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138 転移


「いや、だから、魔界に行ってソフィアを連れ戻して来よっかなって。ほら、ソフィアを連れ戻せたら魔族の戦力を削ぐことにも繋がるだろ? 魔法を撃つための魔力なら此処にあるから」


 と、俺はソフィアに貰ったペンダントを取り出し、皆に見せる。


「ねえ、オルム。アイツが居なくなったショックで頭おかしくなっちゃったんじゃない? 分かってる? 既にアンタはその女にフられたのよ?」


 厳しいお言葉である。


「てか、アンタみたいのが魔界に行ってもその辺で野垂れ死ぬのがオチよ。さっきも言ったけど、転移魔法は正確な座標を指定出来ないの。アイツのところに辿り着く前に殺されちゃうわ」


「ある程度のことならこのペンダントが守ってくれる」


「いや、とは言ってもそれ、自動防御機能が備わってるだけでしょ? それを触媒に魔法を打つのは魔法の才能がなさすぎて無理ってアンタこの前、ボヤいてたじゃない。足も早くないから逃げるのも無理だろうし、反撃もできないんじゃ、いくら相手の攻撃を防げても焼石に水よ」


 フランの指摘を受けて、俺は沈黙する。駄目だ。気の利いた論理的な反論が思いつかない。そもそも、俺の提案自体、実益の視点ではなく感情論から生み出されたものなので当然なのだが。


「そんなに言うならガキンチョが付いてってやれば良いんじゃねえの」


 突如、俺達のやりとりを見守っていたサイズがぶっきらぼうにそう言った。


「は? 何で」


「魔界のことに詳しくて、戦闘能力も高いのがお前しかいない」


「じゃあ、アンタの横に居る吸血鬼は何なのよ」


 フランはエディアへとジト目を向けながら言う。


「エディアにはギルドマスターというそれはそれは大切な仕事があんだよ。それと、さっき国の対吸血鬼対策要員としてやっていくことが決まったばかり」


「それで言うなら私も色々と忙しいわよ!」


「そうなの? 爺さん」


「いや、特には......」


「爺!?」


 予想外のルドルフの裏切りにフランは甲高い声を上げる。


「失礼を承知で申し上げますが、爺はこの人間の提案、悪くないと思います。姫様はこの提案に乗るにせよ、乗らぬにせよいずれは必ず魔界に戻り、不死族の地を解放しなければなりませぬ。その為にも『首切り魔王』を悪魔達から離反させることは重要。そして、それは残念ながらこの小僧にしか出来ぬように思えます。それに姫様の力を以ってしても、大結界を超えるのは困難でしょう。それも人間界に逃げるならまだしも、魔界に攻め入るなら尚更。小僧の魔道具の魔力を使って転移し、内部に入り込めるなら此方としても好都合というもの」


「......へぇ」


 フランは面白いものでも見るかのように少しだけ笑みを浮かべ、ルドルフのことを見つめた。


「な、何でしょうか」


「いや、曲がりなりにも爺がアイツとオルムのことを信じてるのが面白いなあと思って。確かにアイツを悪魔側から引き剥がすことが出来るのは、オルムしか居ないでしょうね。一回、フられてるけど」


「何回も言うなよ。言っとくけどな、ソフィアがああいうことするの、俺はもう慣れっこなんだからな。家出娘みたいなもんだと思ってる......」


 と、楽観的なことを言ってみるが今回の彼女の『家出』はいつもと少し性質が違う。あの時、彼女は悪魔の長という圧倒的権威の命令に抵抗していた。そして、抵抗した末に俺の命と引き換えに魔界へ帰還するという契約を引き出した。あの時の彼女は契約や命令を盲信するのではなく、主体的にあの結末を選んだのだ。

 そんな彼女の決心を踏み躙り、俺が彼女を迎えに行ったらどうなるだろうか。タナエル、だったか。あの悪魔の長は彼女の身体を操ることが出来ると言っていた。俺が彼女に会いに行けば、操られた彼女に俺は殺されるかもしれない。そんなことになれば彼女は......。


「ま、別にガキンチョが嫌だってんなら俺がついて行ってやっても良いぜ。魔界のことは何も分からんが、オルムのボディーガードくらいにならなってやれる」


「ちょ、サイズ......!? それなら僕が行くよ」


「良いんだよ。オルムには色々と借りがある。主に惚れた女方面で」


 はっ、とにこやかに笑うサイズに俺は苦笑を返した。苦笑ではあるが、笑うと少しだけ気分が晴れた。


「......でもアンタそんなに強くないじゃない」


「それはそう」


「私も弾丸の補給がない場所での長期間の活躍は難しいな。しかし、オルムと誰かを魔界に送るという案にはある程度賛成だ。連絡用の魔道具を持たせれば魔界の情報をある程度、此方に流すことも出来るだろうしな」


「私も別段、反対は致しません。オルムさん達はクリストピアや三勇帝国を裏から崩壊させた実績がある。魔界でも同じ役割をしてくれれば此方側の防衛も楽になるでしょう。アンネリーさんはどうですか。得意でしょう。潜入とかそういうの」


「あなたを一人にしたくない」


「ええ......」


「ねえ、何でどいつもこいつも恋愛しか脳にないの!? ソフィアを連れ戻そうとするオルムも! 庇い合う勇者連中プラス吸血鬼も! 良いわよもう! 私が行くから!」


 と、フランは叫ぶ。アデルやフェルモは冤罪だが、確かにそれ以外のメンバーは恋愛感情が意見に絡んでいたことは否定できない。特にアンネリー。


「あのごめんなさい。何か急に話進んじゃってるみたいですけど、一応、議長に確認取っていいですか。フランチェスカ殿とか貴重な戦力なので抜けられると困るかな、みたいな感じでその......」


「クララはすやすやお昼寝中でしょ。それに勇者連中と違って私やオルムは国家権力に縛られるような立場じゃないわ。好きにさせて。ほら、吸血鬼、早く魔法使いなさい」


 天邪鬼というか何というか、クロードの発言が逆にフランをやる気にさせてしまったらしかった。


「え、あ、はい。オルム君、本当に良いんだね? 帰りはサポート出来ないよ?」


 と、エディアが聞いてくる。正直、ソフィアの決意を踏み躙ることになるんじゃないかとかその辺の気持ちの整理は付いていない。しかし、


「ああ。頼む。帰りはソフィアと一緒に大結界でも超えて帰ってくるよ」


考えるよりも先に俺の口はそう言っていた。


「分かった。フラン君も、一緒に行くという認識でいいね」


「ええ。構わないわ」


 エディアはコクコクと何度か頷くと、ゆっくりと俺に近付き、右手で俺のペンダントに触れた。大きな青色の魔法陣が床に浮かび上がる。それを見て、フランも魔法陣の内側へ入ってきた。


「目的地はどの辺りに設定したらいいかな」


「南にズレ過ぎて大結界のど真ん中にでも転移したら笑えないから出来るだけ北でお願い。悪魔領のね」


「分かった。オルム君、そのリボンからも魔力を吸い取って良いかな」


 エディアは俺のペンダントに右手で触れながら、左指でソフィアのリボンを指差した。先程からずっと俺が握りしめていたせいで少し、皺が出来てしまっている。


「あ、ああ。頼む」


 と、リボンを彼女に渡そうとすると、彼女は『いや、君が持ったままで良い』と、左手でそれに触れた。


「オルム、お前なら大丈夫だとは思うが、死ぬなよ?」


「ああ。一応、人類の危機においてフランという貴重な戦力を借りていくんだ。ある程度貢献させて貰うよ」


「姫様、どうかご無事で。勿論、爺は姫様のことを信じていますが、もし何かありましたら姫様の命を優先なさって下さい......!」


「んー。ま、滅多なことがなければ私は負けないから安心しなさい」


「あ、危ない危ない。渡すのを忘れてたよ。はいこれ」


 一体、何処から出したのだろうか。アンネリーが突如、石のような物を俺の方に投げてきた。俺は慌ててそれをキャッチする。持ち手の付いていない、丸い手鏡だった。そして異様に分厚い。


「何これ。餞別?」


「みたいな物だよ。持ち手の魔力を根こそぎ持っていく代わりにどれだけ距離が離れていても会話が出来る魔道具だ。以前、暇つぶしに一組だけ作った」


 と、彼女は俺が今しがた受け取った魔道具と同じものを此方に見せてきた。アレが一組の魔道具のうちのもう一対らしい。というか、そんな貴重なものなら投げないで貰いたいものだ。


「あー、ソフィアが使ってたやつみたいな......」


「あれ程小型化は出来ていないけどね。何か問題があったり、有益な情報が手に入ったらそれを使って教えて。あなたのペンダントの魔力を使えば使えるはず。無闇矢鱈に使うのはオススメしないけど」


「了解。ありがとう」


「一応、向こうに着いたら無事に着いたかだけでも確認させて頂いた方が良さそうですね。それってボク達の方からも通信出来るんですか?」


「勿論。そうだね。転移魔法を使って10分したら、確認のために通信をしよう。かなりの魔力をかき集めないといけないだろうけど、これだけ勇者が居たらどうにかなるだろう」


 そんなアンネリーの声が早くも聞き取れなくなってきた。視界がゆらゆらと揺らぐ。足が震える。頭がズンズンと痛む。


「なあ、転移というより立ち眩みっぽいんだが大丈夫なのか」


「それはアンタが魔法に耐えれてないだけ。大丈夫よきっと。生命に危機が及ぶレベルならそのペンダントが守ってくれるわ。......あでも、その前にペンダントの魔力が底を尽きるかもしれないけど」


 フランのえらく恐ろしい言葉を聞きながら俺は意識を手放した。

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