達の方に向かってきているらしい。それも黒牙猪と違ってゆっくりと。


「ギュイギュイーン......」


 そうして草むらから現れた低い声で鳴く魔物は大きい馬のような体をしており毛は黒色。背中には堕天使のような翼を生やしていて、頭部から突き出た二本の角が凄まじく存在感を放っていた。

ブクマもくれええええええ!

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