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123 記憶


 何故、自分が今、此処に居るのか、幼い頃の自分はそんな疑問を持ったことはあっただろうか。もしかしたら、気まぐれにそんな疑問を抱いたことはあるかもしれないが、少なくとも、今の自分にその記憶はない。

 気付いたら、自分が居て、彼が居た。それまでの記憶は靄がかかっているどころか、一切、何も思い出せない。でも、それでも良かった。幸せだったから。過去の記憶が無かろうと、現在の自分には関係ない。新しい記憶を紡いでいけば良いのだから。


「遅れちゃったね。皆、怒ってるかな」


「お前が何でもかんでも興味示すからだぞ......まっ、オルムやガキンチョ達のことだし、怒りはしねえだろ」


「そっか......」


 何故だろう。その夜は妙に胸騒ぎがした。


「......おいエディア、何か宿の方、光ってねえか」


「あ、本当だ。花火でもしているのかな。てか、サイズは勇者なのに視力はあんまり良くないんだね」


「勇者つったって、何の経験も詰んでねえしな。もしかしたら、魔力とかをこう、上手く目とかに巡らせたら視力を上げたりも出来るのかもしれねえが......分かんねえ」


「成る程。そこら辺、アデル君は詳しそうだよね」


「アイツはエルフでもあるしなあ。エルフって視力良さそうなイメージある」


「確かに」


 そんな会話をしている間にも何故か、妙に心がザワつき、目の前の彼との会話に集中出来なくなってきていた。


「ま、取り敢えず、急ごうぜ。宿まで走るか」


「......ああ」


 緊張感にも、焦燥感にも、苛立ちにも近く、絶妙に異なる感情が吹き出るのを感じながらもサイズの後を追う。

 そうして、宿の前に着いたとき、目に入ってきたのは見慣れない蝙蝠の様な羽を背に付けた男と戦うフランチェスカの姿だった。


「っ、やっと、来たか。......にしても、増援は厄介だな。姫様がこんなにやるとは正直、思わなかったよ」


 僕達......いや、僕の横に立つサイズの姿を見てその男はそう言った。どうやら、八つ首勇者とフランチェスカが狙いらしい。

 そして、二人が槍と斧で激しい戦いを繰り広げる中、そのすぐ近くに四肢を拘束されて放置されているドミニク氏の姿もある。


「これは一体......どういうことなんだ」


「おいテメエ、此処にオルムやアデル達も来たよな! アイツらは何処だ!?」


「さあね。自分で考えなよ。勇者なんだろ、サイズ君」


「チッ。ガキンチョ......ソフィアは何処だよ!?」


「アイツは裏切った! この吸血鬼とグルだったのよ! アンタも早く参戦して! エディアだっけ!? アンタは早く逃げて!」


「......分かった! 鎌がねえから大した力は出せねえが!」


 一瞬、驚愕と当惑の表情を浮かべたものの、彼は直ぐに剣を抜くと吸血鬼であるという槍使いの男へと斬りかかった。


「......そ、ソフィア君が、うら......」


 彼女への疑念がない訳ではなかった。一度、彼女はサイズを殺そうとした。しかし、彼女は自分の意思で思い止まった。自分への戒めとして、剣を自らの腹に刺すことまでした。

 だから、思うところがありながらも彼女を信頼していた。しかし、此処で裏切り......。


「どうぞ」


 その次の瞬間、バタンと宿の横の建物の扉が開いた。そして、それと同時に扉の中からサイズの足元を目掛けて巨大な鎌が飛んできた。


「うおっ!? て、ガキンチョ......!? オルムも生きてたか!」


 恐らく、その鎌を投げたであろう人物は男に身体を抱き抱えられた状態で扉の向こうから現れた。


「契約者......もう立てます。降ろしてください」


「分かった」


 生死不明であったオルムと吸血鬼と結んで我々を裏切ったというソフィア、その二人の登場に場が静まり返った。どうやら、吸血鬼にすらこの状態は予想外の様で彼はサイズとフランチェスカへの攻撃を止め、呆然とオルムとソフィアの方を見ていた。


「んんっ......ディーノ、ソフィアは此度の計画を降ります。更に貴方に対して抗議を行うとともに、計画の中止を求めます」


 軽く咳払いをしたソフィアは神妙な面持ちでディーノという名前らしい吸血鬼にそう言い放った。


「はあっ? 何言ってんのお前。降りるって何だよ。そんなの認められる訳ないだろ!?」


「ソフィアは言いました。貴方に抗議をすると。......貴方は先程、其処の不死族に対して、契約者を巻き込む形で攻撃を行ったらしいですね。ソフィアと契約を交わしている彼は立派な悪魔への協力者。そんな彼への攻撃に対し、ソフィアは抗議を行います。当然、これ以後の協力も出来かねます」


「チッ。馬鹿じゃねえのお前! それでもお前は悪魔の技術革新の結晶かよ! そんなただの人間を理由に吸血鬼と悪魔との関係にヒビを入れるなんて正気の沙汰じゃない。悪魔の長はたいそう、お怒りになる筈だ。そんくらい、分かるよなあ!?」


「......承知の上です」


「だったら、どうして......!」


「ソフィアが貴方を嫌いだからです。加えて言うと、ソフィアが契約者を好きだからです」


「......おまっ、は? ごめん、もっかい言ってみな。僕の耳が腐り落ちてたかもしれない。じゃなければ、君は脳からケツまで腐り切ってる」


「......ん? あ、え、ソフィア、今何言った?」


 奇しくも同じ反応を示すディーノとオルム。


「この吸血鬼のことがソフィアは嫌いで、貴方のことが好きなので、貴方達に味方する、と言いました。......どうせ、自らの存在意義を否定した私の人格はまもなく消えるでしょう。早めに言っておきたくて」


「......ああもう、この下等生物達がっ! 人間も! 不死族も! 悪魔も! 脳無しばっかだ! 何年、何十年、何百年の時を、八つ首を皆殺しにする機会を、僕が待ったと思ってるんだよ! 良いさ。お前ら全員、殺してやる!」


 彼が槍をブンとソフィアに向けた瞬間、僕の視界は突如、暗転した。


「......収穫だ」


 そんな声を最後に僕の意識は消えた。


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