11 ギルドマスター
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「ほい、お兄さんとお嬢さん! きちんと詰めといたよ。また来てね!」
「あ、ああ......ありがとうございます」
俺はパン屋の青年からパンの入った袋を受け取ると、再度謎の銀髪少女を見た。
「ベーコンエピとカレーパン、貰えるかな?」
「お、りょーかい」
銀髪少女は俺にニコリと笑い、青年からパンを買った。
「ここのパンは美味しいからね。たまに来るんだ」
銀髪少女はベーコンエピとカレーパンの入った紙袋を此方へと見せて言った。優しそうで穏やかな雰囲気の少女だが、腹に一物抱えていそうな気がするのは気のせいだろうか。俺の横でソフィアは何かを感じ取ったのか銀髪少女を睨み付けている。
「あの、どちら様ですか?」
俺は少し警戒しながら、店を離れて聞いた。俺の記憶が正しければ彼女と会うのは初めての筈だ。
「ああ、そうだったね。僕の名前は」
少女が名乗ろうとすると、突然誰かが彼女の頭に手を乗せた。
「このガキんちょ二号の名前はエディア・エイベル。これでもこの街のギルドのギルマスなんだぜ」
俺が声の主の方に視線を向けると、其処には見覚えのある男がいた。
「サイズか」
「おう。オルムにガキんちょ。さっきぶりだな」
ガシガシと銀髪少女の髪を触りながらサイズは言った。なにやら機嫌が良さそうだ。
「ちょ、ちょっとサイズ! 僕の台詞を盗らないでくれよ」
銀髪少女......いや、エディアは頬を膨らましながら抗議の言葉を口にする。
「はいはい。ごめんな。じゃあ、俺は改心したから全うな冒険者としてお前をギルドにつき出すよ」
「んな。卑怯だ! 彼処に帰ったらサーラに仕事を山のようにやらされる......」
この世の終わりみたいな顔をしてエディアは呟く。自業自得な気がするが。
「確かあのギルドマスターの秘書、ギルドマスターにはキツく言っておくとか」
「やめてやれ、ソフィア。ギルドマスターが真っ青になってる」
「......サイズ、今日家に泊めてくれない?」
「無論、却下」
「薄情者~!」
二人の掛け合いはまるで物語のように息が合っている。二人の付き合いが浅くないことを想像するのは容易だ。
「あの、二人の関係が全く分からないんだが......」
仲が良いということは分かる。しかし、それ以外は不明だ。そもそもただの冒険者であるサイズとギルドマスターであるエディアが付き合っていると言うのは一般的に考えて可笑しい。ギルドマスターは本来、貴族にも並ぶような存在の筈なのだ。まあ、無職の男の前に美少女魔族が現れるくらいなのだから一概には言えないか。
「俺とコイツ......か。何て言ったら良いんだろうな」
「難しいね。僕とサイズは......そうだな。言ってしまえば幼馴染みみたいなモノだよ。といっても、知り合ったのは8年前で幼児の頃から一緒ってワケでもないんだけどね。あ、僕はこう見えても20歳。サイズが21で殆ど変わらないんだよ?」
エディアの年齢には単純に驚いた。彼女の容姿は若干ソフィアよりも若くない程度のもので俺よりも年下な感じがする。これで俺より二つも歳上とは......いやはや、この世界は複雑だ。
「ま、そんな感じだな。だから、冒険者とギルドマスターというより友人と友人の関係で会うことが殆どだ。それよりエディア、お前オルム達に聞きたいことがあったんじゃねえのか?」
「おっと、そうだった。じゃあ、ギルドマスターとして色々と聞きたいことが有るから聞かせて貰っても良いかな。勿論、答えづらい質問を無理に聞こうとはしないから」
エディアは思い出したように手を叩くと、笑顔でそう言った。
「俺は外した方が良いか?」
空気を読んで、サイズが別のところに行こうとするとエディアは首を横に振ってそれを止めた。
「構わないよ。今から話すのは黒牙猪についてだ。寧ろキミが居た方が都合が良い」
「了解っと」
軽い口調でサイズはそう言うと、手をボキボキと鳴らして伸びをした。
「キミ達については大体、サイズから聞いたよ。何でもオルム君は元兵士でソフィア君は記憶喪失でその二人が手を組んでるんだって?」
「いや、手を組んでいると言うよりは......」
「契約です」
俺が言い終わるよりも早く、ソフィアは断言した。
「契約?」
「はい。記憶喪失だったソフィアはオルムに拾われました。その恩を返すためにソフィアはオルムと契約をしたのです」
「それは、どんな?」
「端的に言えば、記憶喪失で右も左も分からないソフィアをこの国で生きていけるように知恵を契約者から貸していただく代わりにソフィアがこの力を契約者のために使うと言うものです」
ソフィアは自分に任せておけと言わんばかりにエディアの目を見つめて俺達の関係と契約について語った。
「ソフィア君はこの国の言葉を話せているようだけど、どんな記憶を失って逆にどんな記憶を覚えているのかな?」
「言葉の意味や、概念等は基本的に覚えています。意味記憶と呼ばれるモノですね。ですが、その代わり自分に関する記憶......エピソード記憶は殆ど欠如しております。覚えているのは自分の名前、力の使い方程度のものです」
個人的な会話ではなく、説明的な会話だからなのかソフィアは驚くほどスラスラと説明をしていく。これも『契約』に大きく関わる部分なので真剣になっているのだろう。
「成る程......ソフィア君。キミは今朝、黒牙猪を素手で倒したんだろう? ねえ、サイズにオルム君?」
「ああ、見たな。ガキんちょが居なかったらヤバかったぜ」
「はい、ソフィアは素手で黒牙猪を倒してました」
その言葉を聞いたとき、エディアの目は一段と鋭くなった気がした。彼女の雰囲気がガラッと変わる。
「良いかい? 黒牙猪というのは王都にいる金製や銀製のメダルを持った冒険者が数人がかりでやっと勝てるような魔物なんだ。それに、黒牙猪は鋭い牙だけが有名だがその皮膚は剣の刺突を物ともしないくらい硬い。でもサイズが持ってきた黒牙猪は確かに皮が破れていたよ。キミが素手で倒したと言うことは信じざるを得ないね」
「......何を言いたいのでしょうか?」
ソフィアはエディアを睨み付ける。すると、エディアは少し同様したように体を震わしながら『簡単だよ』と言った。
「ソフィア君に今、睨み付けられて僕は体が硬直してしまった。直ぐにソフィア君が止めてくれたから良かったけどね。こんなに強い力を持っている人が居れば普通、容姿や名前がギルドマスターである僕の耳にも届く筈だ。でも、僕はキミを知らない。そこで思うんだよ、その力は訳アリなんじゃないかって」
「訳アリ? そんなことは無いと思いますけど」
俺はエディアの推理を聞き、心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも冷静を装い、そう言った。カリーナのときと同じことをするつもりはない。
「本当かい? 僕にはそうは思えない」
「本当です。ギルドマスターが冒険者を信じられないのですか」
ソフィアは低い声でエディアへと聞く。しかし、一方のエディアは依然として不気味な笑顔を浮かべている。
「ギルドマスター、だからこそ怪しい冒険者には注意しないといけないんだ」
「お、おい。エディア? ちょっと、疑い過ぎじゃ」
「サイズは黙っていてくれ。引き留めた分際で何を言うか、と思うかもしれないがキミを引き留めたのはあくまでソフィア君が素手で黒牙猪を倒したというのは本当かという話の再確認をしたかったからなんだ。すまない。此処からはギルドマスターとしての僕を通させて貰う」
エディアはサイズにそう言うと、頭を下げて俺達の方に向き直った。
「......ギルドマスターとしてのお前は好きじゃねえ」
そんなエディアを見て、サイズは大きな舌打ちをした。
「話が脱線したね。もし、ソフィア君の力が後ろめたいモノだとしたら当然それを隠すためのカバーストーリーを真実とは別に作るだろう。そう考えると記憶喪失ってのは、とても都合が良い気がするんだ」
笑ってしまいそうな程に、俺達の考えをエディアは当ててきた。まだ繕う余地は有るだろうか。
「後ろめたいモノ。例えばどのようなものでしょうか」
「そうだなあ......例えば、ソフィア君が魔族だとか」
ソフィアの質問にエディアはわざとらしく腕を組み、ニヤリと言った。