120 作為
俺はギルドの方へ走った。間違いない。やはり、ギルドの入り口で腕を組みながら立っているのは俺の顔見知りだ。
「......ん? おおおおっ!? あの時の少年じゃねえか。オルム......オルム・パングマンだよな、確か」
と、大きな声で俺の登場に驚いてくれたのは黒いシルクハットを被り、無精髭を生やした男性、ユリウスであった。
クリストピアの内戦や、三勇帝国での革命などで世話になったクララの側近であり、俺達の街の元兵長である。
「ああ、久しぶり。三勇帝国ぶりだな、出世したか」
「いんやあ? 未だにクララ嬢の使いっ走りだぜ? ま、それで良いんだが。今日もユクヴェルのギルドや首脳との交渉に駆り出されてる」
「大変だな......」
「そんで、黒髪の嬢ちゃんは?」
「ソフィアも一緒に来てるよ。ソフィアだけじゃなく、フランやルドルフ、アデルにアンネリーにフェルモも......」
俺の言葉にユリウスは目をまん丸にした。
「はー? 何だよお前ら、ユクヴェルに戦争でも仕掛けるつもりか?」
「いやほら、クララがユクヴェルへの旅行を俺達にプレゼントしてくれただろ? それがたまたま、同じタイミングになって......」
其処まで言えば、ユリウスは全て『成る程』と理解してくれると思っていた。
「んー? 何だそりゃ? クララ嬢そんなことしてたのかよ」
と、ユリウスは首を傾げる。
「は? え、ユリウス知らないのか?」
「知らねえなあ。......てかそれ本当にクララ嬢のやったことなのか? 詐欺とかじゃねえだろうな」
「......は?」
ユリウスは小さく溜息を吐き、口を俺の耳元に近付けてきた。
「実は今の臨時政府、色々とやべえんだよ。牢に入れてたデレックスが何者かに殺されちまってな」
「はっ......!?」
デレックスが殺された、という衝撃の事実とどうやら口外無用の秘密を打ち明けられてしまったらしいという事実に俺は思わず声を漏らしてしまった。
「あー、まあ、既に噂になっちまってるからそのうち、発表があるだろうし、別に大した国家機密ではないから安心しな」
「いや、でも......」
「デレックスの野郎、腹にデケェ穴が空いてたんだとよ。壱と参の勇者の死に方と一緒だよな」
「......悪いユリウス。クララに連絡とか出来るか」
「んー? まあ、出来るが。ちょっと通信に時間かかるぞ」
「良いから頼む」
「......了解だ」
それから十分後、やっと通信が安定したとかで水晶玉のような魔道具を通じてクララと通信が繋がった。
『あ、オルムさん、こんばんは。急に連絡来たからびっくりしましたよ。......なんですかその顔、何か不味いことが?』
「クララ、俺達に旅行とかプレゼントした?」
『え知りませんけど』
「クロードが勝手にやったとか」
『やりました? クロード』
『いえ、ボクは何も』
『とのことです。もしかして、クララクララ詐欺にでも遭いました?』
「悪い、詳しくは後日、話す。ユリウスもまた後でな」
『え? 何ですか!? 大丈夫ですか!?』
「ちょおい、少年!」
クララとユリウスの声を無視し、俺は宿へと走り出した。
「ソフィア! ソフィア、聞こえるか!」
ペンダントに向かってそう話しかけてもソフィアからの返事はない。
「あ、オルム、トイレ終わったー? 長かったわね。てか、急に走り出さないでよ。アンタを一人にしたらアイツに怒られそうだからギルドの中で待ってたのよ?」
「ああそりゃ良かった。さっさと宿へ......フラン?」
宿へと走る俺の横をいつのまにか走っていたフラン。俺は彼女の姿が天使か女神か何かに見えた。
「え、何よ」
俺は急に立ち止まると、フランの目を見て言った。
「俺を宿へと全速力で運んでくれ。空を飛んでくれて良い」
「は? 急に何」
「詳しくは上空で説明するから! 早く! 緊急事態!」
「......分かったわよ」
そう言ってフランは俺の体を背負い、浮上した。
「フラン、もしかしたら結構、お前のこと頼るかもしれない」
「......おっけ」