106 安息
「サイズー!」
「うぉっ!? ビックリしたあ......帰ってきたのかお前」
懐かしい親友の顔を見て、俺はつい、抱きついてしまった。
「マジで、ホント......やばかったあ......」
「話はエディアからある程度聞いてる。俺達と別れた後、クリストピアの内戦に巻き込まれて、その後、三勇帝国に派遣されたんだって?」
「そうだよ! エルフの村の一件に勝らずとも劣らない地獄を見て来たんだからな! アデルも何か、再登場してきたし......俺は殺されかけるし、辛かったよお。ああああ! 辛かったよおサイズう」
「おい、ガキんちょ、お前の契約者様の精神が完全に崩壊してるぞ。どうにかしてやれ」
「契約者は長らくホームシックのようなものを抱えていました。今の契約者には親友である貴方が必要です」
「......エディアも呼んで飯でも食うかあ」
⭐︎
「と、いうことで集まった訳だが......」
「ねえねえ、貴方、肆の勇者なんでしょ? 一戦交えなさいよ!」
「誰なんだコイツは」
積もりに積もった長旅の話を聞かせるため、また、二人の友人の声を久し振りに聞くため、俺達はサイズとエディアを自分の家に招待した。が、実際にその空間に居たのは俺とソフィア、サイズとエディアの四人だけでは無かった。
「不死族の姫、フランチェスカ・アインホルン。コイツのことを二度も追い詰め、殺す寸前までいった実力者よ!」
と、この短期間でお馴染みの顔になってしまったフランはソフィアを指差しながら、サイズとエディアに言った。
「まーた、面倒臭いのを連れてきやがったな」
「ソフィア君のことを殺す寸前までいった、ってどういうことなの......」
溜息を吐きながらサイズとエディアは苦笑した。
「ソフィアは悪魔、これは不死族。この二種族は魔界を巻き込んで巨大な戦争をし合った敵同士です。そのため、これとソフィアは激しく対立しているのです」
「サイズ達と別れた日の夜、コイツが襲撃してきたんだよ。何か、技術的にはソフィアと同じ存在らしくてな。伍の勇者の体の一部を元に作られたんだと」
そんな調子で俺とソフィア、そしてフランは三人の関係とこの長旅の道中で何があったかについて二人に話した。
「オルム、大変だったんだな」
「いやあ、オルム君、国王陛下やら騎士団長やら、とんでもない方々と交友関係持って帰ってきたんだね......ギルドマスターとかいう職業が霞んで見えるよ」
そして、俺達が話終わると二人はそんな言葉を掛けてきた。
「てか、何でそんな対立しながらもガキんちょとガキんちょ3号はつるんでるんだよ」
「ガキんちょ3号言うな」
「2号は誰なんだい? サイズ?」
「さあな」
「......王都での一件以降、オルムには頭が上がらなくなったからね。まあ、何か、成り行きもあって、コイツとは仲良くしてやってる訳。......あ、因みに今はこっちで家が見つかるまでオルムの家に居候してるわ」
「穀潰しですね」
「ぶっ殺すわよ」
「仲良いのか悪いのか、分からないねキミ達......。というか、何でフラン君までこの街に住むことになったのさ」
「魔界に居場所無いし。クララにも出来れば王都には居ないでくれって言われちゃったからね。仕方なくよ。因みに爺は今、『悪魔とその契約者の家などには泊まれませぬ!』とか言って、新居を探しながら野宿しているわ」
ルドルフの頑なさは何時になっても直らないのかもしれない。
「それなら僕が手を貸してあげても良いよ? この家も僕の紹介でオルム君の手に渡ったんだ」
「は? マジ!? お願いするわ!」
「その代わり、暗鬱の森の方で魔物が増えてるから狩ってきてね」
「ふんっ! まっかせなさい!」
フランも家が見つかりそうで良かった良かった。
「そういえば、この家の隣にも誰か引っ越してきてたよね? もう挨拶はした?」
不意にエディアが俺とソフィアにそんなことを聞いてきた。
「へ? いや、人が引っ越してきてたこと自体初耳なんだが。何でそんなこと知ってるんだ?」
「いや、横の家もギルドが管轄してる家でさ。王都の方から紹介状が来てたから、特に何も考えず格安で売ったんだよね。紹介状は本物だったから良いやって感じで、それが誰なのかは確かめてないんだけど」
「......おい、何かキナ臭くねえかそれ」
サイズがジトっとエディアを睨みながら言う。
「い、いやあ、だってほら、紹介状は本物......」
「王都って内戦の後で今、色々とゴタゴタしてるんだろ。その紹介状もそんなに信用出来ねえかも知れねえぞ?」
「......あうう」
弱気になるエディアを見て、ソフィアが突如、席を立った。俺はどうしたのだろうと彼女の方に視線を向ける。
「であれば、確かめに行けば良いだけの話です。行きましょう、契約者」
「お、おう!」
ということで、ソフィアの行動力に驚きつつも俺達はソフィアに付いて行く形で右隣の家を訪ねた。前までは無人だったのだが、言われてみれば確かに人の気配がする気がする。電気とかは特に付いていないが。
ソフィアは静かに扉の横に付いていたインターフォンを押した。すると、意外と直ぐに返事がきた。
『何方でしょうか』
男の声だった。聞き覚えがあるような、無いような。
「隣の家の者です。ご挨拶に伺いました」
『あ、すみません。此方こそ、色々と忙しくて挨拶に伺えていなくて......今、伺いますね』
と言って、男がインターフォンの通話を切ると家の中からドテドテという足音が聞こえてきた。そして、ガチャリと扉が開く。
「おはようございます。私、数日前に越してきましたフェルモ......あれ?」
此方を見て目を丸くするその青年には見覚えがあった。
「おや、お客様かな? ああ、貴方達か。驚いた? クララに手配して貰ったの。......あ、貴方も八つ首だね。『サイズ』だっけ。オルムから聞いてるよ」
「おい......! エディア、誰だよコイツら!?」
「ま、待ってくれ! 知らないよ! 僕は紹介状通りの家を手配しただけで! というか、オルム君達の知り合いなんだろう!?」
「「・・・・」」
俺達は沈黙しつつ、顔を見合わせた。家の中でもその服装なのかよとツッコミたくなる黒パーカーの少女とパジャマのような服を着ている青年。間違いない。
「フェルモ・アハト・カブールと申します。先の三勇帝国におけるクーデタで軍に捕縛され、その後、行方不明となった男です」
「アンネリー・アハト・クライン。ただの研究者」
「......エディア・エイベル。地方ギルドのマスターだ。宜しく頼む」
「知ってるみてえだが、サイズだ」
「というか貴方、アハトはどうしたの? それに八つ首なら姓はあるよね? 肆は確かアーベ......いや、今のはデリカシーが無かった。サイズ、宜しくね」
何かを察した様子で黒パーカーはサイズに謝り、彼と握手をした。フェルモが元気そうなのは何よりだが、何故、彼は彼女とこの街に越してきているのだろう。
俺達は彼を気の毒に思いながらも合掌をして、彼の存在を記憶から消し去っていたのだが。まさか、こんな形で再会を果たすとは。