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152 反抗か交渉か


「だから! 兄さんが何を問題にしているのか分からないと言っているんだ! もしシャーロットから譲歩を引き出せればそれだけ僕達の地位は向上する! 引き出せなかったとしても何も変わらない! そうなったらストライキをするなりいくらでも手段があるだろう。まずは交渉の席に立つべきじゃないのか!」


「何度も言っているが、我々は人狼に支配されているこの状況を絶対に受け入れてはならない! 交渉をするということは大前提として、奴らの支配を受け入れるということじゃないか!」


「じゃあ何だい!? 兄さんは今からここで人狼族に対して反乱を起こせと言うのかい!?」


「ああそうだとも! 私はいずれ来る日には此処で大反乱を起こし、人狼族の支配から完全に脱すべきだと思っている!」


「無理に決まっているだろうそんなこと! 確かに此処に揃っている魔族達は強い者も多いが、此処には武器もなければ食料もない! 勝てるわけがないんだ! 僕達は人狼族に生かされてるんだよ!」


「......何だと?」


「僕らは人狼に生かされてる、って言ったんだよ! そもそもこの土地は人狼族の土地だ。痩せた何もない土地だが、それは人狼族が住んでいる街も同じ。それに加えて、食料と仕事を与えてくれているのも人狼。確かに人狼には人狼の思惑があって僕らを利用しているんだろうが、僕らが彼らに生かされているのは事実だ。悪魔に故郷を破壊され、難民となった僕らには彼らに支配されるしか道はないんだ。何かおかしいこと言っているかい僕は!」


 リエルの家の屋根の修理はすぐに終わった。ユードとルイの二人が廃材を上手く使って綺麗に穴を塞いでくれたのだ。しかし、問題はその後。今後のことについて話し合おうと狭いリエルの部屋に私とリエル、そして鬼人の兄弟が集まったのだが、そこで始まったのは二人の壮絶な兄弟喧嘩。私とリエルはそれをただ見ていることしかできなかった。

 どうやら、弟であるルイは人狼族との交渉で民族連合の権利を勝ち取っていくべきだという穏健派、兄であるユードは交渉など生ぬるい手段ではいけないという急進派らしい。民族連合の代表と副代表がこんなに意見が違っていて大丈夫なのだろうか。


「あ、あのー、人の家壊さないでくださいね......?」


「あ、ああ、すまない。つい感情的になってしまった。ところで、君はどう思う?」


「え、ええ、私? ど、どうって何」


 突然、ユードに話を振られたリエルは困惑した様子で私の方に視線を向けてくる。助けてくれ、ということらしい。私に助けを求められても。


「君は人狼に譲歩すべきと思うか、それとも、断固として譲歩することなく対抗していくべきと思うか、だ」


「兄さん、その言い方はやめてくれ。僕は譲歩すべきと言っているんじゃない。彼らの譲歩を引き出すために交渉の席に立とうと言っているんだ」


「えぇ......む、難しいなぁ。チラッチラッ」


 声で効果音を付けてまで此方をチラチラ見られても私に意見をする権利はない。


「では、フランチェスカ様はどう思われますか」


 やめて。私に意見する権利ないから。民族連合のことは民族連合の皆で決めてほしい。


「えー、ま、私はどちらかというと......うぅん、ルイの意見に賛成、かな? 一昔前の私ならユードの方に賛成していたと思うけど」


 確かに交渉の余地がない相手から無理に譲歩を引き出そうと、こちらから譲歩することは自分で自分の首を締める行為に直結する。しかし、聞いている限り、人狼族の女王という奴は交渉の余地がありそうな相手に思える。この居住区、確かに普通の街と比べれば酷い環境ではあるのだが、劣悪かといえばそうでもない。また、食料不足も起こっていないようで、ある程度の生活の水準はあるように思える。きっと、反乱を起こされないように向こうも色々、工夫を凝らしているのだろう。ならばそれにつけ込んで交渉を進めればある程度の成果は得られるのではないだろうか。


「というか、仮に武装蜂起して人狼族に勝ったところで悪魔に鎮圧されるだけでしょ。ストライキとか軽い暴動ならまだしも、人狼族と真っ向から戦うのは反対ね。言っちゃ悪いけど、民族連合、そんなに統率も取れなさそうだし」


「っ......では......! フランチェスカ様は不死族にも同じことを言えますか!?」


「冷静さを欠くな、感情で動くな、ということなら同じことを言えるわ。不死族は依然として数も多いし、統率も取れているだろうから武装蜂起を完全否定する訳じゃないけど」


「......そう、ですか」


「とは言っても、ユードの気持ちは痛いほど分かるんだけどね。ちょっと前の私、悪魔族への復讐で頭がいっぱいになって暴走していたから」


「すみません。フランチェスカ様に気を遣わせるようなことをしてしまって。......私とて分かっているのです。私の言っていることが現実的でないことくらい。それでも、私は誇り高き鬼人族の生き残り。人狼族に支配されているという事実を認めることが、どうしても出来ないのです。ただの私の意地なのですよ......」


 ふう、と溜息を吐くと、ユードは出口の方に歩いていきドアノブに手をかけた。


「失礼しました。私はこの辺りで帰ります。......ルイ、私の負けだ。好きにすると良い。今日は悪かった」


「兄さんも僕も、民族連合の皆のことを思って議論しているだけだ。勝ちも負けもないだろう」


「......そうだな」


 と、言い残すとユードはそのまま部屋を出て行ってしまった。自然と私とリエルの視線は残されたルイの方へ向くことになる。


「何か気まずいですね......はは......そろそろ、僕もお暇しましょうかね。フランチェスカ様、何かお困りのことがありましたら何でも僕達に言ってください。フランチェスカ様は悪魔族に憎悪を抱く全ての魔族の希望ですから」


 ニコリ、と人の良い笑顔を浮かべるルイ。この鬼人族の兄弟、どちらもかなりの美青年なのでつい見惚れそうになる。


「......とんだ神輿にされてしまったわね。でも、ありがとう。人狼族と民族連合のこと、これからどうするの?」


「僕は今からこの足で人狼族の女王に会いに行ってみようと思います。門前払いされるかもしれませんが......一度、腹を割って彼女と話してみたいんです」


「そう。頑張ってね」


「ありがとうございます。では」


 と、ユードに続いてルイも部屋を出て行った。やっと、窮屈だった部屋がある程度の広さを取り戻した気がする。


「はぁ......なんか大変だったねー。フラさん、もう寝ちゃおっか。アンタも疲れてるでしょ」


「え、ええ。そうね。......まだフラさん呼びでいくつもりなの?」


「えぇっ、ああ......すみません。フランチェスカ様、じゃないと無礼?」


「い、いや、全然。寧ろフラさんの方が貴方に呼ばれるのならしっかり来るからそっちにして」


「おおー、流石不死族のお姫様。心が広いなあ」


 私の正体を知って尚、変わらない調子で接してくれるリエルに少し安堵させられた。

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