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105 急報


「アンネリーは?」


「伍の勇者様を使って実験中です」


「やっぱり、連れて帰ってこなかった方がよかったかな。人として......」


 フロレンツィアの返答を受けて俺は苦笑した。壱と参に逃走経路の使用を禁じられていたり、自ら投降したりと、伍の勇者は三勇者の中でも明らかに異質だった。対応も二人と比べ紳士的だったし、そんな彼をアンネリーの玩具にするのはあまりにも気が引けた。


「それにしても作戦は失敗か......」


「申し訳ありません」


「良い。ディーノ、と言ったか。その魔族の介入は予想外だった訳だしな。魔族と勇者が相手では分が悪いだろう。此方の主力は弍の勇者一人なのだし。ディーノと三勇者の関係について、伍は何か吐いたか?」


 頭を下げるソフィアにコルネリウスはそう問う。ソフィアとフランの正体について彼が知らなくて良かった。


「それがあの勇者、めっちゃ協力的でね。あっさり吐いてくれたわ。数年前から勇者達の非常勤の護衛役として雇われてたんですって」


「......かなり前からこの国に潜り込んでいた訳か」


「コルネリウス様、如何致しますか?」


「どうするもこうするも、壱と参が野放しの状態で蜂起など出来んだろう。するなら、フロレンツィア殿らの単独蜂起という形で頼む」


「......我々としてもこの状態での放棄は現実的ではないかと」


 フロレンツィアの屋敷の客間に重苦しい空気が立ち込めていたところ、突如、鋭いノックの音が鳴り響いた。


「......っ!? どうぞ! お入り下さい!」


「失礼します! て、帝都から6キロメートル程離れた地点で壱、及び弐の勇者の死体が発見されました! 両死体にはいずれも腹部に穴が空いており、なんらかの武器で貫かれたものと思われます......!」


「それは何処からの情報だ。確実に信頼出来るのか。妨害工作の一環という可能性は」


 コルネリウスは慌てることなく兵士に聞く。


「はっ! コルネリウス司令官の仰る通り、敵が此方の混乱を狙い、虚言を流布している可能性も御座います! しかし、この情報は帝都周辺で活動をしているレジスタンスの精鋭達から通信用の水晶を使って届けられたものでして、決して無視出来るものではないかと! それに加え、その情報が何処からか漏れ出し、帝都の民衆は混乱状態に陥っているとのことです!」


 息を切らしながら噛むこともなく膨大な情報を伝えてくれた兵士。俺とソフィア、アデルにフランは彼の言葉を聞いて顔を見合わせた。


「腹部に穴、ってまさか......んなことないわよね?」


「仮にその仮説が正しいとすれば、彼は鈍っているとはいえ八つ首二人を同時に相手し、圧倒出来る程の力を持っていたことになりますね」


「そもそも、人間界侵攻を考えているらしい悪魔や吸血鬼は兎も角、不死族であるヤツに八つ首を殺す理由はあるのか?」


「......案外、吸血鬼だったりしてな、アイツ」


「仮にそうならコイツに話が行ってる筈だし、コイツを襲うことは無いでしょう。同盟種族だし」


「それもそっかあ」


 ヒソヒソとそんなことを話し合う俺、ソフィア、フラン、アデル。勿論、俺達の念頭にあるのは謎の不死族、ディーノである。


「おい、四人だけで話さず我々にも話を聞かせてくれないか」


「ああ、悪いな。勇者暗殺の件だが、もしかすれば、ディーノが犯人かもしれない。ヤツの武器は槍だ」


「しかし、ディーノは勇者側の味方なのでは?」


「クリストピアの国王暗殺の疑惑も付き纏っているような、正体目的不明の魔族だ。何をしても可笑しくはない」


 コルネリウスはアデルの言葉を聞いて、うーんと唸る。


「帝都が混乱しているということですから、仮に勇者暗殺が事実でしたらまたとない革命の機会ですわね」


「勇者の暗殺自体も我々の手柄にして......か。悪くないかもしれんな。暗殺が事実なら、だが。いや、流石に暗殺は外聞が悪いか......」


 そんな会話を遮るかのようにペタペタと小さな足音が聞こえてきた。


「壱と弐、殺されたんだって? 恐らく、それ、事実だよ。三勇者は互いに連絡を取れるよう通信用の魔道具を携帯しているらしいんだが、連絡が取れないどころか二人と通信すら出来ないと伍が話している。恐らく、暗殺された時に壊されたんじゃないかな」


 地下で伍の勇者を実験(ゴウモン)中の筈のアンネリーの足音だった。


「アンネリー殿か。伍が偽りを話している可能性は?」


「......彼が私に嘘を言う筈が無いよ。ふふっ」


 何か怖い。


「確証は無いが、どのような手も少しは博打を含むもの。此処が動くべき時かもしれんな」


 コルネリウスが何かを決めたような表情でフロレンツィアを見る。


「やりましょう。コルネリウス様。アンネリー様は......」


「私はクララと連携を取る。クリストピアの後ろ盾、要るよね?」


「ああ。頼みたい」


「了解。クララと話を付けたら、私も宣伝活動に参加しよう。捌の勇者の名前はやはり必要だ。......やれやれ、これが私の最後の仕事かな」


⭐︎


 その後、正式にフロレンツィア率いるレジスタンスは蜂起した。とは言っても、それは形式上。本来、レジスタンスを鎮圧すべき軍はコルネリウスの名の下、非交戦を宣言。

 フロレンツィアとアンネリーを中心とするレジスタンスの重鎮は、既に帝都の実効支配に成功していたレジスタンスに迎え入れられ、帝都に入城した。

 レジスタンスという組織は以前から非合法であった労働組合、農業組合などに形を変えて反政府的な民衆の拠り所として存在していたため、反発する民衆は少なかった。更に言えば。労働組合にも農業組合にも参加していない国の大半を占める一般的な民衆は事実上の革命に対して一切、興味を示さなかった。

 彼らは明日生きるのに精一杯で、国動きなどを見て一喜一憂する暇など無かったのである。


「代表! ブラモースに突如、クリストピア軍が進駐を開始しましたが......!」


「・・・・」


「代表......?」


「構いません。ブラモース地方の軍には既にコルネリウス様が非交戦を指示しております。我々も手出しはせぬように」


 同日、長らくクリストピアと三勇帝国の係争地域であったブラモース地方に臨時国民議会議長クララを最高指揮官とする『クリストピア共和国軍』が進駐を開始した。

 そして、クララに臨時の外務大臣に指名されたクロードの名の元にクリストピアはレジスタンスの支持、及びレジスタンス支援の為の拠点としてブラモースに軍を駐留させることを宣言した。


「まあ、『支援してやるからブラモースは寄越せ』ってことだろうな。流石、クララ! 汚いっ!」


「契約者、その言い方は......」


「間違ってはないよ。彼方も安定しているとは言え、まだまだ国民からの信頼が欲しいところだろうからね。係争地域の事実上の併合は政府支持に一役買うと思っているんだろう。......私が見込んだだけあるよ」


「アンネリー、お前が密約を結んだんじゃないのか?」


「いいや、私は『支援のための軍の駐留』しか認めていない」


「絶対にあーだこーだ言って、革命後も軍駐留させ続けるぞアイツ。その約束を交わす時だって、裏でクララはニヤついてたに違いない」


「言い過ぎよ、アンタ。あの子を何だと思ってんの」


「鉄の女」


「間違いではないね......」


 クリストピアの介入があったからか、『三勇帝国』が既に国際社会から見放されていたからか、あるいはその両方かもしれないが、クリストピアに並ぶ歴史を持ち、八つ首勇者という英雄の末裔が治めている国家で起きた革命に対して周辺国は無関心だった。

 無関心だったのは周辺国だけではなく、国民もであり、新しい政府が構築されていくのに対して殆んどの国民は一切、声を上げなかった。そのお陰で矢継ぎ早に帝国は解体されていき、クリストピアを見本とした臨時議会作りが始められた。

 因みに壱と弐は革命が起きてから数日後もやはり、現れることはなかった。

 

「国民が無関心なお陰で私もあまり、活躍の機会が無かったよ。これで後ろ髪引かれることなく、貴方と隠居できる」


「......隠居、の意味を一度、お調べ下さい。世間の目から隠れながら非人道的な実験をすることではありませんよ」


 フェルモは少し可哀想ではあったが、強く生きてほしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] マッドサイエンティストが表舞台から姿を消すのは偉い人側から見ると脅威だけど一人に執着してるからまあ許容範囲か?
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