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141 議会


「メアリー殿下、探しましたぞ! 既に議会は終盤に差し掛かっております! 早く出席を! ......その背負われている方は?」


 俺とメアリーが宮殿に入ると、何処となくルドルフ似の白鬚を蓄えた老父が現れて焦った様子で現れた。彼からルドルフを連想したことで、お互いに安否確認の取れていないフランのことを思い出してしまう。彼女なら上手くやっているとは思うが、心配だ。


「ペットみたいなもの。議会は欠席ということにしておいて」


 ペットみたいなもの。


「そ、そうはなりません! 今日は何故か民族連合も代表を送ってきているのです! 殿下にもご出席して頂かなければ......!」


「それって、その代表を殺せってこと? 嫌なんだけど」


「違いますが!?」


 随分と大変そうだ、こっちも。


「あなた、取り敢えず降りてくれる?」


「あ、ああ、はい、かしこまりました!」


 一対一の場面ならいざ知らず、他の魔族が居るところでメアリーにタメ口なんて聞いたら不敬罪とやらで処刑されてしまうかもしれない。俺はそう思い、取り繕ったような敬語で彼女に答え、彼女の背から降りる。

 その時、俺は初めて、満足に彼女の容姿を確認することが出来た。出会った時は周囲が暗すぎたし、光のあるところに入ってもずっと背負われていたので彼女がどんな顔をしているのか、全く分からなかったのだ。何処となくソフィアを思わせるゴスロリ風の黒いドレスを身に纏っていて、髪は茶で長く、その目は血のように赤かった。......どうしてこの格好で寒くないのだろう。人狼族の特性なのだろうか。


「悪いけど、そういうことだから。あなたも議会に着いてきて」


「こ、困りますメアリー殿下! その方がどなたか知りませんが議会の出席権がない者を議会に出席させるのは......」


「俺もそう思います」


「傍聴させるくらい良いでしょう。ほら、こっち着いてきて」


 先程までメアリーはツンとしていてクール、というイメージだったが、思ったよりワガママ気質なお嬢様なのだろうか。あのお爺さんに俺は同情した。

 その後、メアリーに広い宮殿の中をぐるぐると歩き回らされ、ある扉の前まで連れて行かれた。彼女は扉をノックもせず、躊躇うことなく開ける。


「遅れたわ」


 部屋の中の全ての魔族の視線がメアリーと俺へ向けられる。俺はその視線にビクリとしながらも、部屋を見回した。人狼と思われる魔族達が長方形の巨大な机に向かいながら話し合いをしている。先程の老人はこれを『議会』と呼んでいたが、規模的には委員会くらいのものだ。メアリーのものと思われる席に加えてもう一つ、空席がある。欠席者が居るらしい。


「座って」


 最奥の席に座っていた人狼の女性が短くそう言った。綺麗な茶髪と赤い瞳がメアリーに似ている。二人の相違点はメアリーの方が髪が長いことと、向こうの女性は白いドレスを身に纏っているのに対し、メアリーは黒いドレスを身に纏っていることくらいしかない。恐らく、彼女がメアリーの姉......この国の女王なのだろう。

 メアリーは彼女の言葉に従い、空席となっていた一番奥の、入り口方面から見て机の左側の席に座った。女王と思われる女性の丁度、向かい側の席である。俺は黙ってメアリーに付いていき、彼女の席の横に立った。絶対にこの部屋は俺のような部外者が居ていい空間ではないし、それこそ処刑の可能性すらある。出来ることなら今すぐこの部屋を出ていきたい。が、現状、頼れる魔族がメアリーしか居ないことから彼女と離れるのもまた危険である。一体、俺はどうすれば良いのか。

 

「今日、最後の議案は民族連合のルイ副代表が提出した『少数民族と人狼族の本質的平等に対する議案』ね。副代表、議案の説明を」


 議会の進行役を担っているらしい女王は俺の存在に全く触れることなく、審議を再開した。どういうつもりなのか。

 説明を要求され、入り口から見て左側で一番手前の席に座っていた銀髪の青年が立ち上がり、書類の読み上げを始めた。立ち上がる時、心なしか俺の方に視線を向けていたような気がする。青年の頭部には人狼族に特有な狼の耳の代わりに一本の太い角が生えている。


「民族連合副代表、鬼人族のルイと申します。姓は御座いません。少数民族居住区の住民は今日に至るまで共助に当たりながら政府の提供する仕事に従事してきました。しかし、残念ながら我々と貴方がたの間には許容し難い壁がある。我々の人口と人狼族の人口はさほど変わらないというのに、貴方がたがこの議会の議員定数10人中8人を独占していることもそうです。我々の提案は必ず多数決という名の暴力で無かったことにされてしまう。だからこそ、我々は今日に至るまで議会を欠席してきた。しかし、今日は貴方がたと理解し合える可能性に賭けてみたくなった」


 青年の声は後半になるにつれて少しずつ震えていき、その真っ直ぐな目で女王を見つめていた。


「これが私がこの議案を出した趣旨です。それでは具体的な提案についてお話を......」


 と、ルイが話出そうとした瞬間、勢いよく扉が開いた。メアリーと同じ遅刻者だろうか。ルイが座っている先の向かいにある空席を見ながら俺は考えた。


「ルイ、探したよ。こんなところで何をやっているんだ」


 そう叫び、突如としてルイの胸倉を掴みに行ったのは、ルイによく似た大きな角を持う金髪の青年であった。ルイとよく似ているが、彼よりも少し声が低く、大人びて見えた。


「......私が議案の説明をしている所です。議会への出席意思がないのであればお帰り下さい」


 金髪の青年に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられたルイは目を逸らしながらもはっきりとそう言った。


「このようなふざけた茶番に付き合って何になる!? 恥を晒すだけだろう! 帰るぞ」


 どうやら、力においては圧倒的に金髪の鬼人の方が勝っているらしく彼は胸ぐらを掴んで持ち上げていたルイを突如、地面に叩きつけ、倒れた彼を背負い、そのまま部屋を退出しようとした。


「民族連合代表ユード、ここは公正な議論をするために設けられた議会。身内であるからといって、議員の一人にそのような真似をすることが許されると思って?」


「ふんっ。だったら何故、私がルイに掴みかかった時に誰もルイを助けなかった? 一、二......この部屋には八人も警備兵がいるじゃないか。それに、シャーロット・ネヴィル、滑稽過ぎて笑いが止まらないからやめてくれよ。与えられた議会で女王気取りをするのは」


 そう言い残すとルイを背負った、名をユードと言うらしい彼は部屋を去った。追いかけるものは居なかった。

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